どうして許されると思ったの?

わらびもち

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茶会……?

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 馬車が曲がり角を抜けると、彼女の瞳に金色の光が滲んだ。高くそびえる門の向こうには金と翡翠のランプに照らされた豪奢な館が見える。

 御者が手綱を引くと、馬車は滑るように停止した。やがて扉が静かに開き、香辛料を思わせるような甘い香りが鼻をくすぐる。

「変わった香りだわ……」
 
 花の匂いとはまた違う香りを楽しんでいると、館の中から見知った顔が現れる。

「お待ちしておりました、フレン伯爵夫人。お越しいただき誠にありがとうございます。今宵は先日の無礼の詫びにと存じまして、ささやかながら茶会を設けさせていただきましたの」

(ふーん……“茶会”ねぇ……)

 出迎えたのは茶会の招待者であるミスティ子爵夫人だ。いつもの侍女ではなく、異国の衣装を身に纏った若い男性を数人連れている。

「ご招待ありがとうございます。素敵な場所ですね。一歩足を踏み入れた途端まるで別世界に迷い込んだよう……素敵な夜になりそうですね」

 表向きはにこやかに世辞を述べるシスティーナだが、内心では言いたいことだらけだ。

(茶会だと言うのなら、その衣装はナシでしょう……)

 まず、夫人の衣装だが、娼館に迷い込んだのかと思うほど大胆に肌を露出させたドレスを身に着けている。この国の茶会のドレスコードは主催者や季節によって異なるが、共通しているのは“肌を露出させない”ということ。見せていいのは顔から鎖骨にかけての部分と手くらいだ。夜会のように肩や背中、腕が見えるなどとんでもない。

 しかし、夫人は肩・背中・うなじ・胸元とかなり大胆に露出させており、足元の生地にはスリットまで入っているので艶めかしい白い足が動くたびに嫌でも目に入る。しかも体のラインに沿ったデザインのドレスなので彼女の色香に満ちた肢体が際立ち、なんとも艶やかだ。

 心なしか夫人の背後に控える男達の目がチラチラと彼女の露出した部分を追っている気がしてならない。その分かりやすい性的な視線は生理的な嫌悪感を催した。

 出だしから嫌な気がしてならないとゲンナリするも、そんな悪感情を笑みで装いシスティーナは夫人に案内されるまま後に続いた。

 門をくぐると中庭が広がる。噴水が静かに水を跳ね、水面がランプの光を浴びて煌めいていた。

(人の気配があまり無いわね……)

 ここがどんな場所なのかは分からないが、通常の茶会の場であれば客人を出迎える大勢の使用人の姿があるはずだ。それなのに今ここにいる自分達以外の人気が全く感じられない。それだけで夫人がよからぬことを考えていると分かってしまう。悪事は人がいない場所で行われるものだから。

「こちらです。さあ、どうぞ」

 促されるまま通された部屋はこれまた変わった造りをしていた。
丸い天井には夜空の星座が描かれ、低いランプが仄かに金箔を照らしている。壁には厚いカーテンが垂れ、外界を完全に遮断していた。中央には、モザイク細工の低卓と、色とりどりのクッションが散りばめられ、さながら夢の中の船室のようだった。

「素敵な部屋……。まるで海に漂う客船のようですね」

 部屋の中を漂う甘ったるい香りが鼻につくが、室内の造りは幻想的で美しい。

(素敵……。出来ることなら一晩ここに留まりたいくらいだわ。視界の端に映る存在さえいなければ……ね)

 いくつも設置されている大きなクッションにはあられもない恰好の男女が寝そべっていた。ニヤニヤと厭らしい笑みを浮かべてこちらを見るのが癇に障る。

 そして、その中には一度だけ顔を合わせた夫の幼馴染、パメラの姿があった──。
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