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歯牙にもかけない
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「ごきげんよう。本日はご足労いただき感謝します」
傅かれて当然という堂々としたシスティーナの態度にゼット男爵は息を呑んだ。
溢れんばかりの気品と洗練された所作に彼女は自分よりも遥かに上の存在だと否が応でも理解させられる。
本当は呼びつけられたことへの不満を嫌味たらしく告げるつもりだった。
しかし、システィーナの姿を見ただけでその気が削がれてしまい何も言えない。
システィーナは優雅な所作で応接室のソファーへと座り、男爵達にも対面のソファーを勧める。ダスター男爵はそれに対して大袈裟なほどに頭を下げて感謝し、申し訳なさそうに腰を掛けた。その一連の動作を茫然と眺めながらゼット男爵は静かに座る。二人が着席したのを確認したシスティーナは早速本題を切り出した。
「本日お二人をお呼びしましたのはご息女の件でお話があるからです。まずはこちらをご覧くださる?」
男爵達の前にフレン伯爵家の使用人が数枚の資料を差し出した。
それを二人は恐る恐る手に取り、中身に目を通す。読み進めていくうちに二人の顔色は段々と青褪めていった。
「こ、こ……これは……」
その資料には二人の娘、アリーとメグがフレン伯爵の愛人を騙り商会から品物を購入し、その代金をフレン家に支払わせたことが明確に記されていた。いつ、誰が、どの商品を注文したかを当時対応した店員の供述、注文書の明細まで事細かく。ご丁寧に請求書と領収書まで添付されている。
「ご覧の通りお二人のご息女がフレン伯爵家の資金を横領した記録よ」
横領という言葉に二人は驚愕の余り固まってしまった。
家臣が主家の資金を横領するなど大罪である。一家全員死罪でもおかしくないほどの大罪を娘が犯していたことに驚きすぎて頭が理解を拒む。
「娘がそんな……何かの間違いでは……!?」
「残念ながら間違いではないのよね。ご覧の通り証拠も証人も揃っているわ。よくもまあ主家の資産で私的な物品を購入しようなどという大それたことを考えたものね。もしかしてこれは貴方がたの指示なのかしら?」
「滅相もございません! そのような悍ましい真似などするはずがありません!」
ダスター男爵が必死に訴えかける横でゼット男爵は資料を持ったままの姿勢で固まっていた。自分の娘がそんな恐ろしい犯罪に手を染めていたことが信じられず、思わず非難めいたことを言ってしまった。
「こ、こんなの……娘を陥れる為の捏造だ! あんた……い、いや、貴女は自分の夫と親しい我が娘が気に入らないだけだろう!? だからこんな犯罪をでっちあげて娘の名誉を貶めようと画策したんだ! なんて卑劣な真似を……!」
システィーナを侮辱する言葉に隣で聞いていたダスター男爵は青褪めた顔で「やめないか!」と叫ぶ。そんな制止も聞く耳持たず鼻息を荒くするゼット男爵に対してシスティーナは平然とした顔で言ってのけた。
「あら、不服なら裁判してもらっても構いませんことよ? でも……そうなると敗訴が決定した時点で貴方がたは一家全員死罪が確定しますけどよろしいかしら? わたくしは穏便に済ませようとしたのだけどねえ……」
ぞくりと肌が粟立ちそうになるほど蠱惑的な表情で嗤うシスティーナに二人は目を奪われる。侮辱されようとも歯牙にもかけない少女にゼット男爵は戦意を削がれた。それよりも彼女の唇から発せられた“穏便に”という言葉に目だけでなく耳まで奪われそうになる。
「ま、誠でございますか……?」
裁判などしても勝てる自信が無い。最早これが真実かどうかよりも如何に損害を小さくするかを優先させたダスター男爵は縋るような声で問いかけた。
傅かれて当然という堂々としたシスティーナの態度にゼット男爵は息を呑んだ。
溢れんばかりの気品と洗練された所作に彼女は自分よりも遥かに上の存在だと否が応でも理解させられる。
本当は呼びつけられたことへの不満を嫌味たらしく告げるつもりだった。
しかし、システィーナの姿を見ただけでその気が削がれてしまい何も言えない。
システィーナは優雅な所作で応接室のソファーへと座り、男爵達にも対面のソファーを勧める。ダスター男爵はそれに対して大袈裟なほどに頭を下げて感謝し、申し訳なさそうに腰を掛けた。その一連の動作を茫然と眺めながらゼット男爵は静かに座る。二人が着席したのを確認したシスティーナは早速本題を切り出した。
「本日お二人をお呼びしましたのはご息女の件でお話があるからです。まずはこちらをご覧くださる?」
男爵達の前にフレン伯爵家の使用人が数枚の資料を差し出した。
それを二人は恐る恐る手に取り、中身に目を通す。読み進めていくうちに二人の顔色は段々と青褪めていった。
「こ、こ……これは……」
その資料には二人の娘、アリーとメグがフレン伯爵の愛人を騙り商会から品物を購入し、その代金をフレン家に支払わせたことが明確に記されていた。いつ、誰が、どの商品を注文したかを当時対応した店員の供述、注文書の明細まで事細かく。ご丁寧に請求書と領収書まで添付されている。
「ご覧の通りお二人のご息女がフレン伯爵家の資金を横領した記録よ」
横領という言葉に二人は驚愕の余り固まってしまった。
家臣が主家の資金を横領するなど大罪である。一家全員死罪でもおかしくないほどの大罪を娘が犯していたことに驚きすぎて頭が理解を拒む。
「娘がそんな……何かの間違いでは……!?」
「残念ながら間違いではないのよね。ご覧の通り証拠も証人も揃っているわ。よくもまあ主家の資産で私的な物品を購入しようなどという大それたことを考えたものね。もしかしてこれは貴方がたの指示なのかしら?」
「滅相もございません! そのような悍ましい真似などするはずがありません!」
ダスター男爵が必死に訴えかける横でゼット男爵は資料を持ったままの姿勢で固まっていた。自分の娘がそんな恐ろしい犯罪に手を染めていたことが信じられず、思わず非難めいたことを言ってしまった。
「こ、こんなの……娘を陥れる為の捏造だ! あんた……い、いや、貴女は自分の夫と親しい我が娘が気に入らないだけだろう!? だからこんな犯罪をでっちあげて娘の名誉を貶めようと画策したんだ! なんて卑劣な真似を……!」
システィーナを侮辱する言葉に隣で聞いていたダスター男爵は青褪めた顔で「やめないか!」と叫ぶ。そんな制止も聞く耳持たず鼻息を荒くするゼット男爵に対してシスティーナは平然とした顔で言ってのけた。
「あら、不服なら裁判してもらっても構いませんことよ? でも……そうなると敗訴が決定した時点で貴方がたは一家全員死罪が確定しますけどよろしいかしら? わたくしは穏便に済ませようとしたのだけどねえ……」
ぞくりと肌が粟立ちそうになるほど蠱惑的な表情で嗤うシスティーナに二人は目を奪われる。侮辱されようとも歯牙にもかけない少女にゼット男爵は戦意を削がれた。それよりも彼女の唇から発せられた“穏便に”という言葉に目だけでなく耳まで奪われそうになる。
「ま、誠でございますか……?」
裁判などしても勝てる自信が無い。最早これが真実かどうかよりも如何に損害を小さくするかを優先させたダスター男爵は縋るような声で問いかけた。
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