独身おじさんの異世界おひとりさまライフ〜金や評価は要りません。コーヒーとタバコ、そして本があれば最高です〜

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第1章 おじさんと異世界の人々

第36話

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リーナが帰ったあと、俺は一人、作業台の前に座り込んでいた。

魔力向上を狙ったタバコ、か。

「……まあ、できなくはないだろ」

この世界には、魔力を高める効果を持つ植物や鉱石がいくつも存在している。

そのうち、直接摂取できるもの、燃やしても毒性のないものを思い浮かべながら、棚から素材を引っ張り出していく。

「まずは……《蒼雷草》と《陽炎葉》あたりか」

蒼雷草は、微量だが魔力循環を促進する効果があるとされる。陽炎葉は、精神を高揚させる作用を持つ。

ただし、両方とも単品で使うと刺激が強すぎる。バランスを取らなきゃならない。

「……試しに、ブレンド比率を半々でいってみるか」

小さな秤を使い、慎重に計量する。

タバコ葉には、香りが控えめで燃焼性のいい《銀月草》をベースにした。

これなら、燃え方も緩やかだし、効果が安定するだろう。

「……よし、巻くか」

手際よく、ブレンドした葉を巻き紙に載せ、均一に広げていく。

指先でくるりと巻き取り、端を湿らせてぴたりと留めた。

試作第一号、完成。

火をつける前に、ひとまず香りを確認する。

「……悪くない」

かすかにスパイシーな香りと、青草のような清涼感。

これなら吸いやすいはずだ。

「さて……火をつけるか」

マッチで先端を炙り、ゆっくりと吸い込む。

肺に入り込む煙は、確かに普通のタバコとは違う感触だった。

微かなビリビリ感とともに、身体の内側が少しだけ、暖かくなる。

「……効いてるな」

万能生成スキルは使っていない。あくまで素材の力と調合の工夫だけだ。

これなら、リーナにも悪影響なく渡せる。

「……でも、まだ粗いな」

吸い終わる頃には、効果の持続時間が短いことも分かった。

もう少し、安定性を持たせたい。

思案しながら、作業台の上に第二試作の素材を並べた。

今回は《銀月草》に加えて、《薄紅樹皮》を微量混ぜてみる。

薄紅樹皮は、魔力の持続を助けるとされる素材だ。入れすぎると重たくなるが、わずかなら問題ない。

「試すしかないか」

また慎重に秤で量り、調合する。

巻き取り、仕上げる。

二本目。

火をつけ、吸う。

今度は、最初の立ち上がりはやや遅いが、じわじわと身体の芯に魔力が滲み渡る感覚があった。

「……これだな」

即効性はないが、じっくり効いて、効果も長く続きそうだ。

「リーナには、こっちか」

とりあえず試作タバコを二本、細い筒に入れて保存した。

《魔力向上タバコ 試作版No.1》《魔力向上タバコ 試作版No.2》と、ラベルを貼る。

「……問題は、本人が吸いたいかどうかだな」

押し付けるつもりはない。

タバコは嗜好品だ。

無理に勧めるもんじゃない。

それでも、もしリーナがまたふらっと来たら、そっと差し出してみるのも悪くないかもしれない。

窓の外では、夕陽が落ちかけていた。

俺は棚の隅から、自分用のいつものブレンドタバコを取り出し、火をつけた。

「……ま、のんびりいこう」

煙を吐き出しながら、そんなふうに呟いた。
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