没落令嬢の子育て記。12世紀ドイツに似た異世界で、拾った子犬がイケメン精霊犬になりまして

ねこまんまる

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12 教会の掃除

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さっそく四人は掃除の手伝いに出かけていったけれど、私は心配でついていくことにした。

村の中央には、小さな教会――正確には、礼拝堂と村人の集会所を兼ねた石造りの建物が建っていた。

中世ドイツの辺境にある寒村の教会は、町にある教会のような高い尖塔も、彩色された壁画も持たない。
川石を荒く積んだ壁に、屋根は針葉樹の板葺き、聖壇せいだんには素焼きの十字架がひとつ置かれているだけだ。

ただ冬だけは、祈祷のあいだに人々が凍えて倒れないよう、奥の一角に石造りの暖炉が設けられていた。
聖壇せいだんに火の粉が飛ばないようにと、低い石壁で囲ってある。

中へ入ると、暖炉で燃やされているかしの薪がぱちりとはぜ、羊毛の脂の焦げる甘い匂いが、凍えた頬をそっとあたたかく溶かしていった。

暖炉のそばの椅子に座っていた老人――ハインリヒは、羊毛外套のえりを押さえながらゆっくりと立ち上がった。

領主から任ぜられた村吏で、年貢の取りまとめのほか、境界線の争いごとの調停もになう人物だ。
村人たちは親しみをこめて「ハイン爺」と呼ぶ。

「おお。よく来たな。冷えただろう。ここへお座り」

靴についた霜を払った私たちは、暖炉の前の長椅子に腰を下ろした。

ハイン爺が軽く咳をすると、隣に控えていた補佐役の男が立ち上がった。
四十手前の働き盛りで、厚手の麻の袖をまくる手つきはてきぱきとしている。

棚から黒ずんだ木椀を四つ取り出し、炉の脇の鉄鍋へ向かう。
鍋では、乾燥リンゴと薬草(※ヤロウやミント)が湯に煮出され、湯気にほのかな酸味が混じっていた。

男は木杓子ですくった湯を椀へ注ぎ、瓶から淡い金色――貴重なハチミツをひとたらし落とす。
ハチミツは、領主の管理する共同養蜂箱からごくわずかだけ分けられるもので、冬の祈りの夜に限って村人にも振る舞われる特別な甘味だ。

「冷える日だ。これで体を温めなさい」

ハイン爺に言われて、青年たち四人はパッと表情を明るくした。

「やった!」
「あったかいやつだ!」
「いい匂いがする……」
「ぼく、はちみつ好きー!」

差し出された椀を、私も両手でそっと受け取った。

「……本当に、ハチミツですか? こんな貴重なもの、私たちがいただいても?」

ハイン爺は肩を揺らして笑った。

「今日は掃除をまかせることになるからのう。神も目をつぶってくださろうさ」

「ねえ、アーデルさん、はやく飲もうよ!」
コハクが私のそでを引っ張ってくる。

うなずいて飲んでみると、甘い湯が唇を満たす。
リンゴのやわらかな酸味と、ハチミツの甘さが広がり、胸の奥がほどけていくようだった。

農村で普段口にするのは、煮沸した水や薄いハーブ湯、あるいは麦粥の汁や薄いエールだ。
砂糖などの甘味料が高級な中世では、ハチミツの甘さは年に一度あるかないかの贅沢ぜいたくだった。

「おいしい……!」

思わずこぼれた私の声に、四人も「うまいな!」「すごく甘い!」と頬をゆるめる。
その笑顔を見ると、胸があたたかくなった。

飲み終えると、四人は木椀を重ねて台へ戻し、張り切って動き出した。

「じゃあ、僕ら、掃除をするから」
「お礼にいっぱい働くよ!」

教会を管理する年配の女性が、腰に手を当てて「助かるよ」と言う。

「ほら、あの大きな長椅子を全部ずらしてね。冬の間に床板が歪むから、掃除のついでに位置を直すんだよ」

すると――

アカが、ひょい、と大きな長椅子をひとりで持ち上げた。

大人でも二人がかりで動かす重い樫の長椅子が軽々と運ばれていくのを見て、火ばさみで薪をつついていたハイン爺がぽかんと口を開く。

「……ちょ、ちょっと待っておくれ。あんた、それ本当に一人で?!」

「ああ。持てるぜ、これくらい」
 
アカは平然として、椅子を反対側の壁ぎわへ運んでしまった。
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