没落令嬢の子育て記。12世紀ドイツに似た異世界で、拾った子犬がイケメン精霊犬になりまして

ねこまんまる

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13 ごほうび

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ギンはほうきを持って暖炉まわりの灰をはき出し、アオが窓の木枠のホコリを布で丁寧に拭き、コハクが祭壇の布を落とさないよう真剣な顔で押さえている。

私も、掃除を手伝うことにした。
ハシバミの枝を束ねた素朴なほうきを使い、石床の上に積もった砂や乾いた泥を、入口の方へと寄せていく。

祭壇の前は、特に念入りに掃除する。
祈るときにひざまずく者が多いから、床はり減り、色も濃い。
直接水を流すことはせず、湿らせた布で拭うだけにとどめる。
石の隙間に水が染み込めば、冬には凍って、傷みの原因になるからだ。

ハイン爺が、苦笑しながら言った。

「まったく、アーデルに似て、息子たちは働き者じゃな」
 
マチルダが「お礼に、あとでアーデルが頭をなでてくれるわよって伝えたらね、みんな『やる!』って二つ返事だったのよ」と笑う。

中世でも「なでること」は犬にとって十分ごほうびになるけれど、それは精霊犬の彼らでもおなじのようだ。



掃除をおえたころ、すっかりキレイになった礼拝堂の内部には、冬の日差しが細く差し込んでいた。
床はすすとホコリを含んだ灰色が拭い取られ、長椅子の背や肘掛けは、荒布でみがかれて木肌がなめらかになっている。

「アーデルさん、なでて!」

最初にコハクがとびついてきて、両腕で私の腰にしがみつく。
羊毛の上着越しに、外気で冷えた子どもの体温が触れた。

他の三人も、
「ずるい!」「俺も!」「僕も!」
と騒ぎながら押し寄せてくる。

この時代、暖房の乏しい石造りの建物の中では、人のぬくもりは何よりも身近な暖房だった。
子犬の名残を残す四人の子どもは、甘えるときも本能のように体を寄せてくる。

私が順に頭をなでてやると、みんな満足そうに目を細めた。


教会を出ようと扉を押し開いたそのとき、外から、重たい足取りが近づいてくる音がした。

修道院から派遣されている中年層の巡回司祭が、ゆっくりと礼拝堂へ入ってきたのだ。

12世紀の辺境では、司祭が常駐していない村も多く、こうした巡回司祭は、雪道を踏み分けて移動しながら洗礼や説教を行っていた。

司祭のフードつき外套は、旅の泥で縁が黒ずみ、裾には凍りかけた土がこびりついている。
長旅の疲れがあって当然なのに、彼の目だけは異様にぎらついていた。

アオが「なんか……あの司祭、へんだよ」と、小声で私の上着の裾を引っ張った。
他の子も、いぶかしげに司祭を見ている。

異端審問が本格化する前の時代でも、宗教的狂信はめずらしいものではなく、巡回司祭のなかには熱に浮かされたような目つきをする者もいた。
 
私にも、彼のただならぬ気配が伝わってきた。

「……とりあえず、帰ろうか」

私は子どもたちをうながし、石段を降りて外へ出た。

外の空気は夕方特有の鋭い冷たさを帯び、吐く息が白くほどける。
冬のシレジアは日暮れが早く、森の影が村の端からじわじわと伸びてくる。
家々の煙突からは、湿った薪を焚いた匂いが細く上がっていた。

子どもたちは、私の手を次々に握ってくる。
それぞれの手のひらからは、羊毛の手袋越しでもあたたかさが伝わった。

教会の扉が背後でぎぃと閉まり、あの巡回司祭の足音だけが礼拝堂の奥へ消えていく。

なんとも言えない、不穏な気配が胸に残ったまま、私たちは家路についた。

◇  
 
夜が明け、鳥の声もまだ遠い時間帯。
 
私は、鼻先をくすぐる乾いた藁の匂いで目を覚ました。

頭上には、黒く煤《すす》けた板天井が広がっている。
12世紀のこの地方の農家は、天井板といってもただ梁に粗い板を打ちつけただけのものだ。
 
煙突のない開放炉(炉床)から立ちのぼる煙は、ゆっくり天井にたまるので、天井の木は黒く染まっていた。
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