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条件11*彼氏の事情は公表しない事!
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週末、相楽さんに送迎をしてもらい、約束通りに自宅に来ました。
「あ、あれ…?」
自宅は渋谷区の高級住宅街に位置していて、門構えがしっかりとしている、かなり広々とした家。
自宅横の駐車スペースに車を停めて、言われるがままに着いて行くと…驚き過ぎて玄関前で立ち尽くす。
表札が"花野井"……?
「は、花野井って副社長の実家?」
「うん、間違えなくそうだね」
混乱を隠せない私は開いた口が塞がらない状態だった。
ガチャリ、と鍵を開けると自宅の中に誘導される。
「今日は誰も居ないし、帰って来ないから大丈夫だよ」
いやいやいや、大丈夫じゃないよね?
副社長の自宅にお邪魔なんて出来ません、しかも誰も居ない家になんて尚更…!
「む、無理ですっ…!帰ります…」
後ろを向いて帰ろうとするとお泊まりバッグをサラリと横取りされ、手を引かれて無理矢理に上がらされた。
玄関先にお泊まりバッグを置き、私の腕を離さないように散らばったパンプスと自分の靴を拾い上げて靴箱へとしまう。
「小学校時代から居候してるから大丈夫。副社長は一人暮らししていて居ないから、副社長の御両親と住んでる。御両親は海外出張で居ないから、安心して」
「…ほ、本当に大丈夫?」
「大丈夫。後藤もたまに泊まりに来てるし、心配いらない。紅茶入れて上げるから、おいで…」
ちょこんと黒革のソファーに座らされ、広いリビングを見渡す。
リビングの片隅には副社長の賞状と一緒に相良さんの賞状も飾ってあった。
副社長のは作文コンクールとかの賞状と盾、相良さんのはピアノコンクールの賞状と盾。
全日本の高校生コンクールで金賞とか凄い。
思わず立って見入ってしまう。
「…副社長の御両親、つまり社長夫妻は俺の事も本当の息子の様に扱ってくれてる。これが、その証」
見入っていた私の横を通り過ぎ、紅茶の入ったティーセットを音を立てない様に静かに置きながら話す相良さん。
「副社長の祖父、花野井グループの会長なんだけど…箸使いとかマナーにうるさくて、二人で泣く泣く練習されられた記憶がある…」
「そうなんですね…。それで、あの1センチの世界な訳ですね…」
「1センチの世界…?」
「はい、1センチの世界です。だって、相良さんは箸先を1センチから2センチ位しか汚さないから…」
「変な命名」
二人でソファーに座り、相良さんがクスッと笑いながら紅茶をカップに注いでくれる。
良い香りが漂い、聞いた所に寄ると最高級ダージリンだと知る。
紅茶と共に用意されたお菓子は、手作りのチーズケーキだった。
チーズケーキは家政婦さんの手作りで、口に含むと濃厚な風味が広がった。
「いつもなら、染野さんってゆー家政婦がいるんだけど、社長夫妻が居ないから今日と明日は休んで貰った」
聞けば、染野さんという家政婦は会長御夫妻がお気に入りだったフレンチのシェフらしい。
引退してからは花野井家の家政婦として働いていると相良さんは言った。
「…そのうちね、会えるだろうけど…染野さんってお節介焼きなおばさんで弁当を毎日作ってくれるんだ。肉が多い弁当の正体は染野さんが作ってくれるから」
「お母さんの手作り弁当みたいで良いですね」
「結婚もしてないのに弁当持ちってどうなの?
…秘書室から出る時に弁当袋を持ち出すのが気まづいんだけど…」
「それでも断りもせず、持って行くんだから相良さんらしいですよね」
文句を言いつつも、お弁当を大切に食べているのが内面が優しい相良さんらしくて、思わず顔がほころぶ。
御両親が渡米したのは小学五年生の時で、副社長宅で副社長と兄弟の様に育ったと話してくれた。
執事と言うか家政婦と言うか、住み込みで相良さんの祖父母が働いていたと言う話を以前聞いたが、亡くなった後もお世話になっているらしい。
兄弟同然の彼等は付かず離れずに今も一緒に働いている。
相良さんは、祖父母の代から続く忠誠心もあってか、土日祝の会社が休みの日や、平日の早く退社出来る日は染野さんの家事のお手伝いをしているらしく、どおりで料理も手際良いと思った…。
一通り、話の流れから相良さんの昔話を教えてもらい、胸がいっぱいになる。
御両親が渡米後も相良さんは不幸せなんかじゃなかった。
副社長の御両親と祖父母、それに相良さんの祖父母や染野さんに囲まれて不自由なく暮らし、現在に至る。
万が一、副社長の御両親と祖父母に嫌がらせ等を受けていたら…、とっくに家を出ていただろう。
成人した今も家を出ないのは、相良さんなりには幸せだからだと勝手に解釈する。
私はてっきり寂しい思いばかりをしているのだと思っていたから、安心した様な気がする。
「…俺らしいって、何で?」
昔話を話した後に、何事なく通り過ぎた話題が相楽さんの一言で舞い戻る。
「それはその…お弁当を大切に食べているところが優しい相良さんらしいって事です」
「…そぉ?そんなに優しくないけどね…。和奏が好きな秘書室の相良さんは冷酷なんでしょ?」
「そ、そんな事はないですって!」
「会社では冷酷だとか、無表情だとか言われてるの知ってるし…」
いつもならカフェオレを好む相良さんが紅茶を飲みながら、意地悪そうに言葉を私に投げかける。
じぃっと顔を見つめられ、私は思わず目線を外してしまった。
これじゃ、まるで…"相良さんの投げかけた言葉は間違ってないよ"と言ってる様なもんだ。
「だ、誰がっ、そう思ってたって…私はそう思ってないですから…気にしない事ですよ…」
「フォローありがと…」
クスッと笑いながら手を伸ばして、私の頭を撫でて、髪をクシャッとする。
フォローになんて全然なっていなかった。
「…まぁ、誰とも関わりたくなかったから、無口なままでいようと思ってた。冷酷と言う噂があったからこそ、誰も寄って来なくて丁度良かったんだけど…」
「何で誰とも関わりたくないんですか?」
「…相良良一の息子だとか、花野井家にお世話になっているとか、知れ渡るとめんどくさいでしょ?小学校時代から散々、それでからかわれて一生つきまとうのかと思ったらうんざりしてたし。うんざりしてたのは相良良一の息子の件だけど…。
職場では花野井家にお世話になっていると言う噂が立つと花野井家に迷惑がかかるから、人と関わりたくなかった」
「…そう、でしたか…」
有名人の息子って色々と大変なんだな。
私には想像出来ない様な苦労もあるのだろう。
「迷惑がかかると思いつつも、なかなか引越し出来ないんだけど……。有澄君、勝手に出て行っちゃって帰って来ないし…、ほとんどの荷物は置きっぱなし。もう帰って来ないんだろうな…」
「"有澄君"が居なくなって寂しいですか?」
「寂しい…わけない。休日とかパシリに使われるなら居ない方がマシ!」
「ふふっ、相良さんって案外ブラコンなんですね。ムキになって否定してるところが可愛いですっ」
否定した相良さんをからかうと頬が少し赤らめるなんて予想出来なかったけど…素直な相良さんは案外、可愛いものだ。
兄弟みたいに育った副社長とは特別な関係で、お互いの信頼も厚いし、絆も強く感じられる。
一緒に居た人が急に居なくなったから、寂しさは半端なかっただろう。
副社長は婚約者の秋葉さんとマンションに住む予定だから、もう戻らないのは確定済みだ。
将来、後々は戻って来るかもしれないが…それは遠い未来の話で、その時には相良さんも花野井家から出ているかもしれない。
相良さんもいずれは結婚するんだし、花野井家を出る事になるんだろうな…相手は私じゃないかもしれないけれど───……
「和奏、何がおかしいの?」
「だって、相良さんでも赤くなるんだなって思って…」
「…っるさい、それ以上言うと…」
ドサリ。
隣に座って居た相良さんは、はぐらかす様にソファーに私の事を押し倒した。
真上から見下ろされるのは、私のアパートに来た日以来で心臓に悪い。
ドキドキドキドキ…。
「からかうのは好きだけど、からかわれるのは好きじゃないから、和奏にも赤面させてやろうか?」
真っ直ぐに見つめる瞳から視線を反らそうとすれば、首筋に近付く相良さんの顔。
そのまま首筋に唇で触れられ、力が入り硬直する身体。
いつもみたいに優しく髪を撫でる訳でもなく、優しいキスをされる訳でもなく、トップスをめくり挙げられ、恥ずかしい部分に触れられ、舌でなぞられる。
「……さっ、相、がらさっ…。っやぁ」
突然の出来事に覆いかぶさる相良さんの身体を押しのけようとするが、上手く行かない。
「…和奏、自分こそ顔が赤くて可愛い。頬も火照って熱いし…」
流し目で見つめられ頬に触れられると、触れるだけの優しいキスが唇に降りてきた。
チュッとリップ音がするキスを唇、頬にされた後に段々と深くなるキスに息を荒げる。
唇が解放されると息が漏れる。
「…っふぁ、」
目がトロンとしているのが自分でも分かるくらいに、いつもよりも長いキスだった。
「……おいで?」
腕を引かれ、上半身をゆっくりと起こされて、相良さんの方に引き寄せられる。
膝の上にちょこんと乗せられ、背後から抱きしめられる。
「…あ、あの…さ、相良さん…?」
「…んー?」
「こ、これは一体…?」
「忘れた?以前、ドレスを選びに行った時にアクセサリーは買わなかったでしょ?」
「そうですけど…でも…」
膝の上に乗せられたかと思えば、どこから出したのか、さりげなくネックレスがクビにかけられた。
その後、ネックレスとお揃いのイヤリングの箱を手渡される。
極端に甘くなく、かつシンプル過ぎず、年齢に関係なく着けられるデザイン。
「ありがとうございます。凄く素敵なネックレスとイヤリングですね。これって…トルマリン…?」
キラキラと光り輝く淡いピンク色の石は10月の誕生石、トルマリン。
「和奏の誕生石。ワインレッドのドレスに合わせやすいかと思ってそうした」
「…た、大切にします。宝物です!」
「本当に子供みたいに喜ぶよね」
「だって、素直に嬉しいですもん!」
相良さんは「適わないな…」とボソッと言い、髪を優しく撫でてくれる。
「あ、あれ…?」
自宅は渋谷区の高級住宅街に位置していて、門構えがしっかりとしている、かなり広々とした家。
自宅横の駐車スペースに車を停めて、言われるがままに着いて行くと…驚き過ぎて玄関前で立ち尽くす。
表札が"花野井"……?
「は、花野井って副社長の実家?」
「うん、間違えなくそうだね」
混乱を隠せない私は開いた口が塞がらない状態だった。
ガチャリ、と鍵を開けると自宅の中に誘導される。
「今日は誰も居ないし、帰って来ないから大丈夫だよ」
いやいやいや、大丈夫じゃないよね?
副社長の自宅にお邪魔なんて出来ません、しかも誰も居ない家になんて尚更…!
「む、無理ですっ…!帰ります…」
後ろを向いて帰ろうとするとお泊まりバッグをサラリと横取りされ、手を引かれて無理矢理に上がらされた。
玄関先にお泊まりバッグを置き、私の腕を離さないように散らばったパンプスと自分の靴を拾い上げて靴箱へとしまう。
「小学校時代から居候してるから大丈夫。副社長は一人暮らししていて居ないから、副社長の御両親と住んでる。御両親は海外出張で居ないから、安心して」
「…ほ、本当に大丈夫?」
「大丈夫。後藤もたまに泊まりに来てるし、心配いらない。紅茶入れて上げるから、おいで…」
ちょこんと黒革のソファーに座らされ、広いリビングを見渡す。
リビングの片隅には副社長の賞状と一緒に相良さんの賞状も飾ってあった。
副社長のは作文コンクールとかの賞状と盾、相良さんのはピアノコンクールの賞状と盾。
全日本の高校生コンクールで金賞とか凄い。
思わず立って見入ってしまう。
「…副社長の御両親、つまり社長夫妻は俺の事も本当の息子の様に扱ってくれてる。これが、その証」
見入っていた私の横を通り過ぎ、紅茶の入ったティーセットを音を立てない様に静かに置きながら話す相良さん。
「副社長の祖父、花野井グループの会長なんだけど…箸使いとかマナーにうるさくて、二人で泣く泣く練習されられた記憶がある…」
「そうなんですね…。それで、あの1センチの世界な訳ですね…」
「1センチの世界…?」
「はい、1センチの世界です。だって、相良さんは箸先を1センチから2センチ位しか汚さないから…」
「変な命名」
二人でソファーに座り、相良さんがクスッと笑いながら紅茶をカップに注いでくれる。
良い香りが漂い、聞いた所に寄ると最高級ダージリンだと知る。
紅茶と共に用意されたお菓子は、手作りのチーズケーキだった。
チーズケーキは家政婦さんの手作りで、口に含むと濃厚な風味が広がった。
「いつもなら、染野さんってゆー家政婦がいるんだけど、社長夫妻が居ないから今日と明日は休んで貰った」
聞けば、染野さんという家政婦は会長御夫妻がお気に入りだったフレンチのシェフらしい。
引退してからは花野井家の家政婦として働いていると相良さんは言った。
「…そのうちね、会えるだろうけど…染野さんってお節介焼きなおばさんで弁当を毎日作ってくれるんだ。肉が多い弁当の正体は染野さんが作ってくれるから」
「お母さんの手作り弁当みたいで良いですね」
「結婚もしてないのに弁当持ちってどうなの?
…秘書室から出る時に弁当袋を持ち出すのが気まづいんだけど…」
「それでも断りもせず、持って行くんだから相良さんらしいですよね」
文句を言いつつも、お弁当を大切に食べているのが内面が優しい相良さんらしくて、思わず顔がほころぶ。
御両親が渡米したのは小学五年生の時で、副社長宅で副社長と兄弟の様に育ったと話してくれた。
執事と言うか家政婦と言うか、住み込みで相良さんの祖父母が働いていたと言う話を以前聞いたが、亡くなった後もお世話になっているらしい。
兄弟同然の彼等は付かず離れずに今も一緒に働いている。
相良さんは、祖父母の代から続く忠誠心もあってか、土日祝の会社が休みの日や、平日の早く退社出来る日は染野さんの家事のお手伝いをしているらしく、どおりで料理も手際良いと思った…。
一通り、話の流れから相良さんの昔話を教えてもらい、胸がいっぱいになる。
御両親が渡米後も相良さんは不幸せなんかじゃなかった。
副社長の御両親と祖父母、それに相良さんの祖父母や染野さんに囲まれて不自由なく暮らし、現在に至る。
万が一、副社長の御両親と祖父母に嫌がらせ等を受けていたら…、とっくに家を出ていただろう。
成人した今も家を出ないのは、相良さんなりには幸せだからだと勝手に解釈する。
私はてっきり寂しい思いばかりをしているのだと思っていたから、安心した様な気がする。
「…俺らしいって、何で?」
昔話を話した後に、何事なく通り過ぎた話題が相楽さんの一言で舞い戻る。
「それはその…お弁当を大切に食べているところが優しい相良さんらしいって事です」
「…そぉ?そんなに優しくないけどね…。和奏が好きな秘書室の相良さんは冷酷なんでしょ?」
「そ、そんな事はないですって!」
「会社では冷酷だとか、無表情だとか言われてるの知ってるし…」
いつもならカフェオレを好む相良さんが紅茶を飲みながら、意地悪そうに言葉を私に投げかける。
じぃっと顔を見つめられ、私は思わず目線を外してしまった。
これじゃ、まるで…"相良さんの投げかけた言葉は間違ってないよ"と言ってる様なもんだ。
「だ、誰がっ、そう思ってたって…私はそう思ってないですから…気にしない事ですよ…」
「フォローありがと…」
クスッと笑いながら手を伸ばして、私の頭を撫でて、髪をクシャッとする。
フォローになんて全然なっていなかった。
「…まぁ、誰とも関わりたくなかったから、無口なままでいようと思ってた。冷酷と言う噂があったからこそ、誰も寄って来なくて丁度良かったんだけど…」
「何で誰とも関わりたくないんですか?」
「…相良良一の息子だとか、花野井家にお世話になっているとか、知れ渡るとめんどくさいでしょ?小学校時代から散々、それでからかわれて一生つきまとうのかと思ったらうんざりしてたし。うんざりしてたのは相良良一の息子の件だけど…。
職場では花野井家にお世話になっていると言う噂が立つと花野井家に迷惑がかかるから、人と関わりたくなかった」
「…そう、でしたか…」
有名人の息子って色々と大変なんだな。
私には想像出来ない様な苦労もあるのだろう。
「迷惑がかかると思いつつも、なかなか引越し出来ないんだけど……。有澄君、勝手に出て行っちゃって帰って来ないし…、ほとんどの荷物は置きっぱなし。もう帰って来ないんだろうな…」
「"有澄君"が居なくなって寂しいですか?」
「寂しい…わけない。休日とかパシリに使われるなら居ない方がマシ!」
「ふふっ、相良さんって案外ブラコンなんですね。ムキになって否定してるところが可愛いですっ」
否定した相良さんをからかうと頬が少し赤らめるなんて予想出来なかったけど…素直な相良さんは案外、可愛いものだ。
兄弟みたいに育った副社長とは特別な関係で、お互いの信頼も厚いし、絆も強く感じられる。
一緒に居た人が急に居なくなったから、寂しさは半端なかっただろう。
副社長は婚約者の秋葉さんとマンションに住む予定だから、もう戻らないのは確定済みだ。
将来、後々は戻って来るかもしれないが…それは遠い未来の話で、その時には相良さんも花野井家から出ているかもしれない。
相良さんもいずれは結婚するんだし、花野井家を出る事になるんだろうな…相手は私じゃないかもしれないけれど───……
「和奏、何がおかしいの?」
「だって、相良さんでも赤くなるんだなって思って…」
「…っるさい、それ以上言うと…」
ドサリ。
隣に座って居た相良さんは、はぐらかす様にソファーに私の事を押し倒した。
真上から見下ろされるのは、私のアパートに来た日以来で心臓に悪い。
ドキドキドキドキ…。
「からかうのは好きだけど、からかわれるのは好きじゃないから、和奏にも赤面させてやろうか?」
真っ直ぐに見つめる瞳から視線を反らそうとすれば、首筋に近付く相良さんの顔。
そのまま首筋に唇で触れられ、力が入り硬直する身体。
いつもみたいに優しく髪を撫でる訳でもなく、優しいキスをされる訳でもなく、トップスをめくり挙げられ、恥ずかしい部分に触れられ、舌でなぞられる。
「……さっ、相、がらさっ…。っやぁ」
突然の出来事に覆いかぶさる相良さんの身体を押しのけようとするが、上手く行かない。
「…和奏、自分こそ顔が赤くて可愛い。頬も火照って熱いし…」
流し目で見つめられ頬に触れられると、触れるだけの優しいキスが唇に降りてきた。
チュッとリップ音がするキスを唇、頬にされた後に段々と深くなるキスに息を荒げる。
唇が解放されると息が漏れる。
「…っふぁ、」
目がトロンとしているのが自分でも分かるくらいに、いつもよりも長いキスだった。
「……おいで?」
腕を引かれ、上半身をゆっくりと起こされて、相良さんの方に引き寄せられる。
膝の上にちょこんと乗せられ、背後から抱きしめられる。
「…あ、あの…さ、相良さん…?」
「…んー?」
「こ、これは一体…?」
「忘れた?以前、ドレスを選びに行った時にアクセサリーは買わなかったでしょ?」
「そうですけど…でも…」
膝の上に乗せられたかと思えば、どこから出したのか、さりげなくネックレスがクビにかけられた。
その後、ネックレスとお揃いのイヤリングの箱を手渡される。
極端に甘くなく、かつシンプル過ぎず、年齢に関係なく着けられるデザイン。
「ありがとうございます。凄く素敵なネックレスとイヤリングですね。これって…トルマリン…?」
キラキラと光り輝く淡いピンク色の石は10月の誕生石、トルマリン。
「和奏の誕生石。ワインレッドのドレスに合わせやすいかと思ってそうした」
「…た、大切にします。宝物です!」
「本当に子供みたいに喜ぶよね」
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相良さんは「適わないな…」とボソッと言い、髪を優しく撫でてくれる。
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