紅蓮の鬼神と華印の乙女〜神隠しにあった穢れモノの私が、最愛に出逢うまで〜

五城楼スケ(デコスケ)

文字の大きさ
5 / 9

05 結界の檻

しおりを挟む
 ──お母様が亡くなって、半年経った頃に話は遡る。

 お父様が遠縁だという美しい女性、一乃を天花寺家に迎え入れた。
 
「この子たちは真央と怜央よ。貴女と同じ歳の双子なの。生まれは貴女より早いから、姉と兄になるわ」

 そう言ってお義母様になった一乃から、紹介されたのは美しい、二人の姉弟で。

「妹が欲しかったから嬉しいわ。私は真央よ、仲良くしてね」

「……僕は怜央。よろしく」

 私を見て嬉しそうに微笑む真央と、少しぶっきらぼうだけれど、照れているのか顔が赤い怜央。

 二人を紹介された私は、突然のことに戸惑いながらも、この二人となら仲良く出来るんじゃないかと、そう思っていた──二人の本性を知るまでは。

「あら、綺麗な簪じゃない。これちょうだい!」

「あっ、これはダメ! これはお母様から貰った大切な簪なのっ!!」

「はあ? お前の母親はもう死んだんだろ?! 今は一乃母さんが僕達の母親だ! お前は母さんを天花寺家の嫁だって認めないのかっ?!」

「ち、違う……っ!! そんなこと思ってない!!」

 この時あったいざこざから、双子は徐々に本性を現し、事あるごとに私をいじめるようになる。
 特に真央は私を目の敵にしていて、暴力を振るうのはもっぱら真央の方だった。

 そしてご飯抜きは当たり前で、気に食わないことがあると私を蹴ったり殴ったりと暴力を振るうのが日常茶飯事となった。

 私の大切にしていた物は取り上げられ、ちょっとでも反抗すればその何十倍もの罵詈雑言と暴力が返ってくる。

 天花寺家の血を引いているからか、傷の治りが早い体質だったのが災いし、いくら暴力を振っても死なない私への暴力は、容赦ないものになっていった。

 義母は私が双子に意地悪をされていても止めず、むしろ私が虐げられているのを楽しんでいる節まであった。

 もしかすると双子をけしかけていたのは義母だったのかもしれない。

 私がお父様に必死に助けを求めても、面倒事が嫌なのか無視される始末。昔はあんなに可愛がってくれていた姿はもう見る影もない。

 毎日繰り返される嫌がらせと暴力に、心身共に疲れ果てた私は、何処かへ逃げたいと思うようになっていた。

 だけど天花寺家の周辺には強固な結界が張られていて、まだ成人していない私は結界を超えることが出来なかったのだ。

 天花寺家の娘を守る結界が、逃げたいと願う娘を閉じ込める檻になるなんて──結界を張った術者は思いもしなかっただろう。

 結界を超えることが出来る年頃になるまで逃げることが許されない、地獄のような日々の中で、唯一私を癒やしてくれる存在が無かったら──きっと私は気が触れて、自ら命を絶っていただろう。

 その存在と出会ったのは、私が双子のいじめから逃げて、裏庭に隠れていた時だった。

「──……ん」

 息を潜めて隠れている私の耳に、か細く弱々しい声が聞こえてきた。

(……え? 今何か……)

「……くーん、くーん」

 何だろう、と思って耳を澄ますと、その声は裏庭の奥から聞こえて来るようだった。

 きっと野良犬が紛れ込んできたのだろう、と思ったものの、か弱い声を聞いた私は気になって仕方がなく、そっと様子を窺うことにした。

「……あっ!」

 なるべく音を立てないように、茂みを掻き分けて声が聞こえた方向へ行ってみると、そこには大きな犬が倒れていて、その犬のそばに小犬が寄り添っていた。

 どうやら私が聞いたのは、倒れた親犬を心配した子犬が鳴いていた声だったらしい。

(ど、どうしよう……! あの犬、怪我をしているのかな……?)

 子犬が親犬を心配している姿に、自分を重ねた私は、親犬を助けてあげたいと強く思う。

 野良犬は凶暴だから近づくな、とよく言われていたけれど、私の恐怖心は親犬を助けたいという気持ちに掻き消される。

 それに親犬を助けることが出来るのは、きっと私しかいない──そう思うから。

「?! ぐるるる~~……!!」

 親犬に気を取られていたのか、突然現れた私に子犬が唸って威嚇するけれど、私は構わず親犬に近寄った。

 私は親犬の息がまだあるとわかると、手を合わせて回復祈願の祝詞を神様に奏上した。

「<祓え給い、清め給え、守り給え、幸え給え>」

 唸っていた犬も、祝詞を聞いた途端大人しくなり、座ってじっと私を見つめている。きっとこの子犬はとてもお利口さんなんだろう。

「もう大丈夫だからね、今まで頑張ったね」

 私は子犬に向かって声を掛けた。きっと言葉の意味は伝わらないだろうけれど、それでも私は子犬を励ましてあげたかった──自分が掛けて欲しかった言葉で。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

弁えすぎた令嬢

ねこまんまときみどりのことり
ファンタジー
 元公爵令嬢のコロネ・ワッサンモフは、今は市井の食堂の2階に住む平民暮らしをしている。彼女が父親を亡くしてからの爵位は、叔父(父親の弟)が管理してくれていた。  彼女には亡き父親の決めた婚約者がいたのだが、叔父の娘が彼を好きだと言う。  彼女は思った。 (今の公爵は叔父なのだから、その娘がこの家を継ぐ方が良いのではないか)と。  今後は彼らの世話にならず、一人で生きていくことにしよう。そんな気持ちで家を出たコロネだった。  小説家になろうさん、カクヨムさんにも載せています。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です

星乃和花
恋愛
【全16話+後日談5話:日月水金20:00更新】 王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。 ……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。 追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。 無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」 騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!

悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。

三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。 何度も断罪を回避しようとしたのに! では、こんな国など出ていきます!

魔の森に捨てられた伯爵令嬢は、幸福になって復讐を果たす

三谷朱花
恋愛
 ルーナ・メソフィスは、あの冷たく悲しい日のことを忘れはしない。  ルーナの信じてきた世界そのものが否定された日。  伯爵令嬢としての身分も、温かい我が家も奪われた。そして信じていた人たちも、それが幻想だったのだと知った。  そして、告げられた両親の死の真相。  家督を継ぐために父の異母弟である叔父が、両親の死に関わっていた。そして、メソフィス家の財産を独占するために、ルーナの存在を不要とした。    絶望しかなかった。  涙すら出なかった。人間は本当の絶望の前では涙がでないのだとルーナは初めて知った。  雪が積もる冷たい森の中で、この命が果ててしまった方がよほど幸福だとすら感じていた。  そもそも魔の森と呼ばれ恐れられている森だ。誰の助けも期待はできないし、ここに放置した人間たちは、見たこともない魔獣にルーナが食い殺されるのを期待していた。  ルーナは死を待つしか他になかった。  途切れそうになる意識の中で、ルーナは温かい温もりに包まれた夢を見ていた。  そして、ルーナがその温もりを感じた日。  ルーナ・メソフィス伯爵令嬢は亡くなったと公式に発表された。

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした

有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。

押しつけられた身代わり婚のはずが、最上級の溺愛生活が待っていました

cheeery
恋愛
名家・御堂家の次女・澪は、一卵性双生の双子の姉・零と常に比較され、冷遇されて育った。社交界で華やかに振る舞う姉とは対照的に、澪は人前に出されることもなく、ひっそりと生きてきた。 そんなある日、姉の零のもとに日本有数の財閥・凰条一真との縁談が舞い込む。しかし凰条一真の悪いウワサを聞きつけた零は、「ブサイクとの結婚なんて嫌」と当日に逃亡。 双子の妹、澪に縁談を押し付ける。 両親はこんな機会を逃すわけにはいかないと、顔が同じ澪に姉の代わりになるよう言って送り出す。 「はじめまして」 そうして出会った凰条一真は、冷徹で金に汚いという噂とは異なり、端正な顔立ちで品位のある落ち着いた物腰の男性だった。 なんてカッコイイ人なの……。 戸惑いながらも、澪は姉の零として振る舞うが……澪は一真を好きになってしまって──。 「澪、キミを探していたんだ」 「キミ以外はいらない」

処理中です...