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02 不吉な予感
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明治から大正に移り変わろうとする時代の狭間に存在した、もう一つの世界。
極東に位置する島国、日ノ本國。
神秘と黄金の国と称される日ノ本國は、長い間国を閉ざし外国との交流を絶っていたが、列強国や国際社会からの圧力により、開国を余儀なくされた。
開国により、日ノ本國に異国文化が急速に流入すると、各都市には洋風建築が立ち並び、夜道をガス灯が照らし、洋装を身にまとう人が増え、西洋料理が家庭に広まって行った。
その結果、日ノ本國は衣食住から思想・技術まで、生活のあらゆる面を変化させることとなる。
新しい異国文化が日ノ本國に齎されるに連れ、古より人間たちと共存していたあやかしたちにも変化が訪れた。
陰に生きていたあやかしたちは、陽の下にその姿を現すようになり、ありとあらゆる分野でその人ならざる力を発揮するようになったのだ。
人にはない力を持つあやかしが、自らの地位を確立していくのはあっという間で。
今やあやかしは人間と顕色ない権力を持つまでに至り、人と同じように罪を犯すあやかしたちの存在は、日ノ本國の民を恐怖に陥れていた。
そんなあやかしに人間は太刀打ち出来ないのではないか、と思われていたが、古来より日ノ本國を悪しきものより守護してきた五つの家門、陰陽五摂家を筆頭に陰陽七清華家など公達が陰陽省を設置。
強い霊力を持つ者が集まる陰陽省は、人に害をなすあやかしに対抗出来る唯一の機関となる。
陰陽省の設立で人間とあやかしの力の均衡が保たれると、日ノ本國は落ち着きを取り戻し、西洋文化を取り込みながら独自の発展を遂げていく。
そして種族は違えど、共存してきた人間とあやかしは、日ノ本國の未来のためお互いが秩序を守り、調和を図るよう取り決めを行った。
そうして急速に変化していく日ノ本國の、帝都の東の位置に、古より続くとある名家──天花寺家があった。
天花寺家は、鎮守の森とされる夜見ノ森と、その周辺の土地の地主でもあった。
私、天花寺琴葉は華族の血を引くと云われる家の一人娘で、両親に愛されながら大切に育てられた。
お母様はとても優しくて、子供の私の目から見ても、とても美しい人だった。
お父様は家督を実弟に譲り、天花寺家の婿養子に入るほどお母様を愛していて、周りの人たちからは、おしどり夫婦だとよく揶揄われていたと記憶している。
そんな両親を見て育った私は、自分も大人になったらお母様のように愛され、愛した人と幸せな家庭を築きたい、とずっと夢見ていた。
だけど年頃の少女なら誰でも願いそうな、ささやかな夢は、お母様の死を境に砕け散ってしまった。
私が十二歳の頃、お母様が病気で亡くなると、お父様はショックのあまり抜け殻のようになってしまったのだ。
お父様はそれはもう深く深くお母様を愛していたから、お母様の突然の死を受け入れられなかったんだと思う。
だけどお母様が亡くなってから半年後のある日、お父様が突然遠縁だという女性を家に連れて来た。
遠縁だという女性は、お母様とはまた違った美しい人で、男の人の心を溶かすような、そんな妖艶さがあった。
「……琴葉。この人は一乃さんと言ってね、喪が明けたら彼女と籍を入れようと思っているんだ。琴葉の新しいお母様になるんだよ」
──私は、お父様の言葉が信じられなかった。
あれだけお母様を愛していて、亡くなっても死を受け入れられず、抜け殻のようだったお父様が、喪が明けもしない内から別の女性を連れてくるなんて。
「あなたが琴葉ちゃんね。どうぞよろしく。私にも琴葉ちゃんと同じ歳の双子の子供がいるのよ。仲良くしてちょうだいね」
一乃と呼ばれた女性は、驚きのあまり絶句している私に美しく微笑んだ。だけど、口は笑いの形をしていても、目は全然笑っていなかった。
そんな彼女の瞳はまるで、光を飲み込む闇のような、そんな昏い黒色だったのだ。
私は一乃と名乗るその女性の黒い瞳に、悍ましいナニかを感じ取る。
この時感じたナニかは、不吉な予感とよく似ていて──
そしてその不吉な予感は当たり、その日から私の生活は一変することになる。
極東に位置する島国、日ノ本國。
神秘と黄金の国と称される日ノ本國は、長い間国を閉ざし外国との交流を絶っていたが、列強国や国際社会からの圧力により、開国を余儀なくされた。
開国により、日ノ本國に異国文化が急速に流入すると、各都市には洋風建築が立ち並び、夜道をガス灯が照らし、洋装を身にまとう人が増え、西洋料理が家庭に広まって行った。
その結果、日ノ本國は衣食住から思想・技術まで、生活のあらゆる面を変化させることとなる。
新しい異国文化が日ノ本國に齎されるに連れ、古より人間たちと共存していたあやかしたちにも変化が訪れた。
陰に生きていたあやかしたちは、陽の下にその姿を現すようになり、ありとあらゆる分野でその人ならざる力を発揮するようになったのだ。
人にはない力を持つあやかしが、自らの地位を確立していくのはあっという間で。
今やあやかしは人間と顕色ない権力を持つまでに至り、人と同じように罪を犯すあやかしたちの存在は、日ノ本國の民を恐怖に陥れていた。
そんなあやかしに人間は太刀打ち出来ないのではないか、と思われていたが、古来より日ノ本國を悪しきものより守護してきた五つの家門、陰陽五摂家を筆頭に陰陽七清華家など公達が陰陽省を設置。
強い霊力を持つ者が集まる陰陽省は、人に害をなすあやかしに対抗出来る唯一の機関となる。
陰陽省の設立で人間とあやかしの力の均衡が保たれると、日ノ本國は落ち着きを取り戻し、西洋文化を取り込みながら独自の発展を遂げていく。
そして種族は違えど、共存してきた人間とあやかしは、日ノ本國の未来のためお互いが秩序を守り、調和を図るよう取り決めを行った。
そうして急速に変化していく日ノ本國の、帝都の東の位置に、古より続くとある名家──天花寺家があった。
天花寺家は、鎮守の森とされる夜見ノ森と、その周辺の土地の地主でもあった。
私、天花寺琴葉は華族の血を引くと云われる家の一人娘で、両親に愛されながら大切に育てられた。
お母様はとても優しくて、子供の私の目から見ても、とても美しい人だった。
お父様は家督を実弟に譲り、天花寺家の婿養子に入るほどお母様を愛していて、周りの人たちからは、おしどり夫婦だとよく揶揄われていたと記憶している。
そんな両親を見て育った私は、自分も大人になったらお母様のように愛され、愛した人と幸せな家庭を築きたい、とずっと夢見ていた。
だけど年頃の少女なら誰でも願いそうな、ささやかな夢は、お母様の死を境に砕け散ってしまった。
私が十二歳の頃、お母様が病気で亡くなると、お父様はショックのあまり抜け殻のようになってしまったのだ。
お父様はそれはもう深く深くお母様を愛していたから、お母様の突然の死を受け入れられなかったんだと思う。
だけどお母様が亡くなってから半年後のある日、お父様が突然遠縁だという女性を家に連れて来た。
遠縁だという女性は、お母様とはまた違った美しい人で、男の人の心を溶かすような、そんな妖艶さがあった。
「……琴葉。この人は一乃さんと言ってね、喪が明けたら彼女と籍を入れようと思っているんだ。琴葉の新しいお母様になるんだよ」
──私は、お父様の言葉が信じられなかった。
あれだけお母様を愛していて、亡くなっても死を受け入れられず、抜け殻のようだったお父様が、喪が明けもしない内から別の女性を連れてくるなんて。
「あなたが琴葉ちゃんね。どうぞよろしく。私にも琴葉ちゃんと同じ歳の双子の子供がいるのよ。仲良くしてちょうだいね」
一乃と呼ばれた女性は、驚きのあまり絶句している私に美しく微笑んだ。だけど、口は笑いの形をしていても、目は全然笑っていなかった。
そんな彼女の瞳はまるで、光を飲み込む闇のような、そんな昏い黒色だったのだ。
私は一乃と名乗るその女性の黒い瞳に、悍ましいナニかを感じ取る。
この時感じたナニかは、不吉な予感とよく似ていて──
そしてその不吉な予感は当たり、その日から私の生活は一変することになる。
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