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ミナは、俺たちの想いが詰まった虹色に輝く解毒薬の小瓶を、両手で大切そうに包み込んだ。その琥珀色の瞳は、期待とほんの少しの不安で潤んでいる。
「本当に……これを飲めば、私は……」
「ああ。君はもう一人じゃない。君を苦しめてきた呪いから、俺たちが必ず解放してあげる」
俺が力強く頷くと、リリアさんもアロイスさんも、そしてフェンとルクスも、ミナを励ますように優しい眼差しを送っていた。
ミナは、こくりと頷くと意を決したように小瓶の蓋を開け、その中の一滴の雫をゆっくりと飲み干した。
その瞬間、ミナの体から眩いばかりの光が、オーラとなって溢れ出した!
光は七色に輝き、アトリエ全体を温かく、そして清浄なエネルギーで満たしていく。ミナの体を覆っていたという、あの灰色の『反発の魔力』の膜が、まるで陽光に溶ける朝霧のように綺麗さっぱりと消え去っていくのが、俺にもはっきりと分かった。
光が収まった後。そこに立っていたミナは、何も変わっていないように見えた。だが、彼女から放たれる雰囲気は以前とは明らかに違っていた。まとわりついていた、どこか人を寄せ付けないような棘のある気配が完全に消え、彼女本来の優しくて穏やかな生命エネルギーが、素直に、そして伸びやかに溢れ出している。
「ど、どう……?私、何か、変わった……?」
ミナは、不安そうに自分の両手を見つめている。
「ああ、変わったさ。君は、本来の君に戻ったんだよ」
俺がそう言って微笑むと、リリアさんがアトリエの窓をそっと開けた。
窓の外からは、アカデミーの庭で遊ぶ小鳥たちの楽しげなさえずりが聞こえてくる。
「ミナさん。試してみましょう?」
リリアさんに促され、ミナはおそるおそる窓辺に近づいた。そして、震える指先をそっと窓の外へと差し出す。
いつもなら、ミナが近づいただけで一斉に逃げてしまうはずの小鳥たち。だが、今日は違った。
一羽の、青い羽を持つ美しい小鳥が、ミナのその指先に少しも警戒することなく、ひらりと舞い降りたのだ。そして、彼女の顔を覗き込むように首を傾げ、「ちゅん?」と可愛らしく鳴いた。
「あ……。あ……!」
ミナの瞳から、信じられないといった感情と共に、大粒の涙がぽろぽろとこぼれ落ちた。生まれて、初めての経験。動物が、自分から自分に触れてくれた。その小さな温もりと確かな重みが、ミナの長年の孤独と悲しみを全て溶かしていくかのようだった。
俺たちも、その光景を言葉もなく、ただただ温かい気持ちで見守っていた。
その日の午後、俺たちはすっかり自信を取り戻したミナを連れて、アカデミーの森へとピクニックに出かけた。
俺たちが芝生の上にシートを広げ、リリアさん特製のサンドイッチやグランさん直伝のハーブクッキーを並べていると、どこからともなく森の動物たちが次々と集まってきた。
好奇心旺盛なリスたち、人懐っこいウサギの親子、そして森の番人である大きな雄鹿まで。彼らは皆、ミナの周りを取り囲み、その匂いをくんくんと嗅いでは、親愛の情を示すようにその体にすり寄っていく。
「ふふ……くすぐったいよ」
ミナは、全身で動物たちの愛情を受け止め、生まれて初めて見せるような心の底からの、輝くような笑顔を浮かべていた。
フェンはそんなミナの姿を、まるで自分のことのように喜び、彼女の周りを嬉しそうに飛び跳ねている。ルクスもまた、祝福するようにキラキラとした光の粉を、その場にいる全員に優しく降り注がせていた。
その光景は、一枚の絵画のように美しく、そしてどこまでも幸せに満ち溢れていた。
数日後。ミナはすっかり明るく、元気な女の子になった。今では、他の生徒たちとも積極的にコミュニケーションを取り、その持ち前のリーダーシップと優しい心で、すっかりクラスの人気者だ。動物学の授業では、誰よりも楽しそうに動物たちと駆け回っている。
そんなある日。ミナが、一通の美しい装飾が施された封筒を、俺のところに持ってきた。
「レオン学長。父上から、手紙が届きました」
その手紙は、ミナの父である『百獣の王国』の族長からのものだった。そこにはまず、娘を救ってくれたことに対する丁寧で、そして心からの感謝の言葉が綴られていた。
そして、手紙はこう結ばれていた。
『つきましては、レオン殿、そして奇跡の丘の皆様を、我が百獣の王国へ正式にご招待申し上げたい。ぜひとも、この目で娘の元気な姿を見せていただきたく、そして、我らの国をその目でご覧いただきたいのです』
『そして……もし、お許しいただけるのであれば、我らの国が今密かに抱えている、もう一つの大きな問題について、あなた方のお知恵と、お力をお借りしたい、と……。切に、願っております』
もう一つの、大きな問題。その言葉に、俺と隣で手紙を読んでいたリリアさん、アロイスさんは顔を見合わせた。
「ミナ。君の故郷では、何か他に問題が起きているのか?」
俺が尋ねると、ミナは少しだけ表情を曇らせた。
「……はい。実は、私たちの国では数年前から、原因不明の『獣化病』という病が静かに流行り始めているのです」
「獣化病?」
「ええ。獣人族の血が、その力を制御できなくなり、徐々に理性を失って凶暴な獣そのものへと成り果ててしまう、恐ろしい病です。一度発症すれば、二度と元の姿には戻れないと、言われています……」
ミナの言葉に、俺たちは息をのんだ。理性を失い、獣になる病。それは獣人族にとって、死よりも辛い絶望的な病に違いなかった。
「私の父も、族長としてあらゆる手を尽くしてその病の原因を探っているのですが……いまだに、何も分かっていません。父は、もしかしたらレオン学長たちなら、何か解決の糸口を見つけてくれるのではないかと、そう信じているのです」
ミナは、そう言って俺の目をまっすぐに見つめてきた。その瞳には、故郷と同胞を憂う強い想いが宿っている。
俺の答えは、もちろん決まっていた。
「分かった、ミナ。俺たちでよければ力を貸そう。君の故郷、百獣の王国へ行かせてもらうよ」
俺の言葉に、ミナはぱあっと顔を輝かせた。
「本当ですか!?ありがとうございます、学長!」
「学長は、やめてくれよ。レオンでいい。俺たちは、もう友達だろ?」
俺がそう言って笑うと、ミナは少し照れくさそうに、でも、本当に嬉しそうにはにかんだ。
こうして、俺たちの次なる冒険の舞台が決まった。目指すは、西の大陸、謎に包まれた『百獣の王国』。
俺たちは、アカデミーの運営を信頼できる先生たちと成長した生徒たちに任せ、新たな旅の準備を始めた。
出発の日。アカデミーの生徒たちは、全員で俺たちを見送りに来てくれた。
「レオン先生、リリア先生、アロイス先生!気をつけてね!」
「ミナも、元気でね!お父さんによろしく!」
トムやギムリ、アンナをはじめとする生徒たちが、口々に励ましの言葉をかけてくれる。その温かい声援に、俺たちの胸は熱くなった。
俺たちは、ミナの案内で国王陛下から再びお借りした飛竜の背に乗り、西の空へと力強く飛び立った。
眼下には、俺たちが愛し育ててきた『奇跡の丘』が、太陽の光を浴びてキラキラと輝いている。
「行ってくるよ、みんな。必ず、みんなが安心して暮らせる平和な世界を、守ってみせるからな」
俺は、心の中でそう強く誓った。
一体、獣人族の国で何が起きているのか。そして、『獣化病』という恐ろしい病の正体とは。
謎と、そして新たな出会いが待つ西の大陸。俺と、最強の仲間たちとの新しい物語が、今また始まろうとしていた。その先にある未来がどんなに困難なものであっても、俺たちの心は希望に満ち溢れていた。この仲間たちと一緒なら、乗り越えられない壁など何一つないのだから。
「本当に……これを飲めば、私は……」
「ああ。君はもう一人じゃない。君を苦しめてきた呪いから、俺たちが必ず解放してあげる」
俺が力強く頷くと、リリアさんもアロイスさんも、そしてフェンとルクスも、ミナを励ますように優しい眼差しを送っていた。
ミナは、こくりと頷くと意を決したように小瓶の蓋を開け、その中の一滴の雫をゆっくりと飲み干した。
その瞬間、ミナの体から眩いばかりの光が、オーラとなって溢れ出した!
光は七色に輝き、アトリエ全体を温かく、そして清浄なエネルギーで満たしていく。ミナの体を覆っていたという、あの灰色の『反発の魔力』の膜が、まるで陽光に溶ける朝霧のように綺麗さっぱりと消え去っていくのが、俺にもはっきりと分かった。
光が収まった後。そこに立っていたミナは、何も変わっていないように見えた。だが、彼女から放たれる雰囲気は以前とは明らかに違っていた。まとわりついていた、どこか人を寄せ付けないような棘のある気配が完全に消え、彼女本来の優しくて穏やかな生命エネルギーが、素直に、そして伸びやかに溢れ出している。
「ど、どう……?私、何か、変わった……?」
ミナは、不安そうに自分の両手を見つめている。
「ああ、変わったさ。君は、本来の君に戻ったんだよ」
俺がそう言って微笑むと、リリアさんがアトリエの窓をそっと開けた。
窓の外からは、アカデミーの庭で遊ぶ小鳥たちの楽しげなさえずりが聞こえてくる。
「ミナさん。試してみましょう?」
リリアさんに促され、ミナはおそるおそる窓辺に近づいた。そして、震える指先をそっと窓の外へと差し出す。
いつもなら、ミナが近づいただけで一斉に逃げてしまうはずの小鳥たち。だが、今日は違った。
一羽の、青い羽を持つ美しい小鳥が、ミナのその指先に少しも警戒することなく、ひらりと舞い降りたのだ。そして、彼女の顔を覗き込むように首を傾げ、「ちゅん?」と可愛らしく鳴いた。
「あ……。あ……!」
ミナの瞳から、信じられないといった感情と共に、大粒の涙がぽろぽろとこぼれ落ちた。生まれて、初めての経験。動物が、自分から自分に触れてくれた。その小さな温もりと確かな重みが、ミナの長年の孤独と悲しみを全て溶かしていくかのようだった。
俺たちも、その光景を言葉もなく、ただただ温かい気持ちで見守っていた。
その日の午後、俺たちはすっかり自信を取り戻したミナを連れて、アカデミーの森へとピクニックに出かけた。
俺たちが芝生の上にシートを広げ、リリアさん特製のサンドイッチやグランさん直伝のハーブクッキーを並べていると、どこからともなく森の動物たちが次々と集まってきた。
好奇心旺盛なリスたち、人懐っこいウサギの親子、そして森の番人である大きな雄鹿まで。彼らは皆、ミナの周りを取り囲み、その匂いをくんくんと嗅いでは、親愛の情を示すようにその体にすり寄っていく。
「ふふ……くすぐったいよ」
ミナは、全身で動物たちの愛情を受け止め、生まれて初めて見せるような心の底からの、輝くような笑顔を浮かべていた。
フェンはそんなミナの姿を、まるで自分のことのように喜び、彼女の周りを嬉しそうに飛び跳ねている。ルクスもまた、祝福するようにキラキラとした光の粉を、その場にいる全員に優しく降り注がせていた。
その光景は、一枚の絵画のように美しく、そしてどこまでも幸せに満ち溢れていた。
数日後。ミナはすっかり明るく、元気な女の子になった。今では、他の生徒たちとも積極的にコミュニケーションを取り、その持ち前のリーダーシップと優しい心で、すっかりクラスの人気者だ。動物学の授業では、誰よりも楽しそうに動物たちと駆け回っている。
そんなある日。ミナが、一通の美しい装飾が施された封筒を、俺のところに持ってきた。
「レオン学長。父上から、手紙が届きました」
その手紙は、ミナの父である『百獣の王国』の族長からのものだった。そこにはまず、娘を救ってくれたことに対する丁寧で、そして心からの感謝の言葉が綴られていた。
そして、手紙はこう結ばれていた。
『つきましては、レオン殿、そして奇跡の丘の皆様を、我が百獣の王国へ正式にご招待申し上げたい。ぜひとも、この目で娘の元気な姿を見せていただきたく、そして、我らの国をその目でご覧いただきたいのです』
『そして……もし、お許しいただけるのであれば、我らの国が今密かに抱えている、もう一つの大きな問題について、あなた方のお知恵と、お力をお借りしたい、と……。切に、願っております』
もう一つの、大きな問題。その言葉に、俺と隣で手紙を読んでいたリリアさん、アロイスさんは顔を見合わせた。
「ミナ。君の故郷では、何か他に問題が起きているのか?」
俺が尋ねると、ミナは少しだけ表情を曇らせた。
「……はい。実は、私たちの国では数年前から、原因不明の『獣化病』という病が静かに流行り始めているのです」
「獣化病?」
「ええ。獣人族の血が、その力を制御できなくなり、徐々に理性を失って凶暴な獣そのものへと成り果ててしまう、恐ろしい病です。一度発症すれば、二度と元の姿には戻れないと、言われています……」
ミナの言葉に、俺たちは息をのんだ。理性を失い、獣になる病。それは獣人族にとって、死よりも辛い絶望的な病に違いなかった。
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ミナは、そう言って俺の目をまっすぐに見つめてきた。その瞳には、故郷と同胞を憂う強い想いが宿っている。
俺の答えは、もちろん決まっていた。
「分かった、ミナ。俺たちでよければ力を貸そう。君の故郷、百獣の王国へ行かせてもらうよ」
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「ミナも、元気でね!お父さんによろしく!」
トムやギムリ、アンナをはじめとする生徒たちが、口々に励ましの言葉をかけてくれる。その温かい声援に、俺たちの胸は熱くなった。
俺たちは、ミナの案内で国王陛下から再びお借りした飛竜の背に乗り、西の空へと力強く飛び立った。
眼下には、俺たちが愛し育ててきた『奇跡の丘』が、太陽の光を浴びてキラキラと輝いている。
「行ってくるよ、みんな。必ず、みんなが安心して暮らせる平和な世界を、守ってみせるからな」
俺は、心の中でそう強く誓った。
一体、獣人族の国で何が起きているのか。そして、『獣化病』という恐ろしい病の正体とは。
謎と、そして新たな出会いが待つ西の大陸。俺と、最強の仲間たちとの新しい物語が、今また始まろうとしていた。その先にある未来がどんなに困難なものであっても、俺たちの心は希望に満ち溢れていた。この仲間たちと一緒なら、乗り越えられない壁など何一つないのだから。
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