隠れ御曹司は、最強女子を溺愛したい

藤永ゆいか

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第1章

私の過去②

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あれは、私が7歳だった小学2年生の夏のある日のこと。
この日私は友達と二人で、家の近所の川のほとりで水遊びをしていた。

「あっ」

突然吹きつけた風に煽られて、被っていた麦わら帽子がふわりと飛んでいく。

「ま、待って!」

そのままころころと転がって、帽子は川へと吹き飛ばされてしまった。

まだ幼かったこの当時『ひとりで川に入ったら絶対にダメよ』と、お母さんに言われていたけれど。

帽子を取りに行くことで頭がいっぱいだった私は、そんなことなどすっかり忘れて、ひとり川の中へと入った。

だけど帽子を追いかけている途中で急に川の深い所にはまってしまい、私はそのまま流されてしまった。

泳ごうとするも、川の流れが早くて思うようにいかない。

「た、助けて……っ」

呼吸が上手くできない。水もどんどん口の中に入ってきて苦しい。

ああ、もしかしたら私はこのまま溺れて死ぬのかなと思った。

徐々に、意識が遠のいてきたそのとき──。

「菜乃花ちゃん!」

誰かに大声で名前を呼ばれ、気づいたら私は川岸に横たわっていた。

「菜乃花ちゃん、大丈夫?」

すぐ目の前には、男の子の顔のドアップ。

私を心配そうな顔で覗き込むのは、あおいくんという中学生の男の子。

葵くんは絵を描くのが好きらしく、ここで写生をしているのをよく見かけていた。

ここで何度か会ううちに顔見知りとなった私たちは、会うと彼の絵を見せてもらったり、おしゃべりするようになっていた。

もしかして、葵くんが助けてくれたの?

私がこくっと首を縦に振ると、葵くんは安心したように微笑んでくれた。

そのあと私は意識を失ってしまって、あとのことはよく覚えていないけれど。

お母さんに、こっぴどく怒られて。
『菜乃花は、川に行くの禁止!』と言われてしまった。

それから自然とあの川へは行かなくなり、数週間が経った頃。

私は、溺れたあの日に一緒に川に遊びに行っていた友達から、葵くんが亡くなったという話を聞いた。

もしかして、私のせい? そんな考えが、真っ先に頭の中を過ぎった。

一度だけ、葵くんから聞いたことがある。

葵くんは川に来ても、いつも静かに本を読んだり絵を描いているだけで。川で遊んでいるところを見たことがなかったから。

『葵くんは、川で遊ばないの? たまには一緒に遊ぼうよ』と声をかけたら。

『ごめんね、菜乃花ちゃん。俺、生まれつき心臓が悪いんだ。だから、川とかプールには入っちゃダメだって、お医者さんに言われてるんだよ』

葵くんは少し困ったように笑っていた。

そのことを思い出した私は、ここが小学校の教室だということも忘れて、その場に膝から崩れ落ちた。

「うっう」

あのとき、自分が川に入らなければ……。私が、ちゃんと泳げていれば……。

目から涙が、とめどなく溢れてくる。

「ごめん、ごめんなさい……っ」

葵くんとは、あそこの川でたまに会って話すだけの関係で。彼がどこに住んでいるのかとか、名前と年齢以外のことは何も知らなかったから。

このとき私はただ、声に出して謝ることしかできなかった。

それから少しして私は、お父さんの仕事の都合で他県に引っ越した。

そのため、あの川へは一度も行くことがなかったけれど。

7歳のあの日、川で溺れたことをキッカケに私は、もっとちゃんと泳げるようになりたい。

そして、自分の身は自分で守れるようになろうと思うようになり、水泳や空手、合気道を習うようになった。

日々練習に打ち込み、空手に関しては全国大会で優勝できるくらいの腕前になった。

そして、自分を助けてくれた葵くんみたいに、誰かの役に立ちたいと思うようになった私は、街でたまたま遭遇したスリの犯人を捕まえて警察から表彰されたり。

弱い者イジメをするクラスメイトの男の子を懲らしめたりしていたため、いつしか強いことが学校中に知れ渡り、男の子は自分に寄り付かなくなってしまった。

だから、私は今まで、彼氏どころか男の子の友達すらいなかったというワケだ。強いって思われて、きっとみんな、私に近づいてこなかったんだと思う。



「そういえば、菜乃花。もうすぐ引っ越すんだっけ?」
「うん。お父さんの転勤で、小学2年生の頃まで住んでいた町に戻るんだ」

ショッピングモール内のクレープ屋さんに移動した私たちは、イートインスペースに腰かけ、購入したイチゴのクレープを頬張る。

「そっか。菜乃花ももし彼氏が欲しかったら、4月から転校する中学校では、空手が得意なことは隠したほうがいいかもね」
「え?」

私は、風音ちゃんに首を傾ける。

「男子って、守ってあげたくなるような女の子が好きらしいよ?」
「そうなの? ……守ってあげたくなるような女の子、かぁ」

なんだか、自分とは真逆のタイプな気がして、少し複雑な気持ちになる。

「まぁ、あたしの彼氏の情報だからね。参考にならないかもしれないけど」

身長150cmで小動物みたいに可愛らしい風音ちゃんは、中学生の頃から付き合っている彼氏がいる。

確かに、風音ちゃんの言うとおりかも。おそらく今までは、私が空手が強いことが学校中に知れ渡っていたせいで、男の子がみんな怖がって寄りつかなかったのだろうから。

それを隠せば、もしかしたら私も今度こそ恋ができるようになるかもしれない。
来月の転校は、絶好のチャンスだ。

「風音ちゃん。私、次こそは頑張ってみるよ」
「うん。菜乃花は可愛いから、きっと大丈夫! 拳を出さずおしとやかにさえしていれば、彼氏なんてすぐにできるよ!」

風音ちゃんのいう『可愛い』は、いとことして言ってくれてるのだろうけど。

来月から通う、転校先の新たな学校では頑張ろうと気合いが入った。
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