紅蓮の鬼神と華印の乙女〜神隠しにあった穢れモノの私が、最愛に出逢うまで〜

五城楼スケ(デコスケ)

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03 御神木

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「琴葉、ほら見てご覧なさい。美しいでしょう?」

「──わぁ……っ、綺麗……!」

 大好きなお母様に連れられ、森の中をしばらく進むと、大きな石の鳥居が見えた。お母様と一緒に鳥居をくぐると、眼の前に花々が色を競うかのように咲き乱れる花畑があったのだ。

 あまりの美しさに、私の胸が締めつけられる。

「琴葉、あの注連縄が巻かれている木が、天花寺家の女が守っている御神木よ」

 私がお母様の視線を追うと、花畑の先にある小さな丘の上に、木が一本生えていた。

 お母様に促されその木に近づいてみると、意外と樹高は高くなくて、手を伸ばせば私でも普通に枝に触れることが出来る高さだった。

「随分と可愛らしい御神木なのですね」

 御神木といえば何百年、何千年と生き続け、天を貫きそうなほど大きな木、みたいなイメージがあったけど、眼の前の御神木は屋敷の二階ほどの高さしかなかった。

 だけど御神木の表面には苔がむしていて、背は低くてもこの御神木が悠久の時間を生きてきたことは容易に想像できた。

「今は青葉が茂っているけれど、それはそれは美しい花を咲かすのよ。浅紅色の花が一斉に咲き誇る姿はとても幻想的なの」

「ええ……っ! いいなぁ、私も見てみたいなぁ……!」

 私はお母様の言葉を聞いて、頭の中で御神木が浅紅色に染まる姿を想像した。それはきっとすごく美しい光景なんだろうな、って思う。

「ふふ、実はもう一つお話があってね、何百年かに一度、御神木に可愛い実がなるのよ。実がなる時、葉っぱは黄金色に輝くのですって」

「葉っぱが黄金色に……? すごい! 不思議!」

 今は青々とした葉っぱが御神木を覆っているけれど、葉の隙間から差し込む光と葉の影のコントラストが、私に自然の美しさを教えてくれているかのようだ。

 今でさえ十分美しい御神木が、更に変化して金色の葉を繁らせ実るなんて……それはどれほど神々しい光景なのか、私の乏しい想像力では表現できないだろうな、って思う。

「母様は見たことがないけれど、琴葉が生きている間、その光景を見れるかもしれないわね」

 そう言って微笑むお母様の表情は少し寂しげで、それでも子供の私でさえ息を呑むほど美しかった。

 お母様と一緒に見た御神木の姿は、今でも私の中に鮮やかな思い出として残っている。

 きっとこの時が、私の人生で一番幸せな瞬間だったのかもしれない。


 * * * * *


 ──まだ薄暗い早朝、私は暗くて小さい部屋の、薄い布団の中で目が覚めた。

 疲れが残っている身体を無理やり起こした私は、眠い目をこすりながら支度を整える。

 井戸から汲んだ冷たい水で手と顔と口を洗い、身だしなみを整えると、夜見ノ森がある東の方向へ向かって二拝二拍手一拝する。

 私は今日も無事朝を迎えられたことに感謝しながら「おはようございます」と挨拶をする。この時、『今日も一日、私をお守りください』と心の中で唱えるのを忘れない。

 これは、幼い頃から母に教えられた朝の行いで、新しい一日を迎えられたことに対する感謝と敬意を、神様や自然に捧げるのだそうだ。

 朝の挨拶が終われば、屋敷内の掃き掃除とゴミ拾いをし、朝食の準備をする。

 かまどに火を入れた頃になってようやく、屋敷の使用人たちが台所へとやって来た。

「うわっ! あやかし! ……と思ったらお嬢か。朝から驚かさないでおくれよ」

「全く辛気臭いったらありゃしない。あの髪も気味が悪いよ」

 私の姿を見た使用人たちが、蔑んだ目で私を見る。

「……ごめんなさい……」

 私は持っていた手ぬぐいで頭を隠す。それでも、私の髪の毛を完全に隠せるわけじゃないけれど。

「ああ、いたいた! お嬢、真央お嬢様がお呼びだよ。早く真央お嬢様の部屋に行きな!」

 別の使用人が慌てた様子で台所に来たかと思うと、私に真央の部屋へ行けと言ってきた。

 真央──それは、お父様の後妻となった一乃の連れ子である双子の姉の名前だ。

 私の義母となった一乃は双子の姉弟と共謀し、あっという間に屋敷中の使用人を手中に収めた。
 お母様が生きていた頃、私に優しくしてくれた使用人たちは皆解雇され、今屋敷にいる使用人は全員義母の言いなりだ。

 だから義母が毛嫌いする私を、屋敷中の人間全員が嫌悪しているのだ──お父様も含めて。

 だけど、屋敷中の人間が私を毛嫌いするのは、私が前妻の子だからという理由だけではない。

 何故なら、私の見た目──髪の毛が、雪のように真っ白い色をしているからだ。
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