不遇スキル『動物親和EX』で手に入れたのは、最強もふもふ聖霊獣とのほっこり異世界スローライフでした

☆ほしい

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あの夜、図書館で全てを打ち明けてから、ミナの表情は少しだけ吹っ切れたように見えた。まだ他の生徒たちと積極的に話すことはないけれど、少なくとも以前のような頑なな孤独のオーラは、少しだけ和らいでいる。

そして何より、大きな変化があった。ミナが、フェンとルクスに対してだけは心を許すようになったのだ。

休み時間になると、ミナは一人で木陰に座り、おそるおそるフェンのふわふわの毛並みを撫でたり、ルクスの虹色の羽をうっとりと眺めたりしている。フェンもルクスもそんなミナの気持ちを察しているのか、彼女に優しく寄り添い、その小さな心を温かい光で包み込んでいるようだった。

「フェンちゃんは……温かいね。それに、いい匂いがする……お日様みたいな匂い」
「ルクスちゃんは、キラキラしてて、綺麗……。見ていると、心が落ち着く……」

ぽつり、ぽつりとミナが呟く。その横顔はとても穏やかで、そして幸せそうだった。

俺とリリアさん、アロイスさんはそんなミナの姿を温かく見守りながらも、彼女が動物たちから避けられてしまうその根本的な原因を、必ず突き止めようと決意していた。

「ミナさんは、動物から嫌われているわけではありませんわ。むしろ、その魂は誰よりも動物を愛する清らかなもの。何か、外的な要因が彼女と動物たちの間を隔ててしまっているに違いありません」

リリアさんは、そう確信しているようだった。

「ふむ。呪いの類か、あるいは特殊な体質か……。私の知識と、ギルドの最新の鑑定機器をもってすれば何か分かるかもしれん」

アロイスさんも、錬金術師としてのプライドをかけてこの謎に挑むつもりのようだ。
俺たちは早速、ミナ本人に許可を取り、本格的な調査を開始した。場所は、もちろん俺たちのアトリエだ。

「わ、私、どうなるの……?」

ミナは、アロイスさんが用意した物々しい鑑定装置を前にして、少し不安そうな顔をしている。

「大丈夫だよ、ミナ。痛いことや怖いことは何もしないから。ただ、君の体のことを少しだけ詳しく調べさせてほしいんだ」

俺がそう言って頭を撫でると、ミナはこくりと頷いた。フェンも『大丈夫だよ!僕がついてるからね!』と、ミナの足にすり寄って彼女を励ましている。

アロイスさんはまず、水晶でできた大きなレンズのような器具を使って、ミナの体から放たれるオーラ……生命エネルギーの流れを観察し始めた。

「む……。これは……」

アロイスさんが、レンズを覗き込みながら唸る。

「どうしたんですか、アロイスさん?」

リリアさんが尋ねると、アロイスさんは難しい顔で答えた。

「彼女の生命エネルギーそのものは、非常に清らかで力強い。だが……そのオーラの表面を、ごく薄い灰色の膜のようなものが覆っている。それは、まるで彼女の生命力を外に伝わらないように遮断しているかのようだ。そして、その膜からは動物たちが本能的に嫌う、微弱な『反発の魔力』が放たれている……」

反発の魔力。それが、ミナが動物たちから避けられてしまう原因なのだろうか。

「その膜は、生まれつきのものなのか?」

俺が尋ねると、アロイスさんは首を横に振った。

「いや、違うな。後天的に、何らかの要因で付着したものだ。呪いの類ではない……。どちらかというと、極めて特殊な植物性の毒素に近い反応を示している」

植物性の毒素。その言葉に、リリアさんがハッと顔を上げた。

「植物性……!アロイスさん、もしや、それは……!」

リリアさんはアトリエの書庫へと駆け込むと、一冊のひときわ古びて分厚い植物図鑑を持ってきた。それは、王家の書庫から取り寄せた門外不出の『禁断の植物大全』だ。
リリアさんは、震える指でそのページをめくっていく。そして、あるページを指さし俺たちに見せた。

そこに描かれていたのは、黒い棘に覆われた不気味な見た目の植物だった。

「ありましたわ……!『静寂の棘(ソーン・オブ・サイレンス)』……。百獣の王国の一部にしか自生しない、幻の植物です」

リリアさんは、その植物の説明文を読み上げ始めた。

「この植物は、獣を遠ざける極めて強力な忌避成分を持つ。その棘に触れたり、花粉を吸い込んだりした者は、その体から動物が本能的に嫌う特殊な匂いと魔力を、半永久的に発し続けるようになる、と……。特に、感受性の強い幼少期に大量の花粉を吸い込んでしまうと、その体質は二度と元に戻らない、と記されていますわ……」

これだ……!これが、ミナを苦しめ続けてきた呪いの正体だ!

俺たちがミナにこのことを話すと、ミナは何かを思い出したように、ぽつりと呟いた。

「静寂の棘……。そういえば、昔お城の裏にあった『入っちゃいけない森』に、そんな名前がついていたような……。私、小さい頃そこで迷子になって、綺麗な黒いお花畑の中で、眠っちゃったことがある……」

間違いない。ミナは、その時に静寂の棘の花粉を大量に吸い込んでしまったのだ。本人は全く気づかないまま、ずっとその呪いを背負って生きてきたのだ。

原因が分かったことで、ミナの目には大粒の涙が浮かんでいた。だが、それは悲しみの涙ではない。長年の苦しみの理由がようやく分かり、そして、もしかしたらという小さな希望の光を見つけた、安堵の涙だった。

「そ、それじゃあ、私のこの体質は、治せるの……?」

震える声で尋ねるミナに、俺は力強く頷いた。

「ああ、もちろんだ!リリアさんとアロイスさんがいれば、どんな呪いだって解けるさ!」
「はい、お任せくださいな。原因が分かれば、対処法は必ず見つかりますわ」
「ふん、錬金術の力をもってすれば、不可能などない。任せておけ」

リリアさんとアロイスさんも、頼もしく答える。その言葉に、ミナの顔がぱあっと明るくなった。

こうして、俺たちのチームによる『ミナ救出プロジェクト』が、本格的に始動した。
リリアさんとアロイスさんはアトリエに籠もり、ミナの体質を改善するための特製の解毒薬の開発に、全力を注ぎ始めた。

「静寂の棘の毒素は、生命エネルギーの流れそのものに深く根付いてしまっています。これを完全に中和し、洗い流すには通常の方法では不可能ですわ」
「うむ。毒素を分解するだけでなく、彼女本来の動物に愛される体質をもう一度呼び覚ます必要がある。そのためには、複数の極めて強力で、特殊な触媒が必要となるだろう」

二人は、夜を徹して議論と実験を繰り返した。
そして、数日後。ついに、解毒薬のレシピが完成した。

必要となる材料は、三つ。

一つは、俺たちの『奇跡の丘』でしか採れないあらゆる生命力を活性化させる、古代種の薬草。特に、大地と生命のエネルギーを最も強く宿した『ガイアの心臓』と呼ばれる、赤い根菜が不可欠だという。

二つ目は、光の精霊鳥であるルクスの虹色の羽からこぼれ落ちる、『光の粉』。それは、あらゆる負のエネルギーを浄化し、魂そのものを癒す究極の浄化触媒となるらしい。

そして、三つ目の材料。それは、聖霊獣であるフェンの清浄な魔力が込められた、一筋の『聖なる涙』だった。

「フェンちゃんの涙には、生命の根源に働きかけ、失われた繋がりをもう一度結び直す奇跡の力が宿っています。これこそが、ミナさんと動物たちの間にできてしまった壁を、取り払うための最後の鍵となるはずですわ」

リリアさんは、そう説明してくれた。

材料は、全てこの丘にある。俺たちは、早速その三つの特別な材料を集め始めた。
『ガイアの心臓』は、俺が伝説のクワで畑を丁寧に掘り起こし、見つけ出した。それは、まるで宝石のように美しいルビー色に輝いていた。
ルクスの『光の粉』は、アンナがルクスの羽を優しく撫でてあげると、ルクスが気持ちよさそうにさえずり、キラキラとした光の粉をたくさん振りまいてくれた。

そして、最後の材料、フェンの『聖なる涙』。
これが、一番の難関だった。フェンは、いつも元気で幸せいっぱいだ。悲しいことなんて、何一つない。そんなフェンを、どうやって泣かせればいいのか。

俺たちが頭を悩ませていると、フェン自身が俺のところにやってきて、こう言ったのだ。

『レオン、大丈夫だよ。僕、泣けるよ』
「え、でも、フェン……」
『ミナが、ずっと一人で悲しい思いをしてきたことを考えたら、僕も胸が、きゅーって苦しくなるんだ。ミナが、笑顔になれるなら、僕、頑張れるよ』

フェンは、そう言うと静かに目を閉じた。そして、ミナがこれまでに経験してきた孤独や悲しみを、その小さな心で一生懸命に感じ取ろうとしているようだった。

やがて、フェンの大きな瑠璃色の瞳から、一筋、キラリと光る美しい涙がぽろりとこぼれ落ちた。それは、悲しみの涙ではない。誰かの痛みに寄り添い、その幸せを心から願う、世界で一番優しくて、温かい涙だった。

俺は、その涙をリリアさんが用意した水晶の小瓶に、そっと受け止めた。
全ての材料が、揃った。

アロイスさんが、ドワーフ製の高出力錬金釜にそれらの材料を一つ一つ、慎重に入れていく。そして、錬金術の秘儀を唱えると、釜の中は眩いばかりの虹色の光に包まれた。

数時間後。釜の中から現れたのは、一滴の、まるで朝露のように清らかで、そして美しく輝く奇跡の解毒薬だった。

その薬を、俺たちはミナの元へと大切に運んでいった。

「ミナ、できたよ。君を、自由にする薬だ」

俺がそう言って小瓶を差し出すと、ミナは震える手でそれを受け取った。その瞳には、感謝と、そして未来への希望の光が溢れんばかりに輝いていた。

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