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第一章 違和感の連続
建国祭②
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路地裏を出て、元の脇道に戻る。近くに人の気配はなく、狭い路地から出てきた二人に気づく者はいないだろう。
少し前までは大通りの賑やかさに後ろ髪を引かれていたフレデリクだったが、この時ばかりは人通りの少ない場所で良かったと胸を撫で下ろす。
「どうする? 一旦何か食べに行くか?」
繋いだ左手の先で、テオドアが口を開いた。
時刻はちょうど正午を過ぎた頃。そろそろ腹の音が鳴ってもおかしくはない時間だ。
「そうだね。テオは何か食べたいものある?」
「俺はフレッドの隣にいられればなんでもいい。だからお前の行きたいところを教えてくれ」
「あ……え、えーっと、それじゃあ……」
真剣な顔でそう言われたら、いつもより近くに感じる距離が、ことさら心臓に悪かった。
それに加え、この熱視線。フレデリクは動揺を悟られないよう、さりげなく視線を横に逸らす。
「串焼き……とかどう? さっきすごく美味しそうな匂いがしてて、ずっと食べたいと思ってたんだ」
「ああ、確か近くにあったよな」
「……そ、それに、搾りたてって書いてあったフルーツジュースも飲みたい」
「ん、いいんじゃねえか」
「……広場でやってたパフォーマンスも見ていい?」
「そうだな……フレッドが絶対に俺から離れないって約束してくれるなら」
「それはっ……、手……繋いでるから大丈夫だよ」
さりげなくずらしたはずの目線が、いつの間にか地面を見下ろしている。
恋人っぽいやり取りに慣れないのはそうだが、テオドアの優しく見つめてくる表情に、そわそわとひたすら落ち着かない。
「も、もう行こう! ここで話してばかりじゃ時間もったいないだろ」
フレデリクはそう言うと、テオドアの手を引っ張って先を歩いた。
隠しきれない耳元の赤が、短く揺れる髪の隙間から覗く。後を追うテオドアは、心底嬉しそうに唇を緩めると、フレデリクの隣に肩を寄せ並んだ。
***
それから宣言通り、串焼きを食べ、果汁たっぷりのジュースを飲み、路上パフォーマンスを名一杯楽しむと、空はだんだん茜色に染まり始めていた。
楽しい時間が過ぎ去るのは早い。最初はどうなることかと思ったが、はぐれないように繋いだ手はそのまま、フレデリクの左手を包んでいる。案外皆、他人のことは見ていないようで、人目も大して気にならなかった。
「日が暮れてきたな。そろそろ帰るか?」
空を見上げながら、テオドアが尋ねてくる。
フレデリクは彼に返事をしようとして――ふと、視界に映った露店の前で足を止めた。
「うわあ、きれい……」
日に反射して煌めく、色とりどりのガラス細工が机上に並べられていた。――神秘的で美しく、繊細な技術の結晶。その中でも一際目についた、小さなガラスの球体を手に取る。深い紫苑の中に、星屑のような粒が瞬くそれは、不思議とテオドアの瞳を思い出させた。
「気に入ったのか? それ」
「うん……。これ、すごくきれいだ」
「だったら、俺が買って――」
「テオの目みたい。キラキラして、星空みたいで、冷たく見えるのにどこか温かみがあって……」
「……へえ」
じっくりと見入るフレデリクの隣で、テオドアは静かに表情を消す。しかしガラス玉に夢中なフレデリクは、急に低まった相槌にも気づかない。
「……フレッド、」
テオドアが気を逸らそうと手を引く――その時だった。
「――おや、アンタなかなかいいセンスしてるじゃないか」
しわがれた声が耳に届いた。いつの間に現れたのか、目の前には人好きのする笑みを浮かべた老婆がいた。
初めフレデリクが足を止めた時にはいなかったはずだが、我が物顔で話しかけてきたところを見るに、恐らくはこの露店の店主だろう。
「すっ、すみません勝手に触ってしまって……!」
誰もいなかったとはいえ、フレデリクはベタベタと触りすぎてしまったことに謝り、ガラス玉を元の場所へと戻す。
「ん? ウチの商品が気に入ったならどれだけ触ってくれてもかまわないよ。ここはその時、客が一番求めるもんを提供するのがウリだからね。……それよりもアンタ、随分センスのいいもん持ってるじゃないか」
老婆の骨張った指が差した先。そこにあるのは、フレデリクがいつも肌身離さず首から下げている新緑色の石。
「あ……これ、ですか?」
「そうだよそうだよ。どれ、ちょいと見せておくれ」
「は、はい。どうぞ」
ズイッと顔を近づける老婆に、恐る恐る石を寄せた。けれどなんとなく手渡すのは気が引けたので、首から下げたまま手のひらに乗せて見せた。
「ああ……。やっぱり、これはアタシが作ったもんだねえ。いやあ懐かしい。そんじょそこらじゃ見られない男前の坊っちゃんに売ったから、流石にこの老いぼれでも覚えてるよ。プレゼント先はアンタだったんだねえ」
目元の皺を深くした老婆がニンマリと、からかいの色を混ぜて笑う。
「良い色に育ってるよ。アンタ、この石の名前はあの子に聞いただろう?」
「えっ? いや、知らないです……。というかこれ、お婆さんが作ったって、」
「なんだいそりゃあもったいない!!」
グワッと――老婆は突然、唾を飛び散らすほどの勢いで叫んだ。垂れ下がった瞼に隠れるつぶらな瞳が、信じられないといわんばかりに大きく見開いている。
「それは加護の石だよ! 身につけた人の身から災厄をはね除けてくれるっていう優れもんさ!」
「か、加護の石?」
肩を盛大にビクつかせたフレデリクは、手元の石をじっと見やる。
「ああそうさ。贈った人の想いが強ければ強いほど、それは鮮明に輝いて効果を発揮する。アタシは作り手だからね。アンタのその石が今十二分に光輝いてるのが分かるよ。よっぽどあの子はアンタが大切だったんだろうさ。……なのにその効能も知らせないで渡すなんて、無自覚なのか、ただの不器用なのか……」
残念そうに老婆が呟く。昔少し会話しただけのテオドアのことを、余程気に入っていたようだ。
しかしフレデリクは、ここで老婆と出会わなければ、この事実を一生知らないまま過ごしていたに違いない。
(そうだったんだ。テオはあの時、そんな意味を込めておれにこれを……)
じんわりと胸が温かくなる。愛おしく思う気持ちが波のように溢れて、彼は身を任せるようにテオドアへ体を寄せていた。
「……知らなかった、テオがそんな風に思ってくれてたなんて。おれはてっきり、おれと同じ瞳の色だからくれたんだと思ってたよ。……あの時のおれたち、珍しく喧嘩してたからさ。おれの機嫌とるために、テオがわざわざ用意してくれたのかなって」
「…………」
「でも良く考えたらテオはそんな回りくどいことしないよね。……へへっ、どうしよう。おれ、いま小踊りしちゃいたいくらい嬉しいや」
老婆の存在も忘れて、フレデリクはニコニコと緩みきった笑顔で話す。先程から一言も発さないテオドアには、微塵も疑問を持たないで。
「その口ぶり……もしかして隣にいる兄ちゃんがあの時のあの子なのかい?」
「えっ? あ……はい、そうです。おれにこれをくれたのは彼で……」
「……へえ、それにしちゃあ随分と変わっちまったみたいだねえ」
フレデリクの左手を包むテオドアの右手が、ピクリと揺れたのが分かった。老婆の探るような眼差しと、テオドアの冷えきった視線が交差する。
「あ……えっと、彼、実は数年前に怪我をしてしまって、左目に眼帯を付け始めたんです。後は成長したからっていうのもあると思いますけど、印象が変わって見えるのは、多分そのせいじゃないですかね?」
一瞬にして緊迫した空気が漂っていた。フレデリクは原因も分からず、何故か言い訳するみたいに説明を加えたが、依然として空気はそのまま。舌打ちをこぼしたテオドアに問答無用で手を引かれる。
「帰るぞ」
「えっ!? ちょっ、ちょっと待ってよ! まだお婆さんと話して……って、あれ?」
無理やり引っ張られながら振り返れば、ついさっきまでそこにいたはずの老婆は忽然と姿を消していた。その上ガラス細工の露店も無く、そこには普通の雑貨屋が広がっているだけ。
(う、嘘だろ……!?)
「ちょっ……テオ! 聞いてくれ! なんでか分からないけど、お婆さんの店が無くなって、別の店になってるんだ! なあ、おれ達、もしかして幻覚でも見て……」
「っ!」
その時、テオドアが突然顔を抑えて立ち止まった。
「テオ……? えっ、だ、大丈夫!?」
抑えているのは正確にいうと左目。眼帯に皺が入るほど強く握り、額には尋常ではない量の脂汗が浮かんでいる。ギリッと音が鳴りそうな程歯を食いしばって、眉根を寄せている姿はかなり辛そうだ。
「目が痛む? どこかで休もうか?」
フレデリクは少しでも落ち着かせようと背中を擦る。
しかし、テオドアはその動きを止めると、痛みを必死に堪えて薄く微笑んだ。
「だい……じょうぶ、だ。悪い、少し、ゴミが入ったみたいだから……洗って、くる。お前はここで、待ってろ……」
「えっ、いやっ、俺も行く……」
「来るな!」
伸ばした手は振りほどかれた。大声に驚いた通行人たちが訝しげな表情で窺ってくるが、テオドアは気にせず人の流れに逆らって離れていく。
(怒られた……)
テオドアに怒鳴られるのは、何もこれが初めてじゃない。だからこれくらい、なんでもない。なんでもないことのはずなのに、さっきのあれには、明確な拒絶が含まれていた。
フレデリクはその場から一歩も動けず、不安を飲み込むように胸元の石をきつく握りしめて、ただ立ちすくんでいるしかなかった。
少し前までは大通りの賑やかさに後ろ髪を引かれていたフレデリクだったが、この時ばかりは人通りの少ない場所で良かったと胸を撫で下ろす。
「どうする? 一旦何か食べに行くか?」
繋いだ左手の先で、テオドアが口を開いた。
時刻はちょうど正午を過ぎた頃。そろそろ腹の音が鳴ってもおかしくはない時間だ。
「そうだね。テオは何か食べたいものある?」
「俺はフレッドの隣にいられればなんでもいい。だからお前の行きたいところを教えてくれ」
「あ……え、えーっと、それじゃあ……」
真剣な顔でそう言われたら、いつもより近くに感じる距離が、ことさら心臓に悪かった。
それに加え、この熱視線。フレデリクは動揺を悟られないよう、さりげなく視線を横に逸らす。
「串焼き……とかどう? さっきすごく美味しそうな匂いがしてて、ずっと食べたいと思ってたんだ」
「ああ、確か近くにあったよな」
「……そ、それに、搾りたてって書いてあったフルーツジュースも飲みたい」
「ん、いいんじゃねえか」
「……広場でやってたパフォーマンスも見ていい?」
「そうだな……フレッドが絶対に俺から離れないって約束してくれるなら」
「それはっ……、手……繋いでるから大丈夫だよ」
さりげなくずらしたはずの目線が、いつの間にか地面を見下ろしている。
恋人っぽいやり取りに慣れないのはそうだが、テオドアの優しく見つめてくる表情に、そわそわとひたすら落ち着かない。
「も、もう行こう! ここで話してばかりじゃ時間もったいないだろ」
フレデリクはそう言うと、テオドアの手を引っ張って先を歩いた。
隠しきれない耳元の赤が、短く揺れる髪の隙間から覗く。後を追うテオドアは、心底嬉しそうに唇を緩めると、フレデリクの隣に肩を寄せ並んだ。
***
それから宣言通り、串焼きを食べ、果汁たっぷりのジュースを飲み、路上パフォーマンスを名一杯楽しむと、空はだんだん茜色に染まり始めていた。
楽しい時間が過ぎ去るのは早い。最初はどうなることかと思ったが、はぐれないように繋いだ手はそのまま、フレデリクの左手を包んでいる。案外皆、他人のことは見ていないようで、人目も大して気にならなかった。
「日が暮れてきたな。そろそろ帰るか?」
空を見上げながら、テオドアが尋ねてくる。
フレデリクは彼に返事をしようとして――ふと、視界に映った露店の前で足を止めた。
「うわあ、きれい……」
日に反射して煌めく、色とりどりのガラス細工が机上に並べられていた。――神秘的で美しく、繊細な技術の結晶。その中でも一際目についた、小さなガラスの球体を手に取る。深い紫苑の中に、星屑のような粒が瞬くそれは、不思議とテオドアの瞳を思い出させた。
「気に入ったのか? それ」
「うん……。これ、すごくきれいだ」
「だったら、俺が買って――」
「テオの目みたい。キラキラして、星空みたいで、冷たく見えるのにどこか温かみがあって……」
「……へえ」
じっくりと見入るフレデリクの隣で、テオドアは静かに表情を消す。しかしガラス玉に夢中なフレデリクは、急に低まった相槌にも気づかない。
「……フレッド、」
テオドアが気を逸らそうと手を引く――その時だった。
「――おや、アンタなかなかいいセンスしてるじゃないか」
しわがれた声が耳に届いた。いつの間に現れたのか、目の前には人好きのする笑みを浮かべた老婆がいた。
初めフレデリクが足を止めた時にはいなかったはずだが、我が物顔で話しかけてきたところを見るに、恐らくはこの露店の店主だろう。
「すっ、すみません勝手に触ってしまって……!」
誰もいなかったとはいえ、フレデリクはベタベタと触りすぎてしまったことに謝り、ガラス玉を元の場所へと戻す。
「ん? ウチの商品が気に入ったならどれだけ触ってくれてもかまわないよ。ここはその時、客が一番求めるもんを提供するのがウリだからね。……それよりもアンタ、随分センスのいいもん持ってるじゃないか」
老婆の骨張った指が差した先。そこにあるのは、フレデリクがいつも肌身離さず首から下げている新緑色の石。
「あ……これ、ですか?」
「そうだよそうだよ。どれ、ちょいと見せておくれ」
「は、はい。どうぞ」
ズイッと顔を近づける老婆に、恐る恐る石を寄せた。けれどなんとなく手渡すのは気が引けたので、首から下げたまま手のひらに乗せて見せた。
「ああ……。やっぱり、これはアタシが作ったもんだねえ。いやあ懐かしい。そんじょそこらじゃ見られない男前の坊っちゃんに売ったから、流石にこの老いぼれでも覚えてるよ。プレゼント先はアンタだったんだねえ」
目元の皺を深くした老婆がニンマリと、からかいの色を混ぜて笑う。
「良い色に育ってるよ。アンタ、この石の名前はあの子に聞いただろう?」
「えっ? いや、知らないです……。というかこれ、お婆さんが作ったって、」
「なんだいそりゃあもったいない!!」
グワッと――老婆は突然、唾を飛び散らすほどの勢いで叫んだ。垂れ下がった瞼に隠れるつぶらな瞳が、信じられないといわんばかりに大きく見開いている。
「それは加護の石だよ! 身につけた人の身から災厄をはね除けてくれるっていう優れもんさ!」
「か、加護の石?」
肩を盛大にビクつかせたフレデリクは、手元の石をじっと見やる。
「ああそうさ。贈った人の想いが強ければ強いほど、それは鮮明に輝いて効果を発揮する。アタシは作り手だからね。アンタのその石が今十二分に光輝いてるのが分かるよ。よっぽどあの子はアンタが大切だったんだろうさ。……なのにその効能も知らせないで渡すなんて、無自覚なのか、ただの不器用なのか……」
残念そうに老婆が呟く。昔少し会話しただけのテオドアのことを、余程気に入っていたようだ。
しかしフレデリクは、ここで老婆と出会わなければ、この事実を一生知らないまま過ごしていたに違いない。
(そうだったんだ。テオはあの時、そんな意味を込めておれにこれを……)
じんわりと胸が温かくなる。愛おしく思う気持ちが波のように溢れて、彼は身を任せるようにテオドアへ体を寄せていた。
「……知らなかった、テオがそんな風に思ってくれてたなんて。おれはてっきり、おれと同じ瞳の色だからくれたんだと思ってたよ。……あの時のおれたち、珍しく喧嘩してたからさ。おれの機嫌とるために、テオがわざわざ用意してくれたのかなって」
「…………」
「でも良く考えたらテオはそんな回りくどいことしないよね。……へへっ、どうしよう。おれ、いま小踊りしちゃいたいくらい嬉しいや」
老婆の存在も忘れて、フレデリクはニコニコと緩みきった笑顔で話す。先程から一言も発さないテオドアには、微塵も疑問を持たないで。
「その口ぶり……もしかして隣にいる兄ちゃんがあの時のあの子なのかい?」
「えっ? あ……はい、そうです。おれにこれをくれたのは彼で……」
「……へえ、それにしちゃあ随分と変わっちまったみたいだねえ」
フレデリクの左手を包むテオドアの右手が、ピクリと揺れたのが分かった。老婆の探るような眼差しと、テオドアの冷えきった視線が交差する。
「あ……えっと、彼、実は数年前に怪我をしてしまって、左目に眼帯を付け始めたんです。後は成長したからっていうのもあると思いますけど、印象が変わって見えるのは、多分そのせいじゃないですかね?」
一瞬にして緊迫した空気が漂っていた。フレデリクは原因も分からず、何故か言い訳するみたいに説明を加えたが、依然として空気はそのまま。舌打ちをこぼしたテオドアに問答無用で手を引かれる。
「帰るぞ」
「えっ!? ちょっ、ちょっと待ってよ! まだお婆さんと話して……って、あれ?」
無理やり引っ張られながら振り返れば、ついさっきまでそこにいたはずの老婆は忽然と姿を消していた。その上ガラス細工の露店も無く、そこには普通の雑貨屋が広がっているだけ。
(う、嘘だろ……!?)
「ちょっ……テオ! 聞いてくれ! なんでか分からないけど、お婆さんの店が無くなって、別の店になってるんだ! なあ、おれ達、もしかして幻覚でも見て……」
「っ!」
その時、テオドアが突然顔を抑えて立ち止まった。
「テオ……? えっ、だ、大丈夫!?」
抑えているのは正確にいうと左目。眼帯に皺が入るほど強く握り、額には尋常ではない量の脂汗が浮かんでいる。ギリッと音が鳴りそうな程歯を食いしばって、眉根を寄せている姿はかなり辛そうだ。
「目が痛む? どこかで休もうか?」
フレデリクは少しでも落ち着かせようと背中を擦る。
しかし、テオドアはその動きを止めると、痛みを必死に堪えて薄く微笑んだ。
「だい……じょうぶ、だ。悪い、少し、ゴミが入ったみたいだから……洗って、くる。お前はここで、待ってろ……」
「えっ、いやっ、俺も行く……」
「来るな!」
伸ばした手は振りほどかれた。大声に驚いた通行人たちが訝しげな表情で窺ってくるが、テオドアは気にせず人の流れに逆らって離れていく。
(怒られた……)
テオドアに怒鳴られるのは、何もこれが初めてじゃない。だからこれくらい、なんでもない。なんでもないことのはずなのに、さっきのあれには、明確な拒絶が含まれていた。
フレデリクはその場から一歩も動けず、不安を飲み込むように胸元の石をきつく握りしめて、ただ立ちすくんでいるしかなかった。
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