不遇スキル『動物親和EX』で手に入れたのは、最強もふもふ聖霊獣とのほっこり異世界スローライフでした

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リリアさんのその衝撃的な、そして最高に幸せな告白から一夜が明けた。
俺たちの丘はまだ昨日の祭りの興奮と、そして新しい命の誕生への祝福ムードに包まれている。
リリアさん懐妊のニュースは、立体映像通信システムを通じて瞬く間に世界中に広まり、その日の午前中にはもう、丘の上は世界中から届けられたとんでもない量の祝福の品々で埋め尽くされてしまった。

百獣の王国のガイオン様からは、『我が国の言い伝えでは、妊婦にはこれを食べさせると必ず元気な子が生まれると言われておる!』という手紙と共に、山のように巨大な最高級の肉の塊が数十個も送られてきた。
「こ、こんなに食べきれませんわ……」
リリアさんが嬉しい悲鳴を上げている。

ドワーフの国のガンツさんからは、『任せておけ!世界一安全で快適で、そして美しいベビーベッドをワシが魂を込めて作ってやる!』という熱いメッセージと共に、すでに完成予想図である精巧な設計図が届けられた。その設計図によれば、そのベビーベッドはミスリル銀と世界樹の木材で作られ、自動で揺れるゆりかご機能や快適な温度を保つ魔法機能までついているらしい。もはやベッドというより、小さな城だ。

エルフの国のアルフィナさんからは、『世界樹の一番若い柔らかな葉だけを使って編みました。赤ちゃんのデリケートな肌を優しく包んでくれるでしょう』という手紙と共に、触れるだけでとろけてしまいそうなほど滑らかな肌触りの美しい産着が、箱いっぱいに送られてきた。

失われし大陸エデンのステラからは、『星の民に代々伝わる、健やかなる魂の成長を祈る子守唄です』というメッセージと共に、その美しい子守唄が無限にリピート再生される魔法の水晶が届けられた。

国王陛下やエリアーナお嬢様からも、王家に伝わる安産のお守りや最高級のベビー用品が、これでもかというくらい送られてくる。
「すごいことになったな……。生まれる前から世界中の王族に愛される子供なんて、後にも先にもうちの子くらいだろうな」
俺は贈り物の山を見ながら、嬉しさと少しの戸惑いが入り混じった苦笑いを浮かべるしかなかった。

アカデミーの生徒たちももちろん大喜びだ。
「リリア先生、おめでとう!」
「やったー!赤ちゃん生まれるんだ!」
「男の子かな?女の子かな?」
子供たちはリリアさんの周りに集まってきては、そのまだぺったんこな、お腹を興味津々に、そして優しく撫でている。

トムとギムリの発明クラブは、『任せてください!我々が子育てを全面的にバックアップする究極の育児マシーンを開発してみせます!』と、早速『全自動ゆりかご&おむつ交換マシーンVer.2』の開発に乗り出していた。
アンナの薬草学クラスは、『リリア先生の体を気遣って、そして赤ちゃんの肌にも優しい最高のハーブオイルとリラックスティーを研究します!』と目を輝かせている。
丘全体が新しい家族の誕生を心から祝福し、そしてその準備に沸いていた。

だが、そんな幸せいっぱいの雰囲気の中で、たった一匹だけ、少し複雑な心境の者がいた。
俺の最高の相棒、フェンだ。
フェンはリリアさんの懐妊が分かってから、どこか元気がないというか、そわそわして落ち着かない様子だった。俺がリリアさんと二人で話していると少し離れた場所からじーっとこちらの様子を窺っていたり、リリアさんが子供たちにお腹を撫でられていると、なんだか寂しそうな顔でぷいっとそっぽを向いてしまったり。
俺はそんなフェンの小さな変化にすぐに気づいた。

その日の夜、俺はアトリエの自分の部屋で、一人窓の外を眺めていたフェンの元へそっと近づいた。
「どうしたんだ、フェン。何か悩み事か?」
俺がそのもふもふの背中を優しく撫でながらそう尋ねると、フェンはびくりと肩を震わせた。そして、ゆっくりとこちらを振り返る。その大きな瑠璃色の瞳は、不安そうに揺れていた。
『……ねえ、レオン』
「ん?」
『赤ちゃんが生まれたら……。レオンは、僕のことあんまり構ってくれなくなっちゃうの……?』
フェンはか細い声でそう呟いた。その瞳からは、今にも大粒の涙がこぼれ落ちそうだった。

ああ、そうか。そうだったのか。
俺はフェンのその健気で純粋な不安に、胸がきゅっと締め付けられるのを感じた。そして同時に、どうしようもないほどの愛しさが込み上げてきた。俺はその小さな体を力強く、そして優しく抱きしめた。
「馬鹿だなあ、フェン。そんなこと、あるわけないじゃないか」
俺はフェンの耳元で、ゆっくりと、そしてはっきりと語りかけた。
「いいか、フェン。俺にとって君は、世界で一番大切な最高の相棒だ。それはこれから先、何があっても絶対に変わらない。絶対に、だ」
『ほんと……?』
「ああ、本当だ。それに、赤ちゃんが生まれるってことは、俺たちの家族が増えるってことなんだよ。君は独りぼっちになるんじゃない。君はこれから生まれてくる子の、世界で一番頼もしくて、そして優しい『お兄ちゃん』になるんだ」

お兄ちゃん。
その言葉に、フェンはハッとしたように顔を上げた。その大きな瞳が、驚きと新しい理解の光でキラキラと輝き始めた。
「そうだろ?君はもうただのペットじゃない。俺の相棒で、そして俺の家族で、俺の子供のお兄ちゃんなんだ。だからこれからは俺と一緒に、リリアさんと、そして生まれてくる赤ちゃんを守ってほしい。頼れるお兄ちゃんとして、な」
俺がそう言ってにっこりと笑いかけると、フェンの瞳からついに一粒の涙がぽろりとこぼれ落ちた。
だが、それは不安の涙ではなかった。
『……うんっ!』
フェンは力強く、そして満面の笑顔で頷いた。
『お兄ちゃん!僕、お兄ちゃんになるの!?』
「ああ、そうだぞ」
『任せてよ、レオン!僕、世界一かっこよくて、優しくて、そして頼りになるお兄ちゃんになってみせるから!』
フェンはそう宣言すると、俺の腕の中からぴょんと飛び降り、そしてどこかへと駆け出していった。その後ろ姿はこれまで見たこともないほど誇らしげで、そして頼もしく見えた。

俺はそんなフェンの後ろ姿を、ただ微笑ましく見送っていた。
翌日から、フェンの猛烈な『お兄ちゃん修行』が始まった。
その健気な奮闘ぶりは、俺たちの丘にまた新しい、そして温かい笑いをもたらすことになるのだった。
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