師匠の嫉妬で才能を奪われた薬師見習いの私、牢獄で本物の力を取り戻す

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翌日、宮廷の大会議室。
国王、王子たち、大臣たちが居並ぶ中、わたしは膝をついていた。
冷たい大理石の床が、膝を通して骨まで冷やす。

「セシリア・ロゼウス。貴女は疫病治療において、重大な過失を犯した」

エリザ様の声が響く。高い天井に反響して、何度もわたしの名前が繰り返された。

「患者に投与した薬の調合を誤り、症状を悪化させた。これは薬師として許されざる罪です」
「陛下」

グスタフ大臣が立ち上がった。太った体を持ち上げる時、椅子が軋んだ音を立てた。

「この娘の過失により、民衆の信頼は失墜しております。厳罰をもって臨むべきでしょう」

グスタフは手を広げ、大げさに嘆いてみせた。

「しかし......」

第二王子が口を開きかけたが、グスタフに目で制された。若い王子は唇を噛み、黙り込む。
国王は疲れた表情で頷いた。白髪混じりの頭を、ゆっくりと上下に動かす。

「セシリア・ロゼウス。そなたを投獄し、後日、処刑とする」

世界が音を失った。
処刑。わたしが、死ぬ。殺される。

「陛下、お待ちください」

冷たい声が響いた。
アルヴィン王子が立ち上がった。黒い軍服の裾が、音を立てて揺れる。

「この件、不可解な点が多い。調査が必要ではないか」
「殿下、しかし証拠は......」

グスタフが慌てて反論しようとする。

「証拠が全てではない。真実を明らかにすべきだ」

アルヴィン王子の青い目が、鋭くグスタフを睨んだ。
国王は首を横に振った。

「アルヴィン。民衆は犯人を求めている。これ以上、混乱を招くわけにはいかぬ」
「しかし」
「決定は覆らぬ」

国王は玉座の肘掛けを叩き、強く言い放った。
近衛騎士たちがわたしを取り囲んだ。冷たい鎖が、両手首に巻きつけられる。
金属の重さが、腕に食い込んだ。

「行きなさい」

エリザ様が冷たく微笑んだ。赤い唇が、三日月のように歪む。


地下牢は、暗く、冷たかった。
石の壁に囲まれた独房に、わたしは投げ込まれた。
体が床に叩きつけられ、肩を強く打つ。
鉄格子が閉まる音が、絶望的に響く。金属が石に当たる音が、何度も何度も耳の中で反響した。
膝を抱えて、わたしは震えた。石の床の冷たさが、薄い服を通して体温を奪っていく。

なぜ、こんなことに。
わたしは、ただ人々を助けたかっただけなのに。

涙が止まらなかった。頬を伝う涙が、顎から床に落ちる。
一滴、また一滴と、冷たい石を濡らした。
でも、不思議なことに気づいた。
体が、軽い。
この三年間、ずっと感じていた重さ、頭の霞が、消えている。
まるで厚い布が顔から剥がされたような、新鮮な感覚だった。
深く息を吸うと、肺が久しぶりに空気で満たされる。

エリザ様の薬を、もう飲んでいないからだ。
あの薬は、本当に体調管理の薬だったのだろうか。

疑問が頭をもたげたが、もう遅い。わたしは、死ぬのだ。
窓のない独房で、時間の感覚が失われていった。どれだけの時間が経ったのか、もうわからない。
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