隠れ御曹司は、最強女子を溺愛したい

藤永ゆいか

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第4章

蓮くんの優しさ

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保健室で膝の手当をしてもらってから、彗くんと一緒に教室に戻ると、私の席の近くに伊集院さんが立っているのが見えた。

「えっ。伊集院さん……?」

私の声に気づいたのか、伊集院さんは顔色を変え、何かを隠すように慌ててその場から走り去った。

何だろう……?

胸騒ぎを覚えながらも、私は自分の席に向かった。

「あっ、菜乃花ちゃん! 次の家庭科は、教室じゃなく家庭科室でするんだって」
「そうなの!?」
「うん。急遽変更になったみたいで、さっき家庭科の先生が教室まで伝えに来たんだよ」
「そうだったんだ。ありがとう」

千春ちゃんに教えてもらった私は、大急ぎで家庭科の授業の準備をする。

「予鈴が鳴るまで、あと5分だよ」
「菜乃花、急ごう!」
「うん」

この日、日直の私は、教科書やノートを持つと、教室の戸締りをして彗くんと千春ちゃんと一緒に駆け足で家庭科室へと向かった。


家庭科の授業が終わって、放課後。日直の私は、職員室まで日誌を届けに来ていた。

「お疲れさん。そうだ、羽生にちょっと頼みがあるんだが……」
「何ですか?」
「教室に戻るついでに、これを運んでおいてくれないか?」

私は先生から、分厚い本を何冊か渡された。
……う。これは、けっこう重いかも。

「それ、明日の1限目の俺の授業で使う資料なんだ。よろしく頼むよ」

先生にニコニコしながらお願いされると、さすがに断ることはできなくて。

「分かりました」

私は、引き受けることにした。

「はあ……」

職員室を出て何冊もの分厚い資料の本を改めて見ると、無意識にため息がこぼれてしまう。

まあ、今日は日直だから仕方ないよね。教室に戻るついでだし、頑張ろう。気合いを入れて、歩き始めたそのとき。

「あれ、菜乃花ちゃん?」

後ろから誰かに声をかけられた。

「蓮くん!」

振り返ると、そこに立っていたのは蓮くんだった。

「どうしたの? ため息なんかついて」
「えっ! もしかして、今の聞こえてた?」
「うん」

私のため息、そんなに大きかったんだ。今度から気をつけなくちゃ。

「何でもないから、気にしないで? 私、急ぐね」
「……もしかして、さっきの菜乃花ちゃんのため息の原因ってそれ?」
「え?」

私が先生から頼まれた資料を教室に持って行こうとしていると、突然手が軽くなった。

︎︎︎︎︎︎「これ、菜乃花ちゃんのクラスのA組まで持って行けばいいのかな?」

隣を見ると、いつの間にか蓮くんが立っていて、涼しい顔で資料のほとんどを持ってくれている。

「えっ。蓮くん!?」
「僕も手伝うよ。重いでしょ?」

彼の笑顔は、まるで人懐っこい子犬のようだ。

「でも、他のクラスの蓮くんに手伝ってもらうわけには……」
「いいんだよ。ちょうど僕も、教室に忘れ物を取りに行くところだったから」

確かに、私のA組と蓮くんのB組は教室が隣同士だけど。

「僕、バスケ部なのに。肝心のバッシュを忘れちゃってさ」

ペロッと舌を出し、えへへと可愛らしく笑う蓮くん。

「だから、遠慮しないでよ」
「ありがとう。それじゃあ、お言葉に甘えて……」

私は、蓮くんと並んで廊下を歩く。

「あっ、蓮くんだ~」

しばらく歩いていると、蓮くんはすれ違った同じ2年生の女の子に声をかけられた。

「それ、先生のお手伝い?」
「まあ、そんなところ」
「蓮くん、えらいね。頑張って!」
「うん。ありがとー」

女の子に手を振りながら、爽やかに微笑む蓮くんは、まるでテレビの中のアイドルみたいだ。

彗くんもかっこいいけど、蓮くんもなかなかのイケメンさんだもんね。

ていうか蓮くんの顔って、やっぱりどことなく彗くんに似てるなぁ。

まあ、二人はいとこだって言ってたから。どこかしら似ていても、不思議じゃないのかもしれないけど。

「……どうしたの? 菜乃花ちゃん。さっきから僕のこと、そんな熱い眼差しで見つめちゃって」
「えっ!?」

あっ、熱い眼差しって……!

「もしかして、僕の顔に何かついてる?」

今度は蓮くんにじっと見つめられて、私は慌てて彼から視線を逸らした。

「な、何もついてないです!」
「ふはっ。そんなに慌てなくても良いのに」

クスクス笑いながら、蓮くんが私に顔をグッと近づけてくる。

「でも、僕のことは必要以上に見ないほうが良いかもね?」
「えっ。どうして?」

目を瞬かせる私に微笑んで、蓮くんが言葉を続ける。

「どうしてかっていうと……」
「菜乃花っ!」

蓮くんの言葉を遮るように名前を呼ばれて、ハッとそちらを振り向く。

「蓮、お前……!」

そこにいたのは彗くんで、蓮くんを睨むように見ていた。

「あーあ。せっかく菜乃花ちゃんと、久々の二人きりだったのに。邪魔が入っちゃったよ」
「邪魔って、お前なあ」

彗くんの眉間に、シワが寄る。

「菜乃花は、俺の彼女だぞ!?」

彗くんの声に、廊下の空気がピリッと張り詰める。

「はいはい。言われなくても分かってるよ。僕は、菜乃花ちゃんの仕事を手伝っていただけで。彗が心配するようなことは、何もないから」

蓮くんはやれやれといった様子で、彗くんに近づく。

「これは、彗に託すから。あとは二人で仲良くやってよ」

蓮くんは持っていた資料の本を彗くんに渡すと、踵を返して歩き始める。

「あっ、ありがとう、蓮くん……!」

後ろ姿にお礼を言うと、蓮くんは片手を上げてそのまま真っ直ぐ廊下を歩いていく。

もしかして、蓮くん……バッシュを忘れたっていうのは嘘だったのかな?

自分のクラスであるB組が近づいても蓮くんは足を止めることなく、ついには教室の前を素通りした。

ああ、やっぱりそうだ。蓮くんはわざわざ私を手伝うために、忘れ物をしただなんて言ってくれたんだ。

「蓮くん、本当にありがとう!」

私は優しい彼の背中に向かって、もう一度大きな声でお礼を言った。


「それじゃあ、俺たちも帰ろうか」

先生に頼まれた本を教室の教卓に運び終えると、彗くんが口を開いた。

「うん、そうだね。ていうか、ごめんね? 彗くんにまで、運ぶのを手伝ってもらっちゃって」
「いや。これくらい全然」
「ふふ。ありがとう」

彗くんにお礼を言い、私が帰る準備をしようとしたとき。

「……あれ?」

スクールバッグを手に取った瞬間、ある異変に気づいた。

まさか……。

血の気が引くのを感じながら、バッグにつけたキーホルダーの隣を見る。

「うそ……ない」

いつもそこにあったはずの、彗くんからもらった黄色い花の髪飾りが、跡形もなく消えていた。

彗くんから髪飾りをもらったときは、すごく嬉しかったから。いつも肌身離さず持っていたくて。

バレッタだったら学校のカバンにもつけられると思って、いつもつけていたんだけど……もしかして、どこかに落とした?

「どうした? 菜乃花」

突然固まった私を不思議に思ったのか、彗くんが声をかけてくる。

「えっと、あのね……」

言いかけた言葉を、私はすばやく飲み込んだ。

「う、ううん。何でもないよ」

彗くんからもらった物をなくしただなんて、本人に言えるわけがない。

もしかしたら、家に置いてきたって可能性もあるから。このあと帰ったら、一度探してみよう。

そして帰宅した私は、家の中をくまなく探してみるも、問題の髪飾りはどこにもなかった。
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