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07 凶行
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弱っていた犬の親子を助けてから、私たちはとても仲良くなった。
犬の親子は初めて出会った場所によくいて、私は裏庭に通うのが日課になった。
私は仲良くなった犬の親子に名前をつけることにした。結果、母犬は「大豆」、子犬は「豆」……だと物足りないので、「小豆」という名前をつけた。
不思議なことに、大豆と小豆といる間は双子や使用人に見付からず過ごすことが出来た。だけど私が時々姿を眩ませることを怪しんだ双子は、私を納屋や納戸に閉じ込めるようになったのだ。
「何よその目はっ!! クズのくせに生意気なのよっ!!」
──ごつっ
「っ!!」
私は真央から分厚い皮の本を投げつけられ、頭から血を流していた。
「まったく見苦しいったら! あんたたち、そいつを納屋に放り込んで!! 出られないように閉じ込めるのよっ!!」
「は、はい真央お嬢様!」
「わかりました、今すぐ!」
この頃にはもう、私のすべてが気に食わなくなっていた真央は、より一層暴力的になっていた。私の粗を見付けては何かと文句を言い、すぐ暴れるのだ。
私は二人の使用人に抱えられ、屋敷の外れにある納屋に連れて行かれた。
「……まったく、真央お嬢様を怒らせないで下さいよ。面倒くさいったらありゃしない」
「でも、大丈夫でしょうか……頭から血が出ていますけど……」
「へーきへーき。琴葉様はこう見えてすごく頑丈なんだから。しばらく放っておいても死にはしないわよ」
使用人たちはそう言うと納屋の扉を閉め、中から開けられないように心張り棒で固定すると、逃げるように去っていった。
私は怪我のせいで頭がぼんやりして、しばらく起き上がることが出来ない。
どれぐらい時間が経ったのだろう、しばらくそうしていると、納屋の扉をカリカリと引っかく音が聞こえてきた。
何だろう、と思いながらぼんやりしていると、何かが倒れる音とガタガタと扉が動く音がした。
「わぅ!」
扉が開いた瞬間、納屋に入ってきたのは小豆で、私の姿を見た小豆が嬉しそうに駆け寄ってきた。
「……どうして、ここに……」
私は震える手で小豆を撫でる。手に感じる小豆の毛並みがとても気持ちいい。
「くぅん……」
小豆は私の匂いをくんくんと嗅ぐと、血が付いた手をペロペロと舐めてくれた。
「ふふ……心配してくれるの……? 有難うね……」
それから小豆は大豆の元へは帰らず、私の側にいてくれた。
そんな事があってからも、小豆は私が怪我をしたり泣いている時には、どこからともなく現れて、私を慰めてくれるようになったのだ。
屋敷の誰からも愛されず、虐げられている私にとって、小豆の存在はかけがえのないものになるのは当然のことで。
小豆という存在のおかげで、私は双子たちからの虐待を耐えることが出来たんだと思う。
──そうして月日が流れ、私が十四歳になった頃、ついにその日がやって来た。
小豆のおかげもあり、心身共に成長し、中々泣かなくなった私に双子は──特に私を憎んでいた真央は面白くなかったのだろう、ついに凶行に及んだのだ。
「ああ嫌だ嫌だ!! 何て忌々しいのっ!! 気持ち悪いほど髪を伸ばして鬱陶しいったら!! お前を見ていると気が滅入るわっ!!」
真央はそう言って私の髪の毛を引っ掴むと、私を床に引き倒した。
強い衝撃が身体を襲い、その拍子に髪の毛がブチブチと何本か抜ける音が耳に届く。
「ぐっ……!! な、何を……っ!!」
うつ伏せに倒れた私の上に、真央は馬乗りになるとハサミを取り出した。
私は恐怖でひゅっと息をのむ。
「私があんたの髪を切ってあげるわっ!! 感謝しなさいっ!!」
──じゃきん!
真央がハサミで私の髪の毛を切り落とした。
「あ……っ!」
私は床にぱらぱらと落ちる、黒い髪の毛を見て絶句する。
私の髪はお母様が亡くなってから一度も切ったことがなくて、今は腰より下ぐらいの長さになっていた。それを、真央は無惨に切り落としたのだ。
『──琴葉の髪の毛はとても綺麗ね。伸ばしたらとても美しい淑女になれるわよ』
私はお母様が褒めてくれた髪を貶され、あまつさえ切られたことに、怒りで目の前が真っ赤になる。
「……っ!! 何をするのっ!! 放してよっ!!」
髪を切られた私が暴れたことで、馬乗りになっていた真央がひっくり返り、床に背中を打ち付けた。
「きゃあっ!! 痛いっ!!」
私が抵抗するとは思わなかったのだろう、真央は痛そうに起き上がると、落としたハサミを拾い上げて私に向けた。
「く……っ、よくも……っ、よくもやってくれたわね……っ! お前なんかさっさと壊れてしまえっ!!」
犬の親子は初めて出会った場所によくいて、私は裏庭に通うのが日課になった。
私は仲良くなった犬の親子に名前をつけることにした。結果、母犬は「大豆」、子犬は「豆」……だと物足りないので、「小豆」という名前をつけた。
不思議なことに、大豆と小豆といる間は双子や使用人に見付からず過ごすことが出来た。だけど私が時々姿を眩ませることを怪しんだ双子は、私を納屋や納戸に閉じ込めるようになったのだ。
「何よその目はっ!! クズのくせに生意気なのよっ!!」
──ごつっ
「っ!!」
私は真央から分厚い皮の本を投げつけられ、頭から血を流していた。
「まったく見苦しいったら! あんたたち、そいつを納屋に放り込んで!! 出られないように閉じ込めるのよっ!!」
「は、はい真央お嬢様!」
「わかりました、今すぐ!」
この頃にはもう、私のすべてが気に食わなくなっていた真央は、より一層暴力的になっていた。私の粗を見付けては何かと文句を言い、すぐ暴れるのだ。
私は二人の使用人に抱えられ、屋敷の外れにある納屋に連れて行かれた。
「……まったく、真央お嬢様を怒らせないで下さいよ。面倒くさいったらありゃしない」
「でも、大丈夫でしょうか……頭から血が出ていますけど……」
「へーきへーき。琴葉様はこう見えてすごく頑丈なんだから。しばらく放っておいても死にはしないわよ」
使用人たちはそう言うと納屋の扉を閉め、中から開けられないように心張り棒で固定すると、逃げるように去っていった。
私は怪我のせいで頭がぼんやりして、しばらく起き上がることが出来ない。
どれぐらい時間が経ったのだろう、しばらくそうしていると、納屋の扉をカリカリと引っかく音が聞こえてきた。
何だろう、と思いながらぼんやりしていると、何かが倒れる音とガタガタと扉が動く音がした。
「わぅ!」
扉が開いた瞬間、納屋に入ってきたのは小豆で、私の姿を見た小豆が嬉しそうに駆け寄ってきた。
「……どうして、ここに……」
私は震える手で小豆を撫でる。手に感じる小豆の毛並みがとても気持ちいい。
「くぅん……」
小豆は私の匂いをくんくんと嗅ぐと、血が付いた手をペロペロと舐めてくれた。
「ふふ……心配してくれるの……? 有難うね……」
それから小豆は大豆の元へは帰らず、私の側にいてくれた。
そんな事があってからも、小豆は私が怪我をしたり泣いている時には、どこからともなく現れて、私を慰めてくれるようになったのだ。
屋敷の誰からも愛されず、虐げられている私にとって、小豆の存在はかけがえのないものになるのは当然のことで。
小豆という存在のおかげで、私は双子たちからの虐待を耐えることが出来たんだと思う。
──そうして月日が流れ、私が十四歳になった頃、ついにその日がやって来た。
小豆のおかげもあり、心身共に成長し、中々泣かなくなった私に双子は──特に私を憎んでいた真央は面白くなかったのだろう、ついに凶行に及んだのだ。
「ああ嫌だ嫌だ!! 何て忌々しいのっ!! 気持ち悪いほど髪を伸ばして鬱陶しいったら!! お前を見ていると気が滅入るわっ!!」
真央はそう言って私の髪の毛を引っ掴むと、私を床に引き倒した。
強い衝撃が身体を襲い、その拍子に髪の毛がブチブチと何本か抜ける音が耳に届く。
「ぐっ……!! な、何を……っ!!」
うつ伏せに倒れた私の上に、真央は馬乗りになるとハサミを取り出した。
私は恐怖でひゅっと息をのむ。
「私があんたの髪を切ってあげるわっ!! 感謝しなさいっ!!」
──じゃきん!
真央がハサミで私の髪の毛を切り落とした。
「あ……っ!」
私は床にぱらぱらと落ちる、黒い髪の毛を見て絶句する。
私の髪はお母様が亡くなってから一度も切ったことがなくて、今は腰より下ぐらいの長さになっていた。それを、真央は無惨に切り落としたのだ。
『──琴葉の髪の毛はとても綺麗ね。伸ばしたらとても美しい淑女になれるわよ』
私はお母様が褒めてくれた髪を貶され、あまつさえ切られたことに、怒りで目の前が真っ赤になる。
「……っ!! 何をするのっ!! 放してよっ!!」
髪を切られた私が暴れたことで、馬乗りになっていた真央がひっくり返り、床に背中を打ち付けた。
「きゃあっ!! 痛いっ!!」
私が抵抗するとは思わなかったのだろう、真央は痛そうに起き上がると、落としたハサミを拾い上げて私に向けた。
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