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06 天花寺家の血
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私が神様に祝詞を奏上してしばらく、親犬が意識を取り戻した。
親犬を助けたのは天花寺家に代々受け継がれる秘術で、自身の霊力を捧げ対象の生命力を回復させることが出来るものだ。
術で生命力が回復しても体力はすぐ戻らないから、親犬はまだ起き上がることは出来ないようだ。
それでも無事に親犬が意識を取り戻したことに私は安堵した。と同時に、私にも天花寺家の血が──天花寺家の女にだけ受け継がれる、特別な血が流れていることを再確認できて嬉しく思う。
「ちょっと待っててね、食べ物を持ってくるからね」
いつからそこで倒れていたのかわからないけれど、私は弱っている親子のために水と食べ物を持って行くことにした。
私は義母や双子と出くわさないように、そっと台所に忍び込む。
今はちょうど使用人たちも休憩している時間だ。
私は使用人たちがまかないで作った握り飯とりんごを見付けると、誰にも見られないようこそっと着物に忍ばせた。
そして台所から出ると、井戸へ向かい桶に水を溜めた。
早く犬たちにお水を飲ませてあげなくちゃ、と急いていた私は、近づく気配に全く気付いていなかった。
「──ああ、こんなところにいたんだ」
背後から声を掛けられて、私の心がすうっと冷える。
「……怜央」
私が振り向くと、そこには双子の片割れである怜央が立っていた。
真央と双子なだけあって、怜央は男なのに美しい容姿をしていた。女の子たちが怜央を見て色めき立つのも納得だ。
だけど怜央は見た目だけじゃなく、その気質も真央とそっくりで、嬉々として私をいじめる残虐な性格の持ち主だった。
真央は暴力で私を傷つけるけれど、怜央は言葉で私を傷つける。
「はあ?! 何でお前ごときが僕を呼び捨てにしているんだっ!! 様を付けろよっ!」
「……っ!!」
私は怜央の怒鳴り声にビクッと身体を竦ませる。もう何度ともなく怒鳴られ続けたせいか、怜央の声を聞くだけで身体が条件反射で竦んでしまうのだ。
「……チッ!! 姿が見えないと思ったらこんなところにいたとはね。そんなに水が欲しければくれてやるよっ!!」
怜央はそう言うと、桶に溜めた水を私にぶちまけた。
「きゃあっ!!」
頭から水を掛けられた私は全身ずぶ濡れになってしまう。
ぽたぽたと水が滴り落ちる髪越しに怜央を見れば、何故か怜央は固まったままで。
「~~っ、今度僕を呼び捨てにしたらもっと酷いからなっ!! 覚えておけっ!!」
怒りで顔を赤くした怜央は、そう言うと私に背を向けて走り去っていった。
顔を真赤にして怒っているにしては随分大人しい仕打ちだな、って思う。もし真央がここにいたら、きっと殴られていただろうから。
(あっ、早く行かないと……っ!)
私は犬の親子を待たせていることを思い出し、慌てて水を汲み直した。そして急いで犬の親子のもとへ向かう。
「……あ、いた! 良かった……」
もしかしたらもうすでに何処かへ行ってしまってるかも、と思っていたけれど、犬の親子は元いた場所を動かず、そこにいてくれた。
「ほら、お水だよ。ご飯も持ってきたんだけど……」
私は着物に忍ばせていた握り飯を二つ取り出した。怜央に水を掛けられたから、崩れたんじゃないかって思っていたけれど、無事だったのを見て安心する。
「はい、どうぞ。お米は大丈夫だよね? りんごもあるんだけど、食べられるかな……」
包丁を持ってこれず、りんごはまるまる一個になってしまった。私は食べやすいように切れないことを申し訳なく思う。
「わふぅ」
私が差し出した握り飯の匂いを嗅いでいた親犬が一声吠えると、子犬が握り飯にはふはふと食いついた。それを見た親犬がもう一個の握り飯を美味しそうに頬張る。
「……ふふ、美味しい?」
私は美味しそうに握り飯を食べる犬の親子を見て、心が温かくなるのを感じる。そしてお母様もこうして私にお菓子を分けてくれたことを思い出す。
「……お母様……会いたい……会いたいよ……」
私はお母様に会えない寂しさに、ぽろぽろと涙を零す。
双子にいじめられる辛さより、お母様に会えない悲しみのほうが余程辛い。
泣き始めた私を心配したのか、親犬が私にそっと顔を近づけてきた。すると子犬も私に近づいて、身体をすりすりと寄せてくれる。
「……ふふ、慰めてくれるの……? 有難うね」
私は恐る恐る、子犬を抱き上げた。嫌がったらすぐ離すつもりだったけれど、子犬は大人しくしてくれた。
「……温かい……」
怜央に掛けられた水で身体が冷え切っていたのだろう、子犬の体温はとても温かくて。
子犬も濡れちゃうと気が付いた時にはもう、私は親犬に包まれている状態だった。
犬たちの体温に緊張が解けたのか、久しぶりに霊力を使って疲れたからか、私は久しぶりにぐっすりと眠ることが出来た。
親犬を助けたのは天花寺家に代々受け継がれる秘術で、自身の霊力を捧げ対象の生命力を回復させることが出来るものだ。
術で生命力が回復しても体力はすぐ戻らないから、親犬はまだ起き上がることは出来ないようだ。
それでも無事に親犬が意識を取り戻したことに私は安堵した。と同時に、私にも天花寺家の血が──天花寺家の女にだけ受け継がれる、特別な血が流れていることを再確認できて嬉しく思う。
「ちょっと待っててね、食べ物を持ってくるからね」
いつからそこで倒れていたのかわからないけれど、私は弱っている親子のために水と食べ物を持って行くことにした。
私は義母や双子と出くわさないように、そっと台所に忍び込む。
今はちょうど使用人たちも休憩している時間だ。
私は使用人たちがまかないで作った握り飯とりんごを見付けると、誰にも見られないようこそっと着物に忍ばせた。
そして台所から出ると、井戸へ向かい桶に水を溜めた。
早く犬たちにお水を飲ませてあげなくちゃ、と急いていた私は、近づく気配に全く気付いていなかった。
「──ああ、こんなところにいたんだ」
背後から声を掛けられて、私の心がすうっと冷える。
「……怜央」
私が振り向くと、そこには双子の片割れである怜央が立っていた。
真央と双子なだけあって、怜央は男なのに美しい容姿をしていた。女の子たちが怜央を見て色めき立つのも納得だ。
だけど怜央は見た目だけじゃなく、その気質も真央とそっくりで、嬉々として私をいじめる残虐な性格の持ち主だった。
真央は暴力で私を傷つけるけれど、怜央は言葉で私を傷つける。
「はあ?! 何でお前ごときが僕を呼び捨てにしているんだっ!! 様を付けろよっ!」
「……っ!!」
私は怜央の怒鳴り声にビクッと身体を竦ませる。もう何度ともなく怒鳴られ続けたせいか、怜央の声を聞くだけで身体が条件反射で竦んでしまうのだ。
「……チッ!! 姿が見えないと思ったらこんなところにいたとはね。そんなに水が欲しければくれてやるよっ!!」
怜央はそう言うと、桶に溜めた水を私にぶちまけた。
「きゃあっ!!」
頭から水を掛けられた私は全身ずぶ濡れになってしまう。
ぽたぽたと水が滴り落ちる髪越しに怜央を見れば、何故か怜央は固まったままで。
「~~っ、今度僕を呼び捨てにしたらもっと酷いからなっ!! 覚えておけっ!!」
怒りで顔を赤くした怜央は、そう言うと私に背を向けて走り去っていった。
顔を真赤にして怒っているにしては随分大人しい仕打ちだな、って思う。もし真央がここにいたら、きっと殴られていただろうから。
(あっ、早く行かないと……っ!)
私は犬の親子を待たせていることを思い出し、慌てて水を汲み直した。そして急いで犬の親子のもとへ向かう。
「……あ、いた! 良かった……」
もしかしたらもうすでに何処かへ行ってしまってるかも、と思っていたけれど、犬の親子は元いた場所を動かず、そこにいてくれた。
「ほら、お水だよ。ご飯も持ってきたんだけど……」
私は着物に忍ばせていた握り飯を二つ取り出した。怜央に水を掛けられたから、崩れたんじゃないかって思っていたけれど、無事だったのを見て安心する。
「はい、どうぞ。お米は大丈夫だよね? りんごもあるんだけど、食べられるかな……」
包丁を持ってこれず、りんごはまるまる一個になってしまった。私は食べやすいように切れないことを申し訳なく思う。
「わふぅ」
私が差し出した握り飯の匂いを嗅いでいた親犬が一声吠えると、子犬が握り飯にはふはふと食いついた。それを見た親犬がもう一個の握り飯を美味しそうに頬張る。
「……ふふ、美味しい?」
私は美味しそうに握り飯を食べる犬の親子を見て、心が温かくなるのを感じる。そしてお母様もこうして私にお菓子を分けてくれたことを思い出す。
「……お母様……会いたい……会いたいよ……」
私はお母様に会えない寂しさに、ぽろぽろと涙を零す。
双子にいじめられる辛さより、お母様に会えない悲しみのほうが余程辛い。
泣き始めた私を心配したのか、親犬が私にそっと顔を近づけてきた。すると子犬も私に近づいて、身体をすりすりと寄せてくれる。
「……ふふ、慰めてくれるの……? 有難うね」
私は恐る恐る、子犬を抱き上げた。嫌がったらすぐ離すつもりだったけれど、子犬は大人しくしてくれた。
「……温かい……」
怜央に掛けられた水で身体が冷え切っていたのだろう、子犬の体温はとても温かくて。
子犬も濡れちゃうと気が付いた時にはもう、私は親犬に包まれている状態だった。
犬たちの体温に緊張が解けたのか、久しぶりに霊力を使って疲れたからか、私は久しぶりにぐっすりと眠ることが出来た。
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