隠れ御曹司は、最強女子を溺愛したい

藤永ゆいか

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第4章

恐怖は突然に

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彗くんが教室で、自分の正体を明かして数日。

彼が三池財閥の御曹司だということは、学園中に知れ渡った。

そして……。

「好きです! 付き合ってください」

あの日以来、彗くんは女の子にモテるようになった。

今日も休み時間に女の子から中庭に呼び出され、告白されている。

私は彗くんのボディーガードとして、彼から数メートル離れたところから様子をこっそりと見守っていた。

あんなにもイケメンで、日本有数の大財閥の御曹司なんだもん。モテて当然だよね。そう頭では理解しているけれど、胸の奥に小さなチクッとした痛みが走る。


「ごめん。俺、彼女いるから」
「そ、そうですよね。告白してすいませんでした」

彗くんに振られた女の子が、逃げるように去っていく。

「菜乃花、ごめん!」

女の子が立ち去ると、彗くんが申し訳なさそうな顔で私の元に駆けてきた。

「ううん、大丈夫だよ。ていうか彗くん、毎日のように女の子から告白されて。ほんと大人気だね?」
「何だ? 菜乃花が俺にそんなことを言ってくるってことは、俺が女子から告白されて気が気でないとか?」

私に顔を近づけて、ニヤニヤしながら尋ねる彗くん。

ちょっ、彗くん近いって! 整いすぎた顔が目の前に迫って、心臓が大きく跳ねる。

「な、何を言ってるの? 気が気でないとか、そんなわけないでしょ!?」

本当は告白される彗くんを陰で見守りながら、内心ソワソワしてたけど……そんなこと、本人に言えるわけがない。

「ふーん。そっか」

彗くんがつまらなさそうに、私から顔を離す。

「まぁ、俺には菜乃花がいるから。たとえ何人の女子に告白されようと、これからもなびくことはないけどね」

彗くんの言葉に、またもや心臓がドクンと音を立てる。

彗くんにそんなことを言われたら、期待しちゃうよ。

だけど、彗くんがそう言ってくれるのは……体育祭の借り物競争のときのお題と同様、私が彗くんのボディーガードで、彼女役をしているからだよね?


それから数週間後。

梅雨入りしてからはずっと雨だったけど、今は梅雨の中休みだからか、ここ何日か晴れの日が続いている。

「菜乃花。今日は天気もいいし、久しぶりに中庭でお昼にしない?」

彗くんの声は、まるで梅雨の晴れ間に差し込んだ陽だまりのように、穏やかだ。

「うん、いいね」

彗くんに誘われ、私たちは中庭で昼食をとることに。

中庭のベンチに彗くんと並んで座っていると、さらりとした風が頬をかすめる。

青空の下、久しぶりに外で食べるご飯は美味しくて。いつもよりもお箸が進む。

「あのさ、菜乃花」

隣に座る彗くんが、ウインナーを頬張っている私に、細長い封筒を渡してきた。

「えっと、これは?」
「来週末、都内のホテルで三池財閥主催のパーティーがあるんだけど。これは、その招待状」

彗くんから招待状を受け取った私は、ゴクリと唾を飲み込む。

「もしかしてこれが、前に彗くんが話してた例のパーティー?」
「ああ、そうだよ」

最初に彗くんとボディーガード兼カノジョの契約を結んだとき、近々開催される三池財閥のパーティーで、彗くんの彼女として私に参加して欲しいって言われてたんだよね。

彗くんのお父さんが、パーティーに参加したご令嬢のなかから彗くんの結婚相手を探そうとしているらしく、それを阻止するために。

「どう? 菜乃花。出席してもらえるかな?」

庶民の私が財閥主催の大々的なパーティーなんて、今までもちろん出席したことはないけど……。

すでに、乗り掛かった船だ。最後まで、自分の役目をしっかり果たさないと。

それに、少しでも彗くんの役に立ちたいし。

「分かった。私で良ければ、参加させてもらうよ」
「ありがとう!」

彗くんに陽だまりのような笑顔を向けられ、自然と表情がゆるんだ。


それからしばらくして、ランチタイムは終了。

教室に戻るため、私が彗くんと一緒に中庭を歩いているとき、事件が起こった。

歩いていた彗くんの頭上を目がけて、校舎から花瓶が落ちてきたんだ。

「彗くん、危ないっ!」

私の声は、まるで雷鳴のように響いた。

ダメだ、間に合わない……!

瞬時に危険を察知した私は、考えるよりも早く、彗くんの背中を全力で突き飛ばした。

その直後、耳をつんざくような激しい音──。

ガシャーンッ!!

彗くんがいた場所に、色とりどりの花と、粉々に砕け散ったガラスが散らばった。

「彗くん、怪我はない!?」
「あっ、ああ。俺は大丈夫」

彗くんが無事だと分かり、胸を撫でおろす。

幸い、彗くんに怪我はなかったけれど。もしあの花瓶が頭に直撃していたらと思うと、ゾッとする。

そもそも、この学校の廊下に花瓶なんて置かれていないから。花瓶が、勝手に窓から落ちたってことはないだろうし。

やっぱり誰かが、故意にやったとしか考えられない。

一体、誰がこんなことを……。

花瓶が落ちてきた校舎の3階の窓に目をやると、そこには誰もいなかった。

今までは、学校で狙われることなんてなかったのに……やっぱり、彗くんが正体を明かしたから?

「私、先生に報告してくるよ」
「……待って」

職員室に行こうとした私の腕を、彗くんが掴んだ。

「菜乃花、怪我してるじゃないか」
「あっ」

彗くんに言われて気づいたけど、私の膝からは薄らと血が流れていた。

彗くんを突き飛ばしたときに、地面に飛び込むような形になったから。

そのときに、膝を擦ってしまったのかな?

私は、膝についていた土を手でさっと払う。

「菜乃花、保健室行こう」

私の手を取り、歩き出そうとする彗くん。

「だっ、大丈夫だから。かすり傷くらいで保健室だなんて、大袈裟だよ」

空手や合気道を習っていたときは、怪我なんてしょっちゅうしていたし。

「大袈裟じゃないよ」

彗くんは私の手を引いて、中庭の脇にある水道まで連れていくと、何の躊躇いもなく蛇口をひねり、私の膝を水で洗い流し始めた。

彗くんに、こんなことをさせるなんて……。

「ごめんね」

申し訳なさで胸が一杯になり謝る私に、彼は優しく言った。

「ううん。菜乃花が謝る必要なんてないから」

その言葉と、彼の手の温かさに、胸の奥がじんわりと熱くなるのを感じた。

彗くんは膝についていた土をキレイに洗い流すと、持っていたハンカチで優しく拭いてくれた。

「ありがとう、彗くん」
「お礼は良いから。保健室でちゃんと手当してもらおう」
「でも……」
「菜乃花は、大したことないって言うけど。俺のせいで菜乃花が怪我をしたんだ。だから、心配なんだよ」

真剣な表情の彗くん。

彼が本気で心配してくれているのが伝わってきて、私は何も言えなくなる。

「菜乃花がどうしても拒否するなら、この前の体育祭の練習のときみたいに、お姫様抱っこして連れてくけど?」
「えっ!?」

ハードルに足を引っ掛けて転んだ私を、彗くんがお姫様抱っこしてくれたときのことが頭を過ぎった。

あのときと違って、今の彗くんは学園ではアイドル的な存在だから。

今あれをされるのは、さすがにちょっと……。

「う、分かった。保健室、ちゃんと行くから」
「良かった。菜乃花はえらいね」

彗くんの手が、頭に優しく触れた。

「それじゃあ、行こっか」

彗くんは、当然のように私に手を差し出してくれる。

そっと取ったその手は、いつもと変わらず大きくてとても温かかった。
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