外れスキル【畑耕し】で辺境追放された俺、チート能力だったと判明し、スローライフを送っていたら、いつの間にか最強国家の食糧事情を掌握していた件

２９

ライオスは、俺の姿を見て驚きを通り越し、警戒の色を浮かべた 。

「なぜお前がここに……！？ まさか、一人で来たのか！？」

「ああ。お前が俺に会いに来たんだろ？ なら、俺が迎えに行ってやるのが筋ってもんだ」

俺がそう言うと、ライオスは俺の背後に誰もいないことを確認し、呆れたように鼻で笑った 。

「ふん。やはり一人か。相変わらず愚かな奴だな。いくら素晴らしい作物を作れたところで、この俺に勝てるわけがないだろう。大人しく、俺の元に戻るんだ、アルス」

その言葉は、かつて俺を追放した時と何も変わらない傲慢さを帯びていた 。

手にはまばゆい光を放つ聖剣――俺を切り捨てた象徴が握られている 。

「俺は、お前には戻らないよ、ライオス」

俺はゆっくり、はっきりと告げた 。

「俺にはもう、帰る場所がある。俺を必要としてくれる仲間がいるんだ。だから、お前たちのところに戻る必要なんて、どこにもない」

「くだらん戯言を！ 仲間だと？ お前のような役立たずを、誰が仲間として迎え入れるというのだ！ 所詮、お前は道具にすぎん！」

ライオスの言葉に、俺は首を横に振った 。

「違う。俺は道具じゃない。俺を必要としてくれる、愛すべき人たちだ。それはお前には一生分からないだろう」

「黙れ！ 偉そうに語るな、下等な農夫が！ 俺の【絶対破壊】の力をもってすれば、お前の作った城壁も命も、いとも簡単に破壊できる！ 大人しく跪け！」

聖剣からおぞましいほどの破壊の魔力があふれ出す 。

だが、俺は全く動じなかった 。

「お前は、まだ分かっていないようだな」

俺は手のひらに握っていたものを見せた 。

それは、何の変哲もない赤いピーマン――俺が育てた特別な作物だった 。

「なんだ、それは？ 野菜か？ こんなもので、この俺に立ち向かうつもりか！？」

「ああ、そうだ。ただのピーマンだ。だが……これは俺が育てた、とっておきのピーマンだ」

俺は躊躇なく一口かじった 。

シャクッという小気味よい音と共に、甘くみずみずしい汁が口に広がる 。

「……うまっ！ なんだこれ、めちゃくちゃ美味いじゃないか！」

思わず声を上げた 。

ライオスは呆然と叫ぶ 。

「な、何をしている！？ 俺を前にして食事か！？」

「腹が減っては戦はできぬって言うだろ？ まあ、お前に腹ごしらえが必要かどうかは分からないけどな」

残りのピーマンをもう一口食べた瞬間、俺の全身に温かく力強いエネルギーが駆け巡った 。

「なっ……なんだ、この力は！？」

スキル【畑耕し】は、作物を育てるだけではない 。

食べれば、その生命エネルギーを自分の力として取り込める 。

このピーマンは、あらゆる攻撃を無効化する特別な防御力を持っていた 。

「これは……まさか……お前、そんな力を……！」

「隠していたわけじゃない。ただ、使う必要がなかっただけだ」

俺が一歩踏み出すと、ライオスは後ずさった 。

「や、やめろ！ 近寄るな！ 俺の【絶対破壊】で……！」

聖剣の光が俺の胸元へ突き刺さる――が、何の傷も残らない 。

光は俺の体をすり抜け、虚空へと消えた 。

「なぜだ……！？ 俺の力が……！」

「俺のピーマンの防御には、お前の攻撃は通らない」

ライオスの顔は恐怖で歪む 。

俺はその肩に手を置いた 。

「お前の【絶対破壊】は壊すだけだ。だが俺の【畑耕し】は、壊れたものをもう一度生み出せる。本当に強い力はどちらだと思う？」

耳元で静かに囁くと、ライオスの瞳から闘志が消えた 。

「……アルス様！ 無事ですか！」

アルフレッド騎士たちが駆けつけてきた 。

「ああ、大丈夫だ。もう、終わったよ」

俺はライオスの肩から手を離し、振り返ってそう答えた 。

ライオスはその場に膝をつき、呆然と俺の背中を見つめている 。

その瞳には、もはや戦意も誇りも残っていなかった 。

その日のうちに、完全に無力化されたライオスの一団は拠点から追放された 。

リリアーナ王女は捕虜として扱うこともできたが、俺は望まなかった 。

「もう関わりたくないですからね。それに、彼らが俺の拠点にいたこと自体が、最大の屈辱だったはずです」

俺の言葉に、王女は優しく微笑んだ 。

「アルス様は、本当に心が広いお方ですわね」

彼女はそっと俺の肩に寄り添った 。

その温もりを感じながら、俺はもう二度と平和な日々が脅かされることはないと確信した 。

追放された元勇者の行く末など、どうでもいい 。

俺は仲間たちと、そして相棒のクロと共に、新しい時代を築いていく 。

「きゅるる」

クロが足元で嬉しそうに喉を鳴らす 。

俺はその頭を撫で、リリアーナ王女と拠点を見渡した 。

そこには活気と希望が満ちていた 。

こここそが俺の、そして世界中の人々の、新しい『楽園』だ 。

俺はこの楽園を守り続けていくと胸に誓った 。