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第27話 事始めは手順を守って
しおりを挟む神殿の奥でマルティンとフィルナンドは神妙な面持ちで女神象の前にたっていた。神聖なる水が湧き出る場所に佇む穢れなき乙女の姿をした若木を祀りなさい。と言うお告げを聞いた若者が、森の奥で乙女の姿をした若木を見つけたのがこの世界の神教の始まりと言われている。
そんなわけで、この世界の国々では湧水の場所に苗木を植えてその木に乙女の姿を彫ることにより神殿を建設してきた。不思議なことにそんな細工をされても木は枯れることもなく、湧水が絶えず溢れているのにも関わらず腐ることもない。それこそが神の御業とされ、聖域と呼ばれるようになったのだ。もちろん守護するのはフェンリルであり、穢れなき聖女の守護神でもある。
「当たり前のようにフェンリルがいるのがムカつく」
マルティンの腕に自分の両腕を絡めたまま、フィルナンドは乙女の像の隣に立つフェンリルを睨みつけた。
「何を言うか、我は聖女の守護神なるぞ。聖女の婚姻を見届ける義務がある」
「ないない。犬に見守られながら初夜とかありえないから」
「誰が犬か!我は聖女の守護神フェンリルなるぞ」
神聖な儀式をしているはずなのに、睨み合う二人?に挟まれ、マルティンは深いため息をついた。
「二人とも落ち着いてくれ。俺はちゃんと成人した男だから、手順はわかっている。心配してくれなくていい。監視されながらするとか、ちょっと俺も無理だから、な?フェンリル」
聖女であるマルティンに言われては、例え聖女の守護神であるフェンリルであっても逆らうことはできないようで、悲しげに鼻を鳴らして見送ってくれたのだった。
マルティンとフィルナンドは聖騎士に護られながら、いつものマルティンの部屋、つまり一番奥にある客間に戻って行った。貴族たちに悟られないように、極秘で事を進めているので、いつも通りにサージアスもいれば、ユースフルも待っていた。ただ、フェンリルは神殿全体を護るために乙女の像から強い結界を張り神殿全体を聖域化することに専念しているのであった。
「ラインハルトも聖騎士の皆さんも心配しなくていいから。聖女である俺の純潔が散るわけじゃないから、な?」
マルティンがそう話しても、ラインハルトを始めとした聖騎士たちは不安そうな顔をしたままである。
「うん、もぉ。心配しないでよ。マルティンの童貞ならとっくに僕が貰ってるから。それでもマルティンが聖女になれたってことは、童貞は聖女の純潔の条件じゃいんだよ」
あまりの人数にまとわりつかれてうんざりしたのか、とうとうフィルナンドが言わなくていいことを口にしてしまった。それを聞いて聖騎士たちは顔を赤らめたり互いに顔を見合せたり、俯いてしまったりと、様々な反応を見せてきた。
「は、あ、あ、え、そ、わかり、まし、た」
何とか返事をしてくれたラインハルトであったが、耳まで真っ赤になりひたすらに下を向いてマルティンと目を合わせないようにしていたので、マルティンはラインハルトがその手のことに疎いのだと悟ったのであった。
「やーっと二人っきりになれたね。僕のマルティン」
部屋に入るなり抱きついてきたフィルナンドをやさしく抱き返しながらも、マルティンは部屋の鍵をかけることを怠らなかった。唯一鍵がかかっていてもお構い無しに神殿内を闊歩できる存在のフェンリルには釘を刺してきたので、とりあえずハレンチな真似はされないと信じている。
「とりあえず、座ろうか」
フィルナンドの肩を抱いて促す先は寝台である。座る場所もなにも、この部屋にはこの、大きな天蓋付きの寝台しかないのである。ユースフルが頑張ってくれたのか、真新しい寝具が用意され、羽枕が二つ並んで置かれているのを見れば、嫌でも初夜なのだと意識させられる。
「じゃあ、飲むよ」
腰に着けた魔法カバンからフィルナンドはポーションの瓶を取り出した。マルティンの魔法カバンと見た目の大きさは同じだが、性能はそこそこのよくある魔法カバンである。だが、今日は特別なポーションが大切に保管されていたのだ。
「そいつがそうなのか」
男の子宮の機能を回復させるポーションと言う長ったらしい名前が付いたポーションである。エロチックな色をしているのかと想像していたのに、色は意外と普通だった。寝台に腰かけて、フィルナンドは自分で完成させたそのポーションをゆっくりと飲み干していく。その行為を見させられているだけなのに、どこか興奮してしまうのは人間としての欲求の一つである食欲を刺激されているからかもしれない。いや、液体を飲み込んでいくフィルナンドの喉が何度も上下しているのが、どこか性的欲求を刺激しているのだろう。見た目の量で言うとペットボトル一本分ぐらいを一気に飲み干した感じである。
「ふぅ」
流石に貴族のご子息であるから、一気飲みなんて経験はないだろうフィルナンドは、疲れてしまったのか、大きく息を吐いた。その吐息がまた妖艶な雰囲気を醸し出していて、マルティンは思わず喉を鳴らしたのだった。
「飲んじゃった」
飲み終えたポーションの瓶を魔法カバンにしまい、フィルナンドは腰から魔法カバンを外した。座ったままの姿勢ではあるが、腰の辺りから紐状の物を外す行為は中々性的欲求を刺激するものである。マルティンの目線がフィルナンドの手の動きを追う。薬師ギルドに務めているとはいえ、貴族の子息である。傷のない綺麗な手をしていて、指先までとてもよく手入れをされているのがよくわかった。
「ポーションの調合は手荒れなんかしないものなのか?」
前世の記憶で考えると、薬品を使うと手が荒れると思っていたが、乙女ゲームであるからそんな事は起こらないということなのだろうか?
「え?手荒れが起きたとしてもポーションで治すよ?」
さも当たり前のようにフィルナンドに答えられてマルティンは納得した。やはりここは乙女ゲームの世界であるから、乙女の気分を害するような出来事は起こらない仕様なのである。
「そうか。ならいい」
「なんで?」
「いや、綺麗な手だと思ってな」
そんな会話を交わしつつ、マルティンはさり気なくフィルナンドの手を取り、そのまま手の甲に唇を落とした。
「ふぁ」
突然のことなのに、何故か自然な流れでされたものだから、フィルナンドの中の乙女心が反応してしまった。それはもう、まるでヒロインのように。
「宜しく、俺の花嫁」
膝まづいて上目遣いにフィルナンドを見つめてみれば、フィルナンドの頬が上気し、瞳があっという間に潤んでいた。大きな瞳をさらに大きくして、マルティンを見つめ返している。
「ぼ、僕……」
見つめあったまましばらく動かないままでいると、いつの間にかにフィルナンドの大きな瞳から涙が溢れていた。
「フィル?」
マルティンが慌てて親指で涙を拭うと、フィルナンドがマルティンに向かて倒れるように抱きついてきた。
「僕、僕ね。ずっと夢見てたんだ。マルティンのお嫁さんになる日を、ずっと」
「うん」
「夢じゃないよね?」
「夢じゃない」
「ほんとに?」
「ほんとに」
膝まづいていたと言うのに、マルティンはフィルナンドを抱きしめたまま立ち上がり、そのまま寝台の上に乗り込んだ。
「ひゃあ」
寝台の上に押し倒されるような体勢になり、フィルナンドは両目をギュッと瞑った。
「なんでだよ?目を開けろよ、フィル」
「だって、恥ずかしい」
「目を開けないと、相手が誰だか分からないだろう?」
そんなことを耳元で囁かれ、フィルナンドの心臓が跳ねるように鼓動した。
「ダメ。心臓が口から飛び出しそう」
フィルナンドはさらに固く目を瞑るのだった。
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