もう愛は冷めているのですが?

希猫 ゆうみ

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37(ミシェル)

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公表する前に紹介したい人がいる────その一文を読んだ瞬間の興奮を私は生涯忘れることはないだろう。私はエスターからの手紙を歓喜のあまり奇声をあげながら皺くちゃに握り潰した。もちろん秘密だ。直後、丁寧に伸ばした。

国王のお墨付きで落馬事故の真相は国の極秘事項となったので、私の心は晴れ晴れしていた。エスターに秘密を抱えてなどいない。

血筋の甲斐あってか、私はルシアンの刑について他よりも情報が与えられていた。堂々と質問した甲斐があった。件の駆け落ち王女が首を縦に振り次第、刑は執行されるそうだ。但し、公表はされない。

私たちはただ、忘れればいい。
気分爽快!

当初、杖が取れて自分の足で走れて乗馬もこなせるような完全体に戻ってからエスターに会いに行くつもりだった私は、予定を繰り上げた。

杖なしで歩ければまあ良しとしよう。
エスターの紹介したい人を紹介されなくてはいけない。私の自尊心より余程価値のあることだ。

というわけで私はクリスと共に馬車に揺られウィンダム伯領にやってきた。事前にクリスが報せてくれていようと、やはりエスターは城門を越えて出迎えてくれてしまう。
クリスの手を借りるまでもなく颯爽と馬車を下り立った私は、エスターの胸に飛び込んだ。

「ああ、ミシェル……!」

エスターの嬉しそうな声に私は泣いた。

「エスター……お待たせ。私、戻ったわ」
「ずっと待ってた。会いたかったわ、ミシェル。あなたを愛しているの」
「私もよ!」

細いエスターの腰をへし折ってしまわないよう、私は細心の注意を払う。なんといっても療養中の足が不自由な間に私の腕力は目覚ましく進化しているのだ。

力とは、愛する人を守る時にのみふるうものである。

一頻り再会を喜んだ私たちは、長い年月をそうして過ごしてきたように、ウィンダム城のお気に入りの場所で和気あいあいと寛いで過ごした……のだが。

私が聞きたいのは長閑な風の音と世間話ではない。

「エスター!紹介したい人って誰なの!?」

エスターはぽっと頬を染めた。それだけで私は舞い上がった。
ちなみに、静かにしているだけでクリスもここにいる。落ち着かない様子で目を輝かせている。

「実はね……」
「ええ」

意気込んで相槌を打つ私の手をエスターがそっと握った。更にその上にクリスが手を乗せたので叩き落した。今はクリスどころではない。エスターの大切な恋の話……のはず!

「予定が早まって、今日、いらっしゃるの」
「え?」

何の予定が早まって誰がどちらに?
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