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第26話 聖女の仕事は多岐にわたる
しおりを挟む「サージアスが調べてくれるから、穢れの範囲が小さいうちに浄化ができて助かるよ」
神殿にある客間はもはや聖女となったマルティンのための部屋になってしまった。聖女が現れたということで、他国の神官たちがこぞって挨拶に来たりしたものだから、半分外交のような挨拶にマルティンはだいぶ神経をすり減らした。最終的にはフェンリルが話をぶった切り、早々に退室させてくれたから、他国にはマルティンの悪評は広まってはいない。むしろ守護神フェンリルの恐ろしさが広まっていると言ってもいい。
「聖女様のお力があってこそですよ。私はお手伝いをしているにすぎません」
乙女ゲームにおいてのメガネ枠なのだからか、サージアスは話しをする時に中指でメガネを押し上げるのが癖のようである。最初は気障っぽくて鼻につくと思っていたが、実はそれが照れ隠しであるという事に気がついてしまうと、年上だけど可愛いと思えてくるから不思議なものだ。
「聖女様、お茶が入りました」
ユースフルは随分とお茶をいれるのが上手である。話を聞いたらどこかの貴族の私生児らしく、本妻から疎まれたために神殿に預けられたらしい。乙女ゲームにおいては聖女になってから出会う隠しキャラ的ポジョンであり、いわゆるショタ枠だ。
「今日のお茶菓子は我が実家からの差し入れです」
そう言ってテーブルの上に並べられたのは色とりどりのマカロンだった。流石に天然の色素を使うだけあって、前世で見たような青はないけれど、見た目の色そのままの味わいは食べていてどこか安心する。
「ユースフルもここに座って食べなよ」
マルティンがいつも誘うのだけれど、すげなく首を振るから、今日はその手を掴んで強引に座らせてみた。隠れキャラだと気がついてしまうと、嫌われる事はないわけだから、多少強引に接してしまう。前世の記憶で考えれば、この年頃ならお菓子は好きだろう。お茶だけいれて食べられないなんて可愛そうで仕方がないのだ。
「いえ、そのっ、私はっ」
慌てるユースフルをしっかりと座らせると、マルティンは赤いマカロンをその開いた口に押し込んだ。
「んっ」
口の中に押し込まれたマカロンが、思っていたより柔らかかったのだろう。ものすごく驚いた顔をしたユースフルにマルティンは笑いながらお茶の入ったカップを手渡した。
「ゆっくり飲んで」
コクコクと頷いて、ユースフルはお茶を飲んだ。ゴクリと喉が鳴るのがハッキリと聞こえると、ユースフルの顔が花が咲いたような笑顔に変わった。
「とても美味しいです」
「それは良かった」
サージアスの実家からの差入れではあるが、美味しい物はみんなで分け合ってこそ価値があるというものだ。特に、幼い頃から厳しい神殿で過ごしてきたユースフルには美味しいものを食べてもらいたいところである。おそらくではあるが、乙女ゲームであれば、聖女が神殿にあるキッチンでお菓子でも作って味見でもさせて懐柔していく下りがあったに違いない。その辺は覚えていないので、前世では隠しキャラのままだったのだろう。
「子どもはもっと大人に甘えていいのですよ」
メガネを中指で上げながら、サージアスが他のマカロンも皿にのせてユースフルの前に出してきた。
「白いのはミルクのクリームですから、とても甘いと思いますよ。黄色いのはレモンだそうですから、少し酸っぱいでしょう」
そんな説明をしながらも、ユースフルの為にマカロンを出してくるあたり、サージアスも思うところがあるのだろう。実家の貴族家で肩身の狭い思いをしていたからこそ、同情にも似た気持ちを抱いたのかもしれない。
「あなたが聖女様付きであると知られれば、生家からうるさく言われるでしょう。気をつけなさい」
そんなことを口にしてきたサージアスは、この差し入れの菓子の意図を理解しているということだ。
「何か言われたのか?」
酸っぱいと言われた黄色いレモン味のマカロンを口にしながらマルティンは尋ねた。口の中でホロホロと解けていく不思議な食感と酸っぱいレモンの味がよくあっていた。
「それはもう、言わずもがな。ですよ」
肩を竦めて自嘲気味にサージアスが答えた。
「まだフィルナンドが試してもいないのに、気が早いな」
「一緒にいるから誘惑しろってことなんですよ。私にそんなことが出来ると思っているんですよ。困ったことに」
「誘惑……」
「ええ、聖女様からお情けを貰いなさい。ってことですね」
「それはまた」
あえて直接的な言葉を使わないあたり、この場にいる未成年に対する配慮である。もちろん、ユースフルがマルティン付きであることが知れれば、ユースフルも生家から同じことを言われる事だろう。
「それは、困ったことだな」
ため息をついてマルティンはカップを傾けた。一応、乙女ゲーム的には聖女になってハーレムを築いたことにはなっている。だからハーレムエンドになっていると思うのだが、現実はゲームと違って終わりがないのだ。
「ポーションを狙われるかもしれないからって、フィルナンドは神殿に籠っちまったからなぁ」
いつもなら、当たり前の顔でマルティンの隣を占拠するフィルナンドの姿がない。理由は簡単で、男の子宮の機能を復活させるポーションを作っているからである。材料はもちろん秘匿事項であるため、マルティンが穢れを祓うために出かける度に採取してきている。もちろん、行く先々の貴族たちがマルティンの行動を監視するかのように見守ってくれるので、採取する素材はカモフラージュも併せて色々だ。聖騎士たちが「聖女様自らが採取してくださった素材を使えば、ポーションの効能があがります」なんて言ってくれるから、マルティンが採取した素材を使って作られたポーションの値段はそうとう高騰しているのであった。
「フィル、休憩しないのか?」
毎日古文書のようなポーション生成の書物を読んではアレコレ書き出しているフィルナンドが心配になって、マルティンは声を掛けた。
「ちょっとまってて」
中から返事があったので、しばらく待てばフィルナンドが出てきた。
「マカロンを貰ったんだ。一緒に食べよう」
そう言ってマルティンが微笑みかければフィルナンドは恥ずかしげに微笑んで後を着いてくる。
「サージアスの実家からの差し入れなんだ。下心付きの」
マルティンが説明をすれば、フィルナンドは分かりきった顔で頷いた。
「まぁ、そうだろうね。聖女の血筋が貰えるかもしれないと思ったら、とりあえず探りはいれてくるよね」
もぐもぐと口を動かしながら、フィルナンドは頷いた。もちろん、フィルナンドの実家からなにか付け届けなどは来ないけれど、フィルナンド付きのメイドが毎日通うようにはなった。護衛騎士もフィルナンドが個人的に雇っていると聞いて、マルティンは軽く驚いたのだった。
「あまり無理をするなよ。王家から圧力をかけられているわけじゃないんだろ?」
マルティンが心配そうに尋ねれば、フィルナンドは頬を赤らめながら答えた。
「だって、僕、早くマルティンの赤ちゃんが欲しいんだもん」
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