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「僕、お兄ちゃんになるんだ!」
そう高らかに宣言したその日から、フェンの日常は一変した。
これまで俺の行くところどこへでもついてきていた甘えん坊な相棒の姿は、そこにはない。今のフェンは、未来の弟か妹のために自分にできることは何かを常に考え、そして行動する、立派な『お兄ちゃん』だった。
その健気で、そして時々少し空回りしてしまう奮闘ぶりは、俺たちの丘の新しい名物となっていた。
まずフェンが始めたのは、『赤ちゃんを守る会(ベビー・ガード)』の結成とそのパトロール活動だった。メンバーはもちろん、俺たちの丘に住む森の動物たちだ。
『みんな、聞いて!もうすぐこの丘に、レオンとリリアの赤ちゃんが生まれるんだ!』
フェンは朝礼台のように切り株の上に立つと、集まったウサギやリス、鹿や熊たちに向かって高らかに演説を始めた。
『その赤ちゃんは僕の弟か妹だ!そして君たちの、大切な仲間でもある!だからみんなで力を合わせて、赤ちゃんが安全に、そして安心して生まれてこれる環境を作るんだ!異議のある者はいるか!』
そのあまりの熱弁に動物たちは皆きょとんとしていたが、フェンが大好きで、そして俺たちが大好きな彼らは、もちろん全員一致団結して協力を約束してくれた。
こうして結成された『ベビー・ガード』の最初の任務は、丘の安全パトロールだった。
フェン隊長率いる動物たちは毎日丘の隅々まで見回り、そして赤ちゃんにとって危険だと思われるものを徹底的に排除していく。
例えば、地面に落ちている先の尖った小石や木の枝。『これは危ない!赤ちゃんが踏んだら怪我をしちゃう!撤去だ、撤去!』フェンの号令の元、リスたちがその小石をせっせと運び、そしてモグラたちが掘った安全な穴へと埋めていく。リリアさんがいつも散歩する小道に生えている、少しだけ毒のあるキノコ。『これもダメだ!リリアが間違って食べたら大変だ!すぐに処分しろ!』熊さんがその大きな手で優しくキノコを摘み取り、そして森の奥深くの誰も近づかない場所へと捨てに行く。
その徹底ぶりは凄まじく、数日後には俺たちの丘は世界で一番安全で、そして清潔な場所に生まれ変わっていた。
次にフェンが取り組んだのは、『最高のベビーベッド作り』だった。
ドワーフのガンツさんが設計図を送ってくれたが、フェンはそれだけでは満足できなかったらしい。
『形も大事だけど、やっぱり一番大事なのは寝心地だよ!赤ちゃんには、世界で一番ふわふわで気持ちいいベッドで眠ってほしいんだ!』
そう決意したフェンは、最高の寝具の素材を求めて旅に出た。もちろん俺も心配だったので、こっそりとついていった。
フェンが向かったのは、天空鯨さんにお願いして連れて行ってもらった雲の上の世界だった。そこには『雲羊(クラウドシープ)』と呼ばれる、全身が雲でできた不思議な羊たちがのんびりと暮らしている。その雲羊の毛は、この世のどんな綿よりも軽くて柔らかいと言われている幻の素材だ。
フェンは雲羊の群れに近づくと、そして深々と頭を下げた。
『羊さんたち、お願いがあります!僕の弟か妹のために、そのふわふわの毛を少しだけ分けてはもらえませんか!』
その健気なお願いに心優しき雲羊たちは、喜んでその体を差し出してくれた。
『メェ~(いいとも、いいとも。未来の希望のために、いくらでも持っていくがいいさ)』
フェンは大喜びで雲羊の毛を集め始めた。だが、そのあまりの気持ちよさに夢中になりすぎたのだろう。気づいた時には、フェンが集めた雲羊の毛は小山のような大きさになっていた。
俺たちが丘へと帰ると、その大量の毛でアトリエの一室が完全に埋め尽くされ、まるで雲の海になっているという珍事件が発生した。
さらに、フェンのお兄ちゃん修行はエスカレートしていく。
毎日リリアさんのために、体に良いとされる珍しい木の実や果物を、森の奥深くから採ってくるのだ。
『リリア、これ食べて!滋養強壮にすごくいいんだって!』
『リリア、こっちの果物は安産効果があるらしいよ!』
その気持ちは本当に嬉しいのだが、その量が尋常ではなかった。テーブルの上には常にフェンが採ってきた木の実の山ができており、リリアさんは毎日、「ありがとう、フェンちゃん。でも、本当にもうお腹がはちきれそうですわ……」と、幸せな悲鳴を上げていた。
もちろん、ルクスやジュエルもそんなフェンに協力的だった。ルクスは毎日リリアさんのお腹のそばを飛び回り、その癒しの光でお腹の赤ちゃんを優しく照らし、健やかなる成長を祈っている。ジュエルはリリアさんの枕元に毎日違う色のキラキラした安産祈願の宝石を、こっそりと置いていくのが日課となっていた。
俺はそんな健気で可愛らしい小さな家族たちの姿を、ただただ微笑ましく、そして愛おしく見守っていた。
そして俺自身も、もうすぐ父親になるという実感と喜びを噛みしめながら、リリアさんと共に穏やかで、そして最高に幸せなマタニティライフを過ごしていた。
二人でベビー服を見に行ったり(もちろん、世界中から送られてきた最高級品が山のようにあるのだが、やはり自分たちで選びたいものだ)、生まれてくる子供の名前を考えたり。
「そうですね……。もし男の子だったら、この丘の大地のように雄大で、そしてたくさんの生命を育む力強い子になってほしいですわね」
リリアさんが大きくなってきたお腹を、愛おしそうに撫でながらそう言う。
「ああ。もし女の子だったら、この丘に咲く花のように優しくて、たくさんの人々を癒せる温かい子に育ってほしいな」
俺もそのリリアさんの手に、そっと自分の手を重ねた。
お腹の中の赤ちゃんは俺たちの声が聞こえているのか、ぽこり、と元気よくお腹を蹴った。その小さな生命の胎動を感じるたびに、俺の胸の奥は言葉にできないほどの温かい感情で満たされていく。
季節はゆっくりと巡り、そして丘の上は日に日に新しい命の誕生への期待感と、そしてどこまでも優しい幸福感に満ち溢れていった。
そう高らかに宣言したその日から、フェンの日常は一変した。
これまで俺の行くところどこへでもついてきていた甘えん坊な相棒の姿は、そこにはない。今のフェンは、未来の弟か妹のために自分にできることは何かを常に考え、そして行動する、立派な『お兄ちゃん』だった。
その健気で、そして時々少し空回りしてしまう奮闘ぶりは、俺たちの丘の新しい名物となっていた。
まずフェンが始めたのは、『赤ちゃんを守る会(ベビー・ガード)』の結成とそのパトロール活動だった。メンバーはもちろん、俺たちの丘に住む森の動物たちだ。
『みんな、聞いて!もうすぐこの丘に、レオンとリリアの赤ちゃんが生まれるんだ!』
フェンは朝礼台のように切り株の上に立つと、集まったウサギやリス、鹿や熊たちに向かって高らかに演説を始めた。
『その赤ちゃんは僕の弟か妹だ!そして君たちの、大切な仲間でもある!だからみんなで力を合わせて、赤ちゃんが安全に、そして安心して生まれてこれる環境を作るんだ!異議のある者はいるか!』
そのあまりの熱弁に動物たちは皆きょとんとしていたが、フェンが大好きで、そして俺たちが大好きな彼らは、もちろん全員一致団結して協力を約束してくれた。
こうして結成された『ベビー・ガード』の最初の任務は、丘の安全パトロールだった。
フェン隊長率いる動物たちは毎日丘の隅々まで見回り、そして赤ちゃんにとって危険だと思われるものを徹底的に排除していく。
例えば、地面に落ちている先の尖った小石や木の枝。『これは危ない!赤ちゃんが踏んだら怪我をしちゃう!撤去だ、撤去!』フェンの号令の元、リスたちがその小石をせっせと運び、そしてモグラたちが掘った安全な穴へと埋めていく。リリアさんがいつも散歩する小道に生えている、少しだけ毒のあるキノコ。『これもダメだ!リリアが間違って食べたら大変だ!すぐに処分しろ!』熊さんがその大きな手で優しくキノコを摘み取り、そして森の奥深くの誰も近づかない場所へと捨てに行く。
その徹底ぶりは凄まじく、数日後には俺たちの丘は世界で一番安全で、そして清潔な場所に生まれ変わっていた。
次にフェンが取り組んだのは、『最高のベビーベッド作り』だった。
ドワーフのガンツさんが設計図を送ってくれたが、フェンはそれだけでは満足できなかったらしい。
『形も大事だけど、やっぱり一番大事なのは寝心地だよ!赤ちゃんには、世界で一番ふわふわで気持ちいいベッドで眠ってほしいんだ!』
そう決意したフェンは、最高の寝具の素材を求めて旅に出た。もちろん俺も心配だったので、こっそりとついていった。
フェンが向かったのは、天空鯨さんにお願いして連れて行ってもらった雲の上の世界だった。そこには『雲羊(クラウドシープ)』と呼ばれる、全身が雲でできた不思議な羊たちがのんびりと暮らしている。その雲羊の毛は、この世のどんな綿よりも軽くて柔らかいと言われている幻の素材だ。
フェンは雲羊の群れに近づくと、そして深々と頭を下げた。
『羊さんたち、お願いがあります!僕の弟か妹のために、そのふわふわの毛を少しだけ分けてはもらえませんか!』
その健気なお願いに心優しき雲羊たちは、喜んでその体を差し出してくれた。
『メェ~(いいとも、いいとも。未来の希望のために、いくらでも持っていくがいいさ)』
フェンは大喜びで雲羊の毛を集め始めた。だが、そのあまりの気持ちよさに夢中になりすぎたのだろう。気づいた時には、フェンが集めた雲羊の毛は小山のような大きさになっていた。
俺たちが丘へと帰ると、その大量の毛でアトリエの一室が完全に埋め尽くされ、まるで雲の海になっているという珍事件が発生した。
さらに、フェンのお兄ちゃん修行はエスカレートしていく。
毎日リリアさんのために、体に良いとされる珍しい木の実や果物を、森の奥深くから採ってくるのだ。
『リリア、これ食べて!滋養強壮にすごくいいんだって!』
『リリア、こっちの果物は安産効果があるらしいよ!』
その気持ちは本当に嬉しいのだが、その量が尋常ではなかった。テーブルの上には常にフェンが採ってきた木の実の山ができており、リリアさんは毎日、「ありがとう、フェンちゃん。でも、本当にもうお腹がはちきれそうですわ……」と、幸せな悲鳴を上げていた。
もちろん、ルクスやジュエルもそんなフェンに協力的だった。ルクスは毎日リリアさんのお腹のそばを飛び回り、その癒しの光でお腹の赤ちゃんを優しく照らし、健やかなる成長を祈っている。ジュエルはリリアさんの枕元に毎日違う色のキラキラした安産祈願の宝石を、こっそりと置いていくのが日課となっていた。
俺はそんな健気で可愛らしい小さな家族たちの姿を、ただただ微笑ましく、そして愛おしく見守っていた。
そして俺自身も、もうすぐ父親になるという実感と喜びを噛みしめながら、リリアさんと共に穏やかで、そして最高に幸せなマタニティライフを過ごしていた。
二人でベビー服を見に行ったり(もちろん、世界中から送られてきた最高級品が山のようにあるのだが、やはり自分たちで選びたいものだ)、生まれてくる子供の名前を考えたり。
「そうですね……。もし男の子だったら、この丘の大地のように雄大で、そしてたくさんの生命を育む力強い子になってほしいですわね」
リリアさんが大きくなってきたお腹を、愛おしそうに撫でながらそう言う。
「ああ。もし女の子だったら、この丘に咲く花のように優しくて、たくさんの人々を癒せる温かい子に育ってほしいな」
俺もそのリリアさんの手に、そっと自分の手を重ねた。
お腹の中の赤ちゃんは俺たちの声が聞こえているのか、ぽこり、と元気よくお腹を蹴った。その小さな生命の胎動を感じるたびに、俺の胸の奥は言葉にできないほどの温かい感情で満たされていく。
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七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18
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