隠れ御曹司は、最強女子を溺愛したい

藤永ゆいか

文字の大きさ
16 / 27
第3章

彗くんの素顔

しおりを挟む
三池家でのお茶会の翌朝。

この日もいつものように、私は彗くんと一緒に登校。

「ちょっと、羽生さん!」

私が教室に行くと、いきなりクラスの女の子に声をかけられた。

彼女の名前は、伊集院いじゅういんさん。彗くんと同じく、大財閥のお嬢様だ。

明るい茶髪をふんわりと巻いていて、目鼻立ちの整った可愛い子。

いつもクラスの中心にいる伊集院さんとは、ほとんど話したことがないけど……何の用だろう?

「あなた、昨日三池財閥のお茶会に参加していたでしょう?」

突然そんなことを言われて、心臓がビクッと跳ねた。

「ねぇ、羽生さん。一体どういうこと?」
「どういうこと、というと?」
「あなた、三池財閥の御曹司の方とお付き合いされてるんでしょう?」
「えっ!?」

反射的に、小さく声をあげてしまう。

「昨日、あたしもママと一緒に三池家のお茶会に参加したんだけど。あなたが御曹司の方の彼女だって、紹介されているのを偶然見かけて」

うそ。昨日、伊集院さんがあの場にいたの!?
私は思わず息をのむ。

「羽生さんは確か、そこにいる宇山くんと付き合っているのよね?」

伊集院さんは、彗くんをビシッと指さす。

「それなのに、御曹司の方の彼女でもあるなんて、どういうことなのかしら?」

当然だけど伊集院さんは、私の隣に立っている彗くんが、三池財閥の御曹司だとは全く気づいていないみたい。

「羽生さん。あなたまさか……二股でもしているの?」
「ええっと」

もちろん、二股なんてしていないけど……。彗くんが三池財閥の御曹司だってことは、学校のみんなには秘密だから。

クラスメイトの宇山彗くんと、昨日の御曹司が同一人物だなんて、口が裂けても言えない。


「伊集院さんが昨日見たって人は、もしかして人違いじゃないかな? だって私、お嬢様じゃないし。きっと、他人の空似だよ」
「いいえ。あたしはあなたが彗さんのお母様に、『羽生菜乃花です』って自己紹介するところから、ちゃんと見てたんだもの」
「……っ」

どうしよう。ここまで言われちゃうと、さすがにこれ以上言い逃れはできないよ。
だけど、本当のことなんて言えないし。

「あたしは、彗さんの婚約者候補のひとりだったのに! どうして庶民のあなたが、あの方の彼女なの!?」

伊集院さんの怒りはヒートアップし、彼女の声がどんどん大きくなっていく。

「何だ何だ?」
「伊集院さんと羽生さん、ケンカしてるの?」

徐々にクラスメイトたちがこちらに注目し始め、教室がザワザワする。

ま、まずい。どうにかして、この場をおさめなくちゃ。

「あっ、あの。伊集院さん落ち着いて? これには深い訳があって」

その訳を、今ここでは話すことができないのがもどかしいけど……。

「そんなの、落ち着けるわけないでしょう!? 彗さんという方がいながら、宇山くんとも付き合っているなんて。羽生さん、ほんと最低!」

ダメだ。たぶん今の伊集院さんには、私が何を言ってもきっと火に油だ。

「羽生さんって、二股するような子だったの?」
「最低じゃん」

伊集院さんの怒鳴り声を聞いたクラスメイトたちが、好意的とは言えない視線を私に向けてくる。

自分が悪者みたいで、とにかく居心地が悪い。

どうしよう。こんなときって、一体どうすれば良いの?

自分ではもう、どうすることもできなくて。私の目に、じわりと涙が浮かんだそのとき。

「……伊集院さん」

それまでずっと黙っていた彗くんが、口を開いた。

「なっ、何よ?」

伊集院さんは腕を組み、鋭い目つきで彗くんを睨みつける。

「言っておくけど、菜乃花は二股なんてしてないよ?」
「えっ。何それ、どういうこと?」

意味が分からないというように、目を瞬かせる伊集院さん。

そんな彼女を見て、彗くんはフッと不敵な笑みを浮かべる。

ま、まさか彗くん……。

鼓動が速まり、何となく嫌な予感がするな……と思っていたら。

彗くんはそれまでずっと掛けていた黒縁メガネを静かに外すと、長い前髪をまるで舞台俳優のように思いきりかきあげた。

「……っ!」

その瞬間、伊集院さんは息をのんで言葉を失う。彼女の瞳が、驚きで大きく見開かれた。

「えっ!? う、うそ。あなたは……」

伊集院さんは、震える指先で彗くんを指さした。

「みっ、三池財閥の……彗さん!?」
「正解」

彗くんは、ニヤリと不敵に微笑む。その笑顔には、いつもの「宇山くん」にはない、底知れない魅力と威厳が宿っていた。

「ま、まさか。宇山くんが、三池財閥の御曹司だったの!?」
「そうだよ」

呆然とする伊集院さんに、彗くんがニコッと微笑む。

「えーーっ!?」

静かだった教室が、一気に騒がしくなる。

「宇山くん、やばい。めちゃくちゃかっこいいんだけど」
「イケメンすぎる~!」

あちこちで飛び交う、女子たちの声。

「そ、そんな……」

ふらふらとよろめいた伊集院さんを、近くにいた女の子が支えた。

「改めて言うけど……俺の本当の名前は、三池彗。だから、菜乃花は二股なんてしていない」

彗くんは私の肩に手をまわすと、私を自分のほうへと抱き寄せた。

「菜乃花は、俺のたったひとりの大切な彼女だ。今後、俺の彼女を傷つける人は、たとえ誰であろうと許さないから」

彗くん……。

「分かったかな? 伊集院さん」
「っ、はい……」

悔しそうな顔をしつつも、蚊の鳴くような声で返事をする伊集院さん。

そしてふいにこちらを向き、私をきつく睨みつける。

「たとえ羽生さんが彗さんの大切な彼女であっても、あたしはあなたが彗さんの彼女だってこと、絶対に認めないから」

叫ぶように言うと、伊集院さんは走って教室を出て行った。

***

昼休み。

「ごめんね、彗くん。私のせいで……」

私は今、彗くんとふたりで空き教室に来てお昼ご飯を食べている。

あのあと彗くんは、クラスメイト……特に女の子たちに取り囲まれちゃって大変だった。

「なんで菜乃花が謝るんだよ」
「だって……」

あのとき、私が伊集院さんに何とかして上手く説明できていれば、彗くんは自分が財閥の御曹司だって明かさずに済んだかもしれないのに。

「そもそも昨日のお茶会は、財閥関係者の集まりでもあったのに俺も迂闊だった。それに……正体を明かしたこと、俺は後悔してないよ」
「え?」
「自分を偽りながら学校生活を送ることに、最近は少し罪悪感を覚えていたし。何より、俺のせいで菜乃花が責められるのを、黙って見ていられなかったから」

彗くん……。

「だからもう、気にすんな」

彗くんが、私に微笑んでくれる。

「なぁ。今日も菜乃花の玉子焼き、ちょうだい?」

彗くんが、私のお弁当の玉子焼きを指さす。

もしかして、前に食べて気に入ってくれたのかな?

「うん。いいよ」

私はお箸に玉子焼きを挟むと、彗くんのお弁当のご飯の上にそっとのせた。

「違うよ。そうじゃなくて……」
「え?」
「菜乃花が、あーんって食べさせて?」
「ええっ!?」

た、食べさせてって……。

「俺も昨日のお茶会で、菜乃花にケーキを食べさせてあげたでしょ?」
「そっ、そうだけど……」

昨日、嬉しそうに私の口元にケーキを運ぶ彗くんを思いだして、急に照れくさくなる。

「いいだろ?」

私に顔を近づけ、口を開けておねだりしてくる彗くん。

ほんと、ずるいな。こういうの……。

「もう、しょうがないなぁ」

私はもう一度お箸に玉子焼きを挟むと、彼の口に運んだ。

「うん。美味い」

彗くんの優しい微笑みに、ついきゅんとしてしまう。

「そっか。良かった」

それから私と彗くんは、ふたりきりのランチタイムを楽しんだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

クールな幼なじみの許嫁になったら、甘い溺愛がはじまりました

藤永ゆいか
児童書・童話
中学2年生になったある日、澄野星奈に許嫁がいることが判明する。 相手は、頭が良くて運動神経抜群のイケメン御曹司で、訳あって現在絶交中の幼なじみ・一之瀬陽向。 さらに、週末限定で星奈は陽向とふたり暮らしをすることになって!? 「俺と許嫁だってこと、絶対誰にも言うなよ」 星奈には、いつも冷たくてそっけない陽向だったが……。 「星奈ちゃんって、ほんと可愛いよね」 「僕、せーちゃんの彼氏に立候補しても良い?」 ある時から星奈は、バスケ部エースの水上虹輝や 帰国子女の秋川想良に甘く迫られるようになり、徐々に陽向にも変化が……? 「星奈は可愛いんだから、もっと自覚しろよ」 「お前のこと、誰にも渡したくない」 クールな幼なじみとの、逆ハーラブストーリー。

未来スコープ  ―キスした相手がわからないって、どういうこと!?―

米田悠由
児童書・童話
「あのね、すごいもの見つけちゃったの!」 平凡な女子高生・月島彩奈が偶然手にした謎の道具「未来スコープ」。 それは、未来を“見る”だけでなく、“課題を通して導く”装置だった。 恋の予感、見知らぬ男子とのキス、そして次々に提示される不可解な課題── 彩奈は、未来スコープを通して、自分の運命に深く関わる人物と出会っていく。 未来スコープが映し出すのは、甘いだけではない未来。 誰かを想う気持ち、誰かに選ばれない痛み、そしてそれでも誰かを支えたいという願い。 夢と現実が交錯する中で、彩奈は「自分の気持ちを信じること」の意味を知っていく。 この物語は、恋と選択、そしてすれ違う想いの中で、自分の軸を見つけていく少女たちの記録です。 感情の揺らぎと、未来への確信が交錯するSFラブストーリー、シリーズ第2作。 読後、きっと「誰かを想うとはどういうことか」を考えたくなる一冊です。

未来スコープ  ―この学園、裏ありすぎなんですけど!? ―

米田悠由
児童書・童話
「やばっ!これ、やっぱ未来見れるんだ!」 平凡な女子高生・白石藍が偶然手にした謎の道具「未来スコープ」。 それは、未来を“見る”だけでなく、“触れたものの行く末を映す”装置だった。 好奇心旺盛な藍は、未来スコープを通して、学園に潜む都市伝説や不可解な出来事の真相に迫っていく。 旧校舎の謎、転校生・蓮の正体、そして学園の奥深くに潜む秘密。 見えた未来が、藍たちの運命を大きく揺るがしていく。 未来スコープが映し出すのは、甘く切ないだけではない未来。 誰かを信じる気持ち、誰かを疑う勇気、そして真実を暴く覚悟。 藍は「信じるとはどういうことか」を問われていく。 この物語は、好奇心と正義感、友情と疑念の狭間で揺れながら、自分の軸を見つけていく少女の記録です。 感情の揺らぎと、未来への探究心が交錯するSFラブストーリー、シリーズ第3作。 読後、きっと「誰かを信じるとはどういうことか」を考えたくなる一冊です。

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

独占欲強めの最強な不良さん、溺愛は盲目なほど。

猫菜こん
児童書・童話
 小さな頃から、巻き込まれで絡まれ体質の私。  中学生になって、もう巻き込まれないようにひっそり暮らそう!  そう意気込んでいたのに……。 「可愛すぎる。もっと抱きしめさせてくれ。」  私、最強の不良さんに見初められちゃったみたいです。  巻き込まれ体質の不憫な中学生  ふわふわしているけど、しっかりした芯の持ち主  咲城和凜(さきしろかりん)  ×  圧倒的な力とセンスを持つ、負け知らずの最強不良  和凜以外に容赦がない  天狼絆那(てんろうきずな)  些細な事だったのに、どうしてか私にくっつくイケメンさん。  彼曰く、私に一目惚れしたらしく……? 「おい、俺の和凜に何しやがる。」 「お前が無事なら、もうそれでいい……っ。」 「この世に存在している言葉だけじゃ表せないくらい、愛している。」  王道で溺愛、甘すぎる恋物語。  最強不良さんの溺愛は、独占的で盲目的。

小鳥

水翔
絵本
小鳥と少女の物語

14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート

谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。 “スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。 そして14歳で、まさかの《定年》。 6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。 だけど、定年まで残された時間はわずか8年……! ――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。 だが、そんな幸弘の前に現れたのは、 「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。 これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。 描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。

氷鬼司のあやかし退治

桜桃-サクランボ-
児童書・童話
 日々、あやかしに追いかけられてしまう女子中学生、神崎詩織(かんざきしおり)。  氷鬼家の跡取りであり、天才と周りが認めているほどの実力がある男子中学生の氷鬼司(ひょうきつかさ)は、まだ、詩織が小さかった頃、あやかしに追いかけられていた時、顔に狐の面をつけ助けた。  これからは僕が君を守るよと、その時に約束する。  二人は一年くらいで別れることになってしまったが、二人が中学生になり再開。だが、詩織は自身を助けてくれた男の子が司とは知らない。  それでも、司はあやかしに追いかけられ続けている詩織を守る。  そんな時、カラス天狗が現れ、二人は命の危険にさらされてしまった。  狐面を付けた司を見た詩織は、過去の男の子の面影と重なる。  過去の約束は、二人をつなぎ止める素敵な約束。この約束が果たされた時、二人の想いはきっとつながる。  一人ぼっちだった詩織と、他人に興味なく冷たいと言われている司が繰り広げる、和風現代ファンタジーここに開幕!!

処理中です...