どうして許されると思ったの?

わらびもち

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場を支配するのは

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(あらまあ……はしたない)

 ミスティ子爵夫人と同じように肌を大胆に露出させたドレスを身に着け、クッションへと寝そべるパメラにシスティーナは形のいい眉をひそめた。未婚の令嬢が必要以上に肌を露出させるのは貴族の間で忌避される行為。おまけに自室でもないのにだらしなく寝そべるなど言語道断。

「さあ、伯爵夫人、こちらへどうぞ。今お飲み物をご用意いたします」

 座るよう促された先にあるのは床に置いてあるクッションだ。
よく見ればこの部屋には椅子らしきものが置いていない。
「ミスティ子爵夫人、“こちら”と言いますけど、椅子はどちらにあるのかしら?」

「あら、では椅子ではなく床に直接座るのですよ? ほら、彼等もそうしているではありませんか?」

 何を馬鹿な事をと言わんばかりに意地悪い笑みを浮かべるミスティ子爵夫人。
 見れば周りにいるパメラを含めた男女もシスティーナを見て挑発するようにクスクスと笑っていた。

「あらそう。生憎だけど、わたくしは体を冷やしたくないの。空気の冷える夜にいくらクッションが敷いてあるとはいえ床に座るなど嫌です」

 安い挑発に乗るようなシスティーナではない。
 ましてや同調圧力に負けるようなヤワな精神も持ち合わせていない。

 あまりにもキッパリと断るシスティーナにミスティ子爵夫人は一瞬面食らったような顔で怯んだ。

「い、いやですわ……伯爵夫人。主催者の意向に沿うのが茶会のマナーではありませんか……。伯爵夫人ともあろう御方がマナー違反をなさるおつもりで?」

 ミスティ子爵夫人……エルザの屁理屈にシスティーナは大袈裟に「まあ!」と驚いてみせた。

「いやですわ、ミスティ子爵夫人。この茶会はわたくしへの“お詫び”なのでしょう? それなのにわたくしの意に反することをなさるおつもりで?」

『それが詫びる奴の態度かよ』と言わんばかりの発言にエルザだけでなく、先程までくすくすと笑っていた者達まで呆気にとられている。

「そもそも、まだきちんと謝罪を受けておりませんわねぇ……」

 地を這うような低い声音で話し、持っていた扇子を手でパンと鳴らせばその場にいる者達は面白いほどビクッと身を震わせた。システィーナが完全にこの場を支配した瞬間である。

「あ……え、その……先日の茶会では大変な無礼を働き申し訳ございませんでした」

「結構。謝罪をお受けします。それと、もう一人謝罪が必要な方がいるのではなくて?」

 射貫くような視線を寝そべるパメラに向けると、彼女は慌てて立ち上がった。

「せ、先日は……お茶をかけようとしてしまい大変失礼いたしました」

 パメラの謝罪にシスティーナは呆れたように小声で「稚拙ね……」と呟く。

「なッ…………!」

 顔を真っ赤にしたパメラはわなわなと震えながら絶句した。
 こんなあからさまに馬鹿にされたことへの恥辱と、挑発するつもりが簡単にやり返されたことへの困惑に言葉が出ない。

 エルザは従姉の無様な様子に思わず舌打ちをしそうになる
 まさかこんな展開になるとは予想だにしなかった。味方のいない個室でこちらが主導権を握るはずだったのに、こんなにもあっさり場の空気を支配されるなんて誰が予想できただろうか。

「……どうして、今までの妻達(・)は皆こちらの指示に大人しく従っていたのに……」

 そうエルザが消え入りそうなほどの小声で呟いたのをシスティーナは聞き逃さない。

(ふーん、どうやら前の奥方達はここで彼女からとやらを握られたようね……)
 
 いいだろう、そちらがその気ならこちらも全力をもって相手してやろう。

 そんな歴戦の猛将を思わせるような台詞を心の中で唱え、にんまりと満面の笑みをエルザに向ける。

 そんなシスティーナを見たエルザが「ひっ!?」と悲鳴をあげて怯えたのは言うまでもない。 
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