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38(クリス)
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「よくやったわ。こうじゃなくちゃ。遠目ながら司祭にしては随分若くて美形すぎるとは思っていたけど訳あり公爵だったとはね。納得よ。教皇庁なんて爺どもに任せておけばいいわ。エスターにはそれくらい特別な相手が相応しいもの」
「ミシェル。声に出てるよ」
そっと教えてあげると、ミシェルは真顔で口を押さえた。
僕としてはまさかあのマクミラン司祭が紆余曲折を経てエスターに求婚しようとは夢にも思わなかったが、悪い気はしなかった。
男二人にエスターを託した時、僕は死を覚悟した……
しかしミシェルはお気に召したようだ。相手にも、結果にも。
宮廷での手続きを済ませ、我らがオーウェン閣下は現在レイヴァンズクロフトの宿屋に滞在しているという。庶民的な公爵閣下に驚きを隠せない。
だが僕はエスターが幸せならなんでもいい。
遠くない未来ウィンダム公爵夫人の従兄という立場になるが、僕にはミシェルがついている。王都での裁判で僕も一つ成長したのだ。
オーウェン閣下が馬車を下り立ちエスターと挨拶を交わしている様子は、既に愛で堅く結ばれた一組の夫婦のように美しかった。僕は感慨深く二人を見つめていたが、ミシェルは鼻息を荒くした。
こちらに揃って歩いてくると、既に顔見知りである僕にもオーウェン閣下は丁寧な挨拶をしてくれた。司祭と公爵ではわけが違う。僕は緊張したが、ミシェルは興奮している。
「レディ・ミシェル。お久しぶりです。こうしてお会いできて本当に嬉しい」
「こちらこそ光栄ですわ」
ミシェルは誇り高い英雄の孫娘として僕より余程しっかりと応対している。
「どうぞよろしくお願いいたします」
愛くるしくも凛としたカーテシーに僕は幸福感で満たされた。挨拶を受けたのはオーウェン閣下であり僕ではないが、改めてミシェルの婚約者である幸せを噛み締める。
可愛い……
そして強い……
「エスターを幸せにしてください」
押しも強い。
オーウェン閣下は嫌な顔一つせず……というよりは喜んだ様子で上品な笑顔を煌めかせている。
「あなたのお眼鏡に適うといいが」
「恐れ入りますわ。生涯、釘付けでしてよ」
本当に恐れ入る事を宣いながらミシェルがとびきりの笑顔で応じている。エスターは頬を染めて幸せそうに笑っているし、僕も笑っておこう。若干、気が気ではなかったが。
だがオーウェン閣下は打ち解けたふうに、まるでお茶目とも受け取れる頷き方でミシェルに言った。
「頼もしい」
そして四人で並んで歩き出す。
左から僕、ミシェル、オーウェン閣下、エスター。以前とは違う風がウィンダム城を吹き抜ける。
「誰かが守らないと」
「その栄誉を私にも分けてもらいますよ」
「まあ、それこそ頼もしいですわ。期待しています」
エスターに聞かせたくないのか、長身のオーウェン閣下が身を屈めミシェルと短い契約を交わした。エスターは聞こえないふりか、聞いていないのか、二人を愛情深い眼差しで見つめて微笑んでいた。
ああ、本当に、彼女は今、幸せなんだ。
「……っ」
僕は感極まり仰のく。
だが次の瞬間、僕の世界は更に輝きを増した。
高く可愛らしいミシェルの声が嬉しそうにこう言ったのだ。
「これで私も安心してクリスに嫁げますわ」
「ミシェル。声に出てるよ」
そっと教えてあげると、ミシェルは真顔で口を押さえた。
僕としてはまさかあのマクミラン司祭が紆余曲折を経てエスターに求婚しようとは夢にも思わなかったが、悪い気はしなかった。
男二人にエスターを託した時、僕は死を覚悟した……
しかしミシェルはお気に召したようだ。相手にも、結果にも。
宮廷での手続きを済ませ、我らがオーウェン閣下は現在レイヴァンズクロフトの宿屋に滞在しているという。庶民的な公爵閣下に驚きを隠せない。
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こちらに揃って歩いてくると、既に顔見知りである僕にもオーウェン閣下は丁寧な挨拶をしてくれた。司祭と公爵ではわけが違う。僕は緊張したが、ミシェルは興奮している。
「レディ・ミシェル。お久しぶりです。こうしてお会いできて本当に嬉しい」
「こちらこそ光栄ですわ」
ミシェルは誇り高い英雄の孫娘として僕より余程しっかりと応対している。
「どうぞよろしくお願いいたします」
愛くるしくも凛としたカーテシーに僕は幸福感で満たされた。挨拶を受けたのはオーウェン閣下であり僕ではないが、改めてミシェルの婚約者である幸せを噛み締める。
可愛い……
そして強い……
「エスターを幸せにしてください」
押しも強い。
オーウェン閣下は嫌な顔一つせず……というよりは喜んだ様子で上品な笑顔を煌めかせている。
「あなたのお眼鏡に適うといいが」
「恐れ入りますわ。生涯、釘付けでしてよ」
本当に恐れ入る事を宣いながらミシェルがとびきりの笑顔で応じている。エスターは頬を染めて幸せそうに笑っているし、僕も笑っておこう。若干、気が気ではなかったが。
だがオーウェン閣下は打ち解けたふうに、まるでお茶目とも受け取れる頷き方でミシェルに言った。
「頼もしい」
そして四人で並んで歩き出す。
左から僕、ミシェル、オーウェン閣下、エスター。以前とは違う風がウィンダム城を吹き抜ける。
「誰かが守らないと」
「その栄誉を私にも分けてもらいますよ」
「まあ、それこそ頼もしいですわ。期待しています」
エスターに聞かせたくないのか、長身のオーウェン閣下が身を屈めミシェルと短い契約を交わした。エスターは聞こえないふりか、聞いていないのか、二人を愛情深い眼差しで見つめて微笑んでいた。
ああ、本当に、彼女は今、幸せなんだ。
「……っ」
僕は感極まり仰のく。
だが次の瞬間、僕の世界は更に輝きを増した。
高く可愛らしいミシェルの声が嬉しそうにこう言ったのだ。
「これで私も安心してクリスに嫁げますわ」
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