100 / 136
場を支配するのは
しおりを挟む
(あらまあ……はしたない)
ミスティ子爵夫人と同じように肌を大胆に露出させたドレスを身に着け、クッションへと寝そべるパメラにシスティーナは形のいい眉をひそめた。未婚の令嬢が必要以上に肌を露出させるのは貴族の間で忌避される行為。おまけに自室でもないのにだらしなく寝そべるなど言語道断。
「さあ、伯爵夫人、こちらへどうぞ。今お飲み物をご用意いたします」
座るよう促された先にあるのは床に置いてあるクッションだ。
よく見ればこの部屋には椅子らしきものが置いていない。
「ミスティ子爵夫人、“こちら”と言いますけど、椅子はどちらにあるのかしら?」
「あら、ここでは椅子ではなく床に直接座るのですよ? ほら、彼等もそうしているではありませんか?」
何を馬鹿な事をと言わんばかりに意地悪い笑みを浮かべるミスティ子爵夫人。
見れば周りにいるパメラを含めた男女もシスティーナを見て挑発するようにクスクスと笑っていた。
「あらそう。生憎だけど、わたくしは体を冷やしたくないの。空気の冷える夜にいくらクッションが敷いてあるとはいえ床に座るなど嫌です」
安い挑発に乗るようなシスティーナではない。
ましてや同調圧力に負けるようなヤワな精神も持ち合わせていない。
あまりにもキッパリと断るシスティーナにミスティ子爵夫人は一瞬面食らったような顔で怯んだ。
「い、いやですわ……伯爵夫人。主催者の意向に沿うのが茶会のマナーではありませんか……。伯爵夫人ともあろう御方がマナー違反をなさるおつもりで?」
ミスティ子爵夫人……エルザの屁理屈にシスティーナは大袈裟に「まあ!」と驚いてみせた。
「いやですわ、ミスティ子爵夫人。この茶会はわたくしへの“お詫び”なのでしょう? それなのにわたくしの意に反することをなさるおつもりで?」
『それが詫びる奴の態度かよ』と言わんばかりの発言にエルザだけでなく、先程までくすくすと笑っていた者達まで呆気にとられている。
「そもそも、まだきちんと謝罪を受けておりませんわねぇ……」
地を這うような低い声音で話し、持っていた扇子を手でパンと鳴らせばその場にいる者達は面白いほどビクッと身を震わせた。システィーナが完全にこの場を支配した瞬間である。
「あ……え、その……先日の茶会では大変な無礼を働き申し訳ございませんでした」
「結構。謝罪をお受けします。それと、もう一人謝罪が必要な方がいるのではなくて?」
射貫くような視線を寝そべるパメラに向けると、彼女は慌てて立ち上がった。
「せ、先日は……お茶をかけようとしてしまい大変失礼いたしました」
パメラの謝罪にシスティーナは呆れたように小声で「稚拙ね……」と呟く。
「なッ…………!」
顔を真っ赤にしたパメラはわなわなと震えながら絶句した。
こんなあからさまに馬鹿にされたことへの恥辱と、挑発するつもりが簡単にやり返されたことへの困惑に言葉が出ない。
エルザは従姉の無様な様子に思わず舌打ちをしそうになる
まさかこんな展開になるとは予想だにしなかった。味方のいない個室でこちらが主導権を握るはずだったのに、こんなにもあっさり場の空気を支配されるなんて誰が予想できただろうか。
「……どうして、今までの妻達(・)は皆こちらの指示に大人しく従っていたのに……」
そうエルザが消え入りそうなほどの小声で呟いたのをシスティーナは聞き逃さない。
(ふーん、どうやら前の奥方達はここで彼女から弱みとやらを握られたようね……)
いいだろう、そちらがその気ならこちらも全力をもって相手してやろう。
そんな歴戦の猛将を思わせるような台詞を心の中で唱え、にんまりと満面の笑みをエルザに向ける。
そんなシスティーナを見たエルザが「ひっ!?」と悲鳴をあげて怯えたのは言うまでもない。
ミスティ子爵夫人と同じように肌を大胆に露出させたドレスを身に着け、クッションへと寝そべるパメラにシスティーナは形のいい眉をひそめた。未婚の令嬢が必要以上に肌を露出させるのは貴族の間で忌避される行為。おまけに自室でもないのにだらしなく寝そべるなど言語道断。
「さあ、伯爵夫人、こちらへどうぞ。今お飲み物をご用意いたします」
座るよう促された先にあるのは床に置いてあるクッションだ。
よく見ればこの部屋には椅子らしきものが置いていない。
「ミスティ子爵夫人、“こちら”と言いますけど、椅子はどちらにあるのかしら?」
「あら、ここでは椅子ではなく床に直接座るのですよ? ほら、彼等もそうしているではありませんか?」
何を馬鹿な事をと言わんばかりに意地悪い笑みを浮かべるミスティ子爵夫人。
見れば周りにいるパメラを含めた男女もシスティーナを見て挑発するようにクスクスと笑っていた。
「あらそう。生憎だけど、わたくしは体を冷やしたくないの。空気の冷える夜にいくらクッションが敷いてあるとはいえ床に座るなど嫌です」
安い挑発に乗るようなシスティーナではない。
ましてや同調圧力に負けるようなヤワな精神も持ち合わせていない。
あまりにもキッパリと断るシスティーナにミスティ子爵夫人は一瞬面食らったような顔で怯んだ。
「い、いやですわ……伯爵夫人。主催者の意向に沿うのが茶会のマナーではありませんか……。伯爵夫人ともあろう御方がマナー違反をなさるおつもりで?」
ミスティ子爵夫人……エルザの屁理屈にシスティーナは大袈裟に「まあ!」と驚いてみせた。
「いやですわ、ミスティ子爵夫人。この茶会はわたくしへの“お詫び”なのでしょう? それなのにわたくしの意に反することをなさるおつもりで?」
『それが詫びる奴の態度かよ』と言わんばかりの発言にエルザだけでなく、先程までくすくすと笑っていた者達まで呆気にとられている。
「そもそも、まだきちんと謝罪を受けておりませんわねぇ……」
地を這うような低い声音で話し、持っていた扇子を手でパンと鳴らせばその場にいる者達は面白いほどビクッと身を震わせた。システィーナが完全にこの場を支配した瞬間である。
「あ……え、その……先日の茶会では大変な無礼を働き申し訳ございませんでした」
「結構。謝罪をお受けします。それと、もう一人謝罪が必要な方がいるのではなくて?」
射貫くような視線を寝そべるパメラに向けると、彼女は慌てて立ち上がった。
「せ、先日は……お茶をかけようとしてしまい大変失礼いたしました」
パメラの謝罪にシスティーナは呆れたように小声で「稚拙ね……」と呟く。
「なッ…………!」
顔を真っ赤にしたパメラはわなわなと震えながら絶句した。
こんなあからさまに馬鹿にされたことへの恥辱と、挑発するつもりが簡単にやり返されたことへの困惑に言葉が出ない。
エルザは従姉の無様な様子に思わず舌打ちをしそうになる
まさかこんな展開になるとは予想だにしなかった。味方のいない個室でこちらが主導権を握るはずだったのに、こんなにもあっさり場の空気を支配されるなんて誰が予想できただろうか。
「……どうして、今までの妻達(・)は皆こちらの指示に大人しく従っていたのに……」
そうエルザが消え入りそうなほどの小声で呟いたのをシスティーナは聞き逃さない。
(ふーん、どうやら前の奥方達はここで彼女から弱みとやらを握られたようね……)
いいだろう、そちらがその気ならこちらも全力をもって相手してやろう。
そんな歴戦の猛将を思わせるような台詞を心の中で唱え、にんまりと満面の笑みをエルザに向ける。
そんなシスティーナを見たエルザが「ひっ!?」と悲鳴をあげて怯えたのは言うまでもない。
4,802
あなたにおすすめの小説
兄にいらないと言われたので勝手に幸せになります
毒島醜女
恋愛
モラハラ兄に追い出された先で待っていたのは、甘く幸せな生活でした。
侯爵令嬢ライラ・コーデルは、実家が平民出の聖女ミミを養子に迎えてから実の兄デイヴィッドから冷遇されていた。
家でも学園でも、デビュタントでも、兄はいつもミミを最優先する。
友人である王太子たちと一緒にミミを持ち上げてはライラを貶めている始末だ。
「ミミみたいな可愛い妹が欲しかった」
挙句の果てには兄が婚約を破棄した辺境伯家の元へ代わりに嫁がされることになった。
ベミリオン辺境伯の一家はそんなライラを温かく迎えてくれた。
「あなたの笑顔は、どんな宝石や星よりも綺麗に輝いています!」
兄の元婚約者の弟、ヒューゴは不器用ながらも優しい愛情をライラに与え、甘いお菓子で癒してくれた。
ライラは次第に笑顔を取り戻し、ベミリオン家で幸せになっていく。
王都で聖女が起こした騒動も知らずに……
三年の想いは小瓶の中に
月山 歩
恋愛
結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。
※こちらの作品は契約上、内容の変更は不可であることを、ご理解ください。
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
戻る場所がなくなったようなので別人として生きます
しゃーりん
恋愛
医療院で目が覚めて、新聞を見ると自分が死んだ記事が載っていた。
子爵令嬢だったリアンヌは公爵令息ジョーダンから猛アプローチを受け、結婚していた。
しかし、結婚生活は幸せではなかった。嫌がらせを受ける日々。子供に会えない日々。
そしてとうとう攫われ、襲われ、森に捨てられたらしい。
見つかったという遺体が自分に似ていて死んだと思われたのか、別人とわかっていて死んだことにされたのか。
でももう夫の元に戻る必要はない。そのことにホッとした。
リアンヌは別人として新しい人生を生きることにするというお話です。
私を追い出した結果、飼っていた聖獣は誰にも懐かないようです
天宮有
恋愛
子供の頃、男爵令嬢の私アミリア・ファグトは助けた小犬が聖獣と判明して、飼うことが決まる。
数年後――成長した聖獣は家を守ってくれて、私に一番懐いていた。
そんな私を妬んだ姉ラミダは「聖獣は私が拾って一番懐いている」と吹聴していたようで、姉は侯爵令息ケドスの婚約者になる。
どうやらラミダは聖獣が一番懐いていた私が邪魔なようで、追い出そうと目論んでいたようだ。
家族とゲドスはラミダの嘘を信じて、私を蔑み追い出そうとしていた。
義理姉がかわいそうと言われましても、私には関係の無い事です
渡辺 佐倉
恋愛
マーガレットは政略で伯爵家に嫁いだ。
愛の無い結婚であったがお互いに尊重し合って結婚生活をおくっていければいいと思っていたが、伯爵である夫はことあるごとに、離婚して実家である伯爵家に帰ってきているマーガレットにとっての義姉達を優先ばかりする。
そんな生活に耐えかねたマーガレットは…
結末は見方によって色々系だと思います。
なろうにも同じものを掲載しています。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~
空色蜻蛉
恋愛
「令嬢であるお前は、身の周りのことは従者なしに何もできまい」
氷薔薇姫の異名で知られるネーヴェは、王子に婚約破棄され、辺境の地モンタルチーノに追放された。
「私が何も出来ない箱入り娘だと、勘違いしているのね。私から見れば、聖女様の方がよっぽど箱入りだけど」
ネーヴェは自分で屋敷を掃除したり美味しい料理を作ったり、自由な生活を満喫する。
成り行きで、葡萄畑作りで泥だらけになっている男と仲良くなるが、実は彼の正体は伝説の・・であった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる