【完結】錬金術ギルドを追放された私、王太子妃を救ったら二人のイケメンに溺愛されてギルド長になりました

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第五章

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会場が騒然となった。
いや、ざわめきなどという生易しいものではなかった。貴族たちが悲鳴を上げ、椅子を倒し、逃げ惑う。舞踏会は一瞬で大混乱に陥った。
「これは一体......」
「王太子殿下を暗殺しようと!」
「宮廷魔導師が? まさか!」
人々の叫び声が飛び交う中、私は人込みをかき分けて前に出た。肩に手を置いたエリックが、低く言った。
「危険だ、下がっていろ」
「でも、証明しなければ」
私は王太子の前に立ち、床にこぼれたワインを指差した。
「王太子殿下、そのワインには『黒水晶の毒』が入っています。王太子妃に使われた蒼晶毒より、さらに強力な毒です」
「なぜ分かる?」
王太子が鋭く問うた。周囲の貴族たちも、固唾を呑んで私を見ている。
「この匂い、そして微かな虹色の光彩。黒水晶の毒の特徴です。もし殿下が飲まれていたら、数分で――」
言葉を飲み込んだ。あまりにも恐ろしい結果を、口にしたくなかった。
セバスチャンの顔が青ざめた。いや、それは青ざめたというより、何か別の感情――怒り? 焦り? それとも――
「馬鹿な......いや、私は知らない! そのワインは厨房から持ってきただけだ!」
「では、なぜ公爵が勧めたワインに毒が? 他の誰でもない、宮廷魔導師たる公爵が、自ら王太子殿下にワインを勧めた」
フランソワが一歩ずつセバスチャンに詰め寄る。その動きは優雅だが、剣士の緊張感に満ちていた。
セバスチャンは後退しながら叫んだ。
「陥れられた! 私を陥れようとする者の仕業だ! そうだ、この小娘が――」
その時、私は気づいた。
セバスチャンの手が、懐の短剣に伸びている。魔導師が剣を? いや、違う。あれは魔力を込めた魔剣だ。
「危ない!」
考えるより先に、体が動いていた。
私は王太子を突き飛ばした。
セバスチャンの短剣が、私の肩を掠めた。いや、掠めたというより、深く食い込んだ。
熱い。
それが最初の感覚だった。まるで焼けた鉄を押し当てられたような。
次に、激痛が走った。
「クロエ!」
エリックの叫び声。そして、私は誰かの腕に抱き留められた。エリックだ。
「大丈夫......です......」
そう言ったが、視界が揺れている。肩から血が流れているのが分かった。深紅のドレスが、さらに深い赤に染まっていく。
「大丈夫なわけがあるか!」
エリックが吠えた。その目に、見たことのない激情が宿っていた。いつも冷静で、氷のように涼しげだった彼が、まるで別人のように。
「お前を守ると言ったのに......!」
エリックの腕が震えている。私を抱く腕が。
「エリック様......」
「喋るな! 傷が開く!」
彼の声が、震えていた。
その時、別の声が響いた。
「セバスチャン・ドゥ・ヴィルヌーヴ」
王太子が立ち上がった。その顔は、抑えきれない怒りに満ちていた。
「王太子妃暗殺未遂、王族への毒殺企図、そして今、罪のない女性への傷害。その罪、万死に値する」
「違う! これは誤解だ! 私は――」
「誤解?」
フランソワが冷たく笑った。
「ではその血塗られた短剣は何だ? 偶然クロエ嬢に刺さったとでも言うのか?」
セバスチャンの目が、狂気を帯び始めた。追い詰められた獣のように。
「そうだ......そうだとも......すべてこの小娘のせいだ......!」
セバスチャンが魔法を発動させようとした瞬間、フランソワの剣が彼の喉元に突きつけられた。いつの間に抜いたのか。その動きは流れるように優雅で、そして致命的だった。
「動くな。次は本当に首が飛ぶぞ」
フランソワの声には、普段の優雅さのかけらもなかった。冷たく、鋭く、殺意すら感じさせる。
「フランソワ様......」
「クロエ嬢が傷ついたんだ。これくらいは当然だろう?」
その言葉に、私の胸が熱くなった。
観念したように、セバスチャンは膝をついた。周囲を近衛騎士たちが取り囲んでいる。もう逃げ場はない。
しかし、その顔に浮かんだのは諦めではなく――狂気の笑みだった。
「ふふ......ふははは! まさか平民の小娘に計画を潰されるとはな! 十年だ! 十年もかけて準備したというのに!」
「計画?」
王太子が問うた。
「そうとも! 私は新しい王国を作ろうとした!」
セバスチャンの声が、広間に響き渡る。
「無能な王族を排除し、真に力ある者が治める国を! 魔法の才能こそが、人の価値を決める世界を!」
「お前は狂っている」
エリックが吐き捨てるように言った。
「狂っている? いいや、正気だ! 見ろ、この国を! 血統だけで地位を得た無能な貴族たち! 才能がありながら平民というだけで虐げられる者たち!」
セバスチャンは私を睨みつけた。
「お前のようにな、クロエ・フォンテーヌ! お前は才能があった。『秘められし過去の欠片』という稀有な能力を持ちながら、平民だからという理由でギルドを追放された!」
私は息を呑んだ。彼は、私の能力を知っている。いつから? どうやって?
「その能力を、私の計画に使うつもりだった。お前を味方につけて、王族の秘密を暴き、彼らの悪行を白日の下に晒すつもりだった」
「でも、クロエ嬢はあなたの誘いに乗らなかった」
フランソワが言った。
「だから怒っているのか?」
「いいや」
セバスチャンの笑みが深まった。
「お前さえいなければ、王太子妃は死んでいた。王太子も今夜死んでいた。そして次は国王だ。すべて計画通りだったのに――すべてお前のせいだ、クロエ・フォンテーヌ!」
「違います」
私は肩を押さえながら、エリックの腕の中から顔を上げた。痛みで意識が遠のきそうだったが、これだけは言わなければ。
「あなたが負けたのは、私のせいではありません」
「何?」
「あなたが負けたのは、人を見下していたからです。平民だから、女だから、若いから。そうやって相手を侮り、油断した」
セバスチャンの顔が怒りで歪んだ。
「黙れ! 小娘が――」
「それに」
私は続けた。声が震えているのが分かった。でも、止まらない。
「あなたには、仲間がいなかった。利用する駒はいても、信頼できる仲間は一人もいなかった。アントワーヌも、ジュリエットも、あなたにとってはただの道具だった」
セバスチャンの目が、憎悪に燃えている。
「だから、誰もあなたのために戦わない。誰もあなたを守らない」
私はエリックとフランソワを見上げた。二人は私を守るように立っていた。そして、その目には――
「私には、仲間がいます。信頼できる仲間が。それが、あなたとの違いです」
「仲間だと? ふざけるな!」
セバスチャンが最後の抵抗とばかりに魔力を爆発させようとした。
しかし、エリックの氷雪の魔術が瞬時にそれを封じた。
「もう終わりだ、セバスチャン」
エリックの声は、冷たく、そして最終的だった。
「お前の野望も、狂気も、すべて終わった」
セバスチャンは呻き声を上げ、完全に崩れ落ちた。近衛騎士たちが彼を取り押さえる。
「連行しろ。厳重に監視せよ」
王太子の命令が下った。
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