紅蓮の鬼神と華印の乙女〜神隠しにあった穢れモノの私が、最愛に出逢うまで〜

五城楼スケ(デコスケ)

文字の大きさ
4 / 9

04 穢れモノ

しおりを挟む
「……ったく、ぐずぐずしてんじゃないよ! とっととお行き!」

「は、はい……っ」

 使用人に急かされた私は慌てて薪を片付けた。真央が機嫌を損ねると、周りに当たり散らかして、ひどい仕打ちを受けてしまうから、急いで行かないといけない。

 私が台所を出た後、使用人たちの間で噂話や愚痴が飛び交っていた。

「あのお嬢は何時までここにいるんだい? あの形じゃ婚姻も結べないだろうに」

「さあねぇ。だけどまだ成人もしていない娘を追い出したりなんかしたら、悪評が立って世間の笑い者になっちまうよ」

「そりゃそうだ、天花寺家のような名家からそんな醜聞を広まったら大変だ」

「そうそう、だからなるべくお嬢には関わらないようにしなくちゃ」

「お嬢も運が悪かったね。神隠しに遭わなければ、あんな形にならなかっただろうに」

 使用人たちの声を背に、私は真央の部屋へ続く廊下を急ぎ足で向かう。

「真央お嬢様、琴葉です」

「遅いじゃない! 何時まで私を待たせるの!! 呼ばれたらもっと早く来なさいよ!! このクズ!」

「申し訳ありません」

 部屋に着くなり、真央が私に罵声を浴びせてくる。

 美しい見た目と社交的に振る舞う姿に、真央を見た人は彼女を「深窓の令嬢」だと褒め称えているけれど、その本質は激しい気性と癇癪を持つ少女だ。

 そんな彼女の本性を、この屋敷の人間以外は誰も知らない。

「さっさとお茶を淹れなさい! 煎茶じゃないわよ!! 英国産の紅茶にして!!」

「はい、かしこまりました」

 私は真央の指示通り、英国から取り寄せたという紅茶を淹れる準備をする。

 真央には専属の使用人が何人もいて、彼女の身の回りの世話をしているけれど、こうしてわざわざ私を呼びつけ世話をさせるのは、自身の自尊心を満たすためなのだろう。

「真央お嬢様、本日の髪飾りはいかが致しましょうか」

 私がお茶を入れる準備をしている横で、真央の使用人がいくつかの髪飾りを持ってきた。箱の中には華やかで繊細な装飾がなされた簪や櫛がたくさん並んでいる。

「そうねぇ……。地味だけれど、今日はこの平打ち簪にするわ」

 真央は私の方をちらりと見て、にやりと笑うと一本の簪を指した。

 それは、小花と小さな愛らしい実が、繊細な透かし彫りになった平打ち形式の簪で、そして私がお母様から譲り受けた、大切な形見の品で──

 嫌がる私から、真央が無理やり奪った簪だった。

「……っ」

 私は動揺して震える手を何とか押さえつけ、紅茶を淹れ終えた。
 ここで私が感情を出しても真央を喜ばせるだけだし、少しでも私が反抗的な態度を見せれば、これ幸いと折檻する口実を与えてしまうことになる。

「真央お嬢様、紅茶でございます」

 私は使用人に髪を結われている真央に、紅茶が入った繊細な絵柄が描かれたカップを差し出した。

「……ふん! のろまね!」

 私が反応しなかったことが気に食わなかったのだろう、真央は文句を言いながらカップを受け取った。そして一口、紅茶を口に含むと、カッと怒りの形相を浮かべて大声で叫んだ。

「──っ!! 何これっ!! 熱過ぎるわっ!! 火傷するじゃないっ!!」

 ちょうどいい温度で紅茶を渡したつもりだったけれど、真央にとっては熱かったらしい。怒り狂った真央が、カップを私に向かって投げ付けてきた。

 カップは私の足元で”ガチャーンっ!!”と大きな音を立てて砕け散る。
 その拍子にカップの破片が飛び、入っていた紅茶が私の足に掛かってしまう。

「きゃっ!! ──熱っ!!」

 沸騰したお湯よりはだいぶ温度は低いものの、それでも六十度近くあるお茶を被れば、火傷するのは当然で。

 足袋を履いていたものの、お湯が掛かった部分がヒリヒリする。

「この役立たずっ!! 紅茶もまともに淹れられないのっ?! さっさと片付けなさいよっ!!」

 すぐにでも足を冷やしたかったけれど、真央がそれを許すはずもなく。

「……申し訳ありません」

 私は足が痛むのを我慢して、割れたカップを拾い集めると、手ぬぐいで床を拭き真央の部屋を後にした。

 屋敷の裏にある塵芥箱に割れたカップを処分して、私はようやく井戸で火傷した足を冷やすことが出来た。

「……痛い……」

 足を冷やしている内に、どんどん自分が惨めになってきて、目から涙がぽろぽろと零れ落ちていく。

 ──私も天花寺家の人間なのに、どうしてこんな扱いを受けているのだろう……?

 自分の頭の中に湧き上がる疑問──その答えを知っていても、私は何度も何度も問い掛けてしまう。

 お母様が亡くなり、義母たちがこの家に来てすぐに私への虐待は始まった。

 だけどもっと扱いが酷くなったのは、私が十四歳になったばかりの頃で。

 神隠しに遭い白髪になって戻ってきたその日から、私は”穢れモノ”として使用人以下の扱いを受けるようになったのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

弁えすぎた令嬢

ねこまんまときみどりのことり
ファンタジー
 元公爵令嬢のコロネ・ワッサンモフは、今は市井の食堂の2階に住む平民暮らしをしている。彼女が父親を亡くしてからの爵位は、叔父(父親の弟)が管理してくれていた。  彼女には亡き父親の決めた婚約者がいたのだが、叔父の娘が彼を好きだと言う。  彼女は思った。 (今の公爵は叔父なのだから、その娘がこの家を継ぐ方が良いのではないか)と。  今後は彼らの世話にならず、一人で生きていくことにしよう。そんな気持ちで家を出たコロネだった。  小説家になろうさん、カクヨムさんにも載せています。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です

星乃和花
恋愛
【全16話+後日談5話:日月水金20:00更新】 王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。 ……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。 追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。 無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」 騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!

悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。

三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。 何度も断罪を回避しようとしたのに! では、こんな国など出ていきます!

魔の森に捨てられた伯爵令嬢は、幸福になって復讐を果たす

三谷朱花
恋愛
 ルーナ・メソフィスは、あの冷たく悲しい日のことを忘れはしない。  ルーナの信じてきた世界そのものが否定された日。  伯爵令嬢としての身分も、温かい我が家も奪われた。そして信じていた人たちも、それが幻想だったのだと知った。  そして、告げられた両親の死の真相。  家督を継ぐために父の異母弟である叔父が、両親の死に関わっていた。そして、メソフィス家の財産を独占するために、ルーナの存在を不要とした。    絶望しかなかった。  涙すら出なかった。人間は本当の絶望の前では涙がでないのだとルーナは初めて知った。  雪が積もる冷たい森の中で、この命が果ててしまった方がよほど幸福だとすら感じていた。  そもそも魔の森と呼ばれ恐れられている森だ。誰の助けも期待はできないし、ここに放置した人間たちは、見たこともない魔獣にルーナが食い殺されるのを期待していた。  ルーナは死を待つしか他になかった。  途切れそうになる意識の中で、ルーナは温かい温もりに包まれた夢を見ていた。  そして、ルーナがその温もりを感じた日。  ルーナ・メソフィス伯爵令嬢は亡くなったと公式に発表された。

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした

有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。

押しつけられた身代わり婚のはずが、最上級の溺愛生活が待っていました

cheeery
恋愛
名家・御堂家の次女・澪は、一卵性双生の双子の姉・零と常に比較され、冷遇されて育った。社交界で華やかに振る舞う姉とは対照的に、澪は人前に出されることもなく、ひっそりと生きてきた。 そんなある日、姉の零のもとに日本有数の財閥・凰条一真との縁談が舞い込む。しかし凰条一真の悪いウワサを聞きつけた零は、「ブサイクとの結婚なんて嫌」と当日に逃亡。 双子の妹、澪に縁談を押し付ける。 両親はこんな機会を逃すわけにはいかないと、顔が同じ澪に姉の代わりになるよう言って送り出す。 「はじめまして」 そうして出会った凰条一真は、冷徹で金に汚いという噂とは異なり、端正な顔立ちで品位のある落ち着いた物腰の男性だった。 なんてカッコイイ人なの……。 戸惑いながらも、澪は姉の零として振る舞うが……澪は一真を好きになってしまって──。 「澪、キミを探していたんだ」 「キミ以外はいらない」

処理中です...