【奨励賞】元・地味な令嬢ですが、婚約破棄されたので聖獣と建国します~追放した王太子と聖女は、今さら私を求めないでください~

旅する書斎(☆ほしい)

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王都への出発の日、ヴァイスランドの駅には私を見送るために、全ての住民が集まっていた。その中には、ギムリ長老やボルガンたち、ドワーフの仲間たちの姿もあった。

「エリアーナ様、どうかお気をつけて。我らは、このヴァイスランドを、そしてあなた様がお創りになる新しい国を全力でお支えいたします」

クラウスさんが、住民を代表して涙ながらに言った。

「ありがとう、クラウス。留守の間、この国を頼みます。私が戻る頃にはきっと、もっと素晴らしい国になっていることでしょう」

私は、彼らに微笑みかけると、隣に立つギムリ長老に向き直った。

「ギムリ長老、ボルガン殿。地下大動脈計画、頼みましたよ」

「うむ、任せておけ。我らが槌と魂にかけて、必ずや完成させてみせるわい」

「エリアーナ様こそ、最高の王冠、楽しみにしてな!」

二人の頼もしい言葉に、私は頷いた。そして、最後に私の足元に寄り添うシラスの頭を撫でた。

「シラス、あなたもここでお留守番よ。私がいない間、この国を守ってちょうだい」

『承知した、我が主よ。だが、主の御心は常に我と共に。何かあれば、たとえ地の果てであろうと、瞬く間に駆けつけよう』

彼の温かいテレパシーが、私の心に勇気を与えてくれる。

私は、名残を惜しむように皆に手を振ると、アルバート宰相たちと共に特別仕様の列車へと乗り込んだ。
その列車は、もはや単なる移動手段ではなかった。『シルヴァヌス・インペリアル』と名付けられたその車両は、ヴァイスランド鋼とアークから得られた技術の粋を集めて作られていた。

外装は、鏡のように磨き上げられた銀色で、太陽の光を浴びて眩いばかりに輝いている。動力源は、従来の蒸気機関ではない。アークのエネルギーを直接受信する小型の魔導エンジンだ。そのため、煙を吐くこともなく音も驚くほど静かだった。

内装は、ラルスが腕によりをかけて仕上げた最高級の木材と、マーサが織り上げたスターライトシルクの布地で飾られ、まるで走る王宮のようだった。

「こ、これが……列車……。我が国の王室専用馬車が、粗末な荷車に見える……」

アルバート宰相は、そのあまりの豪華さと先進性にただただため息をつくしかなかった。

列車は、甲高い警笛を一つ鳴らすと、滑るように静かに動き出した。その速さは、従来のシルヴァヌス号の倍以上。窓の外の景色が、目まぐるしく後ろへと流れていく。

私たちは、わずか一日でかつては数週間かかった道のりを走破し、王都の郊外に新設された駅へと到着した。
駅には、王都の貴族や騎士団が最大級の敬意をもって私たちを出迎えるために整列していた。彼らは、天から降りてきたかのような美しい列車と、そこから降り立った私の姿を見て、息を呑んだ。

私は、マーサが私のために作ってくれたスターライトシルクのシンプルなドレスを身にまとっていた。それは、どんな宝石よりも気高く輝き、見る者を圧倒するオーラを放っていた。

「……あれが、エリアーナ様……。噂以上の、女神のようなお方だ……」

誰かが、そう呟くのが聞こえた。

私は、彼らの前に立つと、威厳を込めて静かに告げた。
「私が、エリアーナ・フォン・ヴァイスランドです。これより、この国の再生を始めます」
その一言が、新しい時代の幕開けを告げる宣言となった。

戴冠式は、三日後に王宮の最も大きな広場で執り行われることになった。
その三日間で、私は休む間もなくこの国の改革に着手した。

まずは、アルバート宰相や彼が信頼する改革派の貴族たちを集め、新政府の骨子を固めた。私の掲げた、能力主義に基づく新しい官僚制度、身分に関わらない教育の機会均等、そしてヴァイスランドの技術を基盤とした産業の振興計画。それらは、旧態依然とした王国に新しい血を注ぎ込む、大胆な改革案だった。

最初は、あまりの変革の速さに戸惑っていた貴族たちも、私の示す明確なビジョンとその裏付けとなる圧倒的な知識と技術力を目の当たりにするうちに、次第に熱心な支持者へと変わっていった。

「エリアーナ様の構想は、我々が百年かけても思いつかなかったものだ」

「この方になら、この国の未来を託せる……!」
私の周りには、日に日に志を同じくする有能な人材が集まり始めていた。

また、私はガンツの商業ギルドと連携し、王都の食料問題を完全に解決した。ヴァイスランドから、シルヴァヌス・インペリアルがピストン輸送するヴァイス麦は民衆の腹を満たし、彼らの心を安定させた。

さらに、聖女ユナが降らせた「呪いの雨」によって汚染された土地は、私がアークの力を遠隔操作し大地の浄化システムを起動させることで、わずか一日で元の豊かな土壌へと再生させた。
その奇跡を目の当たりにした民衆は、もはや私を疑う者など一人もおらず、熱狂的なまでに私を新しい国の象徴として崇拝するようになっていた。

そして、運命の戴冠式当日。
王都は、新しい女王の誕生を祝う数十年ぶりの祝祭ムードに包まれていた。街の至る所にヴァイスランドの国旗と、新しく制定された人間とドワーフが手を取り合う姿を模した新国家の紋章旗が掲げられている。

戴冠式が行われる王宮の広場は、国内外から集まった人々で埋め尽くされていた。
その中央に設けられた壇上に、私はゆっくりと歩みを進めた。

私が身にまとっているのは、マーサが魂を込めて織り上げたスターライトシルクの純白のドレスだ。無数の星々が輝く夜空そのものを切り取ったかのようなそのドレスは、太陽の光を浴びて神々しいほどの輝きを放っていた。

壇上の中央で待っていたアルバート宰相が、私の前に恭しく進み出た。彼の後ろでは、ボリンとボルガンが、一つの箱を大切そうに捧げ持っている。

「これより、新女王陛下、エリアーナ・フォン・ヴァイスランド様の戴冠式を執り行う!」

宰相の宣言が、広場に響き渡る。

ボリンたちが、箱の蓋を静かに開けた。その中に納められていたのは、彼らが創り上げた世界でただ一つの王冠だった。
それは、ヒヒイロカネを編み込んだ繊細なフレームに、アークから得られた技術で生成した虹色に輝く巨大な宝石が中央に据えられている。そして、フレームの至る所には、ギムリ長老が刻んだ国と民を守護するための強力なルーン文字が、淡い光を放っていた。
それは、もはや単なる王冠ではない。ヴァイスランドとドワーフの最高技術と魔法が結集した、一つのアーティファクトだった。

宰相が、その王冠を恭しく手に取り、私の頭上へと掲げた。
そして、ゆっくりと、私の頭に王冠が載せられたその瞬間。
王冠に埋め込まれた宝石が、ひときわ強い輝きを放ち、一筋の光の柱となって天を真っ直ぐに貫いた。
その光は、王都だけでなく、クライン王国の全土、いや、大陸の全ての場所から見ることができたという。

「「「うおおおおおおおおっ!!!」」」

広場を埋め尽くした民衆から、地鳴りのような歓声が沸き起こった。それは、新しい時代の始まりを、新しい女王の誕生を心から祝福する、喜びの咆哮だった。

私は、壇上から歓喜に沸く民衆の顔を見渡した。
長かった。婚約破棄され、この王都を追放されたあの日からまだ一年も経っていない。しかし、その間に起きた出来事は私の人生の全てを塗り替えるものだった。
もう、私は地味な令嬢ではない。
私は、エリアーナ・フォン・ヴァイスランド。このヴァイスランド連合王国の、初代女王。
私の隣には、信頼できる仲間たちがいる。私の足元には、豊かに息づく大地がある。そして、私の手には未来を創る力がある。

私は、マイク代わりの拡声の魔道具の前に立つと、私の最初の言葉を国民たちに届けた。
「私の愛する、国民の皆さん。今日この日、この国は新しく生まれ変わりました」
私の声は、広場の隅々まで、そして光の柱を通じて、この国の全ての民の心に直接響き渡った。

「これより始まる新しい時代は、誰か一人の王や一部の貴族によって作られるものではありません。ここにいる、皆さん一人一人の手によって創り上げられていくものです」

「身分も、生まれも関係ありません。誰もが学び、働き、そして夢を見ることができる国。誰もが、努力すれば報われる公正な国。それが、私が皆さんと共に創りたい国の姿です」

「共に歩みましょう。このヴァイスランド連合王国の、輝かしい未来へ向かって!」

私の演説が終わると、再び、割れんばかりの歓声と拍手が嵐のように巻き起こった。人々は涙を流し、肩を抱き合い、新しい女王の誕生と新しい時代の到来を、いつまでも祝い続けていた。

その熱狂の渦の中心で、私はそっと空を見上げた。
ヴァイスランドの空は、どこまでも青く澄み渡っている。
私の本当の国造りは、まさに今この瞬間から始まるのだ。

戴冠式の祝賀行事が数日間にわたって続いた後、私は女王としての最初の執務に取り掛かった。場所は、旧王宮の一室を借りて設けた臨時の執務室だ。
まず最初に行ったのは、新政府の閣僚人事だった。

宰相には、引き続きアルバート公爵に留任してもらった。彼の経験と人脈は、新旧の橋渡し役として不可欠だ。
そして、財務大臣にはガンツを任命した。彼の商人としての卓越した手腕は、疲弊した国家財政を立て直すのに、これ以上ない適任者だろう。
軍務大臣には、グレゴール隊長を任命した。彼は、ヴァイスランド防衛隊をモデルケースとして王国軍全体を再編し、大陸最強の軍隊を創り上げてくれるはずだ。

さらに、新設した技術開発省の大臣にはボリンを。同じく新設した生活文化省の⼤⾂には、マーサを任命した。彼らの職人としての視点と探求心は、この国の産業と文化を飛躍的に発展させてくれるに違いない。
もちろん、ドワーフの代表として、ギムリ長老とボルガンにも顧問という形で政府に参加してもらった。彼らの古代からの知識と技術は、私たちの国にとって何物にも代えがたい宝となるだろう。

「……すごい顔ぶれですな。商人や職人が、国の中枢を担うことになるとは」

アルバート宰相が、新しい閣僚名簿を見て感慨深げに呟いた。

「ええ。これからは、そういう時代です。家柄ではなく、真に国を思う心と才能を持つ者が、国を動かしていくのです」

私の言葉に、宰相は深く頷いた。彼の目には、新しい国造りへの確かな手応えと興奮が浮かんでいた。

新政府が発足し、矢継ぎ早に改革が進められていく中で、私はもう一つの重要な計画に着手していた。それは、旧王都の大規模な再開発計画だ。
長年の無計画な都市開発と、今回の暴動によって王都は多くの場所が荒廃し、スラム化していた。私はこの街を、世界中から人々が集まる商業と文化、そして学びの中心地として生まれ変わらせることを決めたのだ。

私は、ヒューゴとラルスを王都に呼び寄せた。
「ヒューゴ、ラルス。あなたたちに、この王都の再開発計画の全てを任せます。予算も、人員も、制限はありません。あなたたちの理想とする最高の街を創り上げてください」
私の言葉に、二人は武者震いを抑えきれない様子だった。一人の職人が、一国の首都の設計を任される。それは、彼らにとってこれ以上ない名誉であり、挑戦だった。

「お任せください、女王陛下!私の石工としての人生の全てをかけて、千年の都を創ってみせます!」

「私もです!人々が、安全で、快適に、そして心豊かに暮らせる世界一の街を!」

二人は、すぐに王都の隅々まで調査を始め、壮大な都市計画の青写真を描き始めた。
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