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予想外の行動
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場違いなまでのシスティーナの威厳に場の空気が張り詰める。
彼女は口には出さないがいつまでも立たされていることにウンザリとした顔でため息をつく。
「すぐに椅子を──」
その様子に慌てたエルザが傍らにいる若い男性に指示を出す。
指示を受けた男性は小走りで部屋の外へと向かい、急いだ様子で漆塗りの背もたれ椅子を運んできた。
「どうぞ、マダム」
男性が椅子を差し出すと、システィーナは黙ってそれに腰を下ろす。
椅子に座るというだけの動作なのに驚くほど優雅で美しい。その場にいる者は皆呆けたように彼女に目を奪われていた。
「──お、お飲み物を用意いたしますわね……」
我に返ったエルザは別の男性に飲み物を持ってくるよう命じた。
飲み物を待つ間、一人だけ椅子に座るシスティーナと床に座るパメラ達を見ながらエルザはただ立ちすくんでいた。目に映る光景はまるでそれが女王と女王に傅く召し使いのように見えて居心地が悪い。それは床に座る彼女達もそうだったようで、皆気まずそうに目を泳がせていた。
ようやく飲み物が運ばれてきて、エルザは『助かった』と言わんばかりに安堵した。
「今宵は特別なお茶を用意いたしましたの。きっと気に入って頂けると思いますわ」
「まあ、それは楽しみですこと」
気まずさで疲れてしまったエルザと、余裕の表情を崩さないシスティーナ。
誰が見てもこの場を支配しているのは主催者であるエルザではなく客人のシスティーナである。
内心で「今に見てなさいよ」と毒づきながらエルザは銀色のティーポットを手に取った。
「……いい香り。清涼感のある爽やかな香りですね」
「ええ、これは異国のお茶ですの。清涼感のあるハーブと贅沢にお砂糖をたっぷり入れております」
繊細な細工が施されたカップにポットの中身を注ぐと、立ち上る湯気からほんのり甘く清涼な香りが運ばれてきた。
「さあ、どうぞお召し上がりください」
エルザから銀の盆に載せたティーカップを差し出されたが、ここにはそれを置くテーブルがない。そのような状況でお茶を飲むという行為に難色を示したシスティーナだが、すぐに諦めたようにカップに手を伸ばした。
「奥様…………」
侍女が不安そうにシスティーナに声をかけた。高貴な身分の主人にそんな真似をさせるなどとんでもない、と言わんばかりの目だ。
「大丈夫よ」
安心させるように目配せし、再び視線を手元の茶器に向けた。膝の上に湯気の立つ茶器を載せるというのは流石のシスティーナも初めての経験だ。椅子を所望していなければ膝どころか床に直置きしてお茶を飲むことになっていたと思うとゾッとする。
(テーブルの無い茶会など、今後は遠慮したいところね……)
これが単なる嫌がらせならシスティーナは主催者であるエルザを非難したのだが、異国の文化でこういう風に椅子に座らず床で飲食をすると聞いたことがある。エルザが異国の文化をそのまま茶会の趣向として持ってきたのであれば、非難したところでシスティーナが嘲笑されるだけだ。
『あらあら……伯爵夫人は異国の文化を知りませんの?』
などと、したり顔で言われるのは物凄く腹が立つ。
反射的にその顔を扇子で引っぱたいてやりたいくらに苛ついてしまいそうだ。
このまま黙って大人しくお茶をいだだくことがこの場での正解。システィーナがカップを口に運ぼうとしたその時、エルザが侍女の前に立った。
「どうぞ、貴女も」
「えっ……? わたしですか……?」
なんとエルザはシスティーナの侍女にまでお茶を差し出してきた。
通常、茶会でお茶を振る舞うのは招待客にのみ。使用人に、しかも主人の前で振る舞うというのは聞いたことがない。
(いったい何を考えているの……?)
予想外の行動に流石のシスティーナも困惑した目を向ける。
そこには困った様子の侍女と、ニヤニヤした顔を隠そうともしない子爵夫人の姿があった──。
彼女は口には出さないがいつまでも立たされていることにウンザリとした顔でため息をつく。
「すぐに椅子を──」
その様子に慌てたエルザが傍らにいる若い男性に指示を出す。
指示を受けた男性は小走りで部屋の外へと向かい、急いだ様子で漆塗りの背もたれ椅子を運んできた。
「どうぞ、マダム」
男性が椅子を差し出すと、システィーナは黙ってそれに腰を下ろす。
椅子に座るというだけの動作なのに驚くほど優雅で美しい。その場にいる者は皆呆けたように彼女に目を奪われていた。
「──お、お飲み物を用意いたしますわね……」
我に返ったエルザは別の男性に飲み物を持ってくるよう命じた。
飲み物を待つ間、一人だけ椅子に座るシスティーナと床に座るパメラ達を見ながらエルザはただ立ちすくんでいた。目に映る光景はまるでそれが女王と女王に傅く召し使いのように見えて居心地が悪い。それは床に座る彼女達もそうだったようで、皆気まずそうに目を泳がせていた。
ようやく飲み物が運ばれてきて、エルザは『助かった』と言わんばかりに安堵した。
「今宵は特別なお茶を用意いたしましたの。きっと気に入って頂けると思いますわ」
「まあ、それは楽しみですこと」
気まずさで疲れてしまったエルザと、余裕の表情を崩さないシスティーナ。
誰が見てもこの場を支配しているのは主催者であるエルザではなく客人のシスティーナである。
内心で「今に見てなさいよ」と毒づきながらエルザは銀色のティーポットを手に取った。
「……いい香り。清涼感のある爽やかな香りですね」
「ええ、これは異国のお茶ですの。清涼感のあるハーブと贅沢にお砂糖をたっぷり入れております」
繊細な細工が施されたカップにポットの中身を注ぐと、立ち上る湯気からほんのり甘く清涼な香りが運ばれてきた。
「さあ、どうぞお召し上がりください」
エルザから銀の盆に載せたティーカップを差し出されたが、ここにはそれを置くテーブルがない。そのような状況でお茶を飲むという行為に難色を示したシスティーナだが、すぐに諦めたようにカップに手を伸ばした。
「奥様…………」
侍女が不安そうにシスティーナに声をかけた。高貴な身分の主人にそんな真似をさせるなどとんでもない、と言わんばかりの目だ。
「大丈夫よ」
安心させるように目配せし、再び視線を手元の茶器に向けた。膝の上に湯気の立つ茶器を載せるというのは流石のシスティーナも初めての経験だ。椅子を所望していなければ膝どころか床に直置きしてお茶を飲むことになっていたと思うとゾッとする。
(テーブルの無い茶会など、今後は遠慮したいところね……)
これが単なる嫌がらせならシスティーナは主催者であるエルザを非難したのだが、異国の文化でこういう風に椅子に座らず床で飲食をすると聞いたことがある。エルザが異国の文化をそのまま茶会の趣向として持ってきたのであれば、非難したところでシスティーナが嘲笑されるだけだ。
『あらあら……伯爵夫人は異国の文化を知りませんの?』
などと、したり顔で言われるのは物凄く腹が立つ。
反射的にその顔を扇子で引っぱたいてやりたいくらに苛ついてしまいそうだ。
このまま黙って大人しくお茶をいだだくことがこの場での正解。システィーナがカップを口に運ぼうとしたその時、エルザが侍女の前に立った。
「どうぞ、貴女も」
「えっ……? わたしですか……?」
なんとエルザはシスティーナの侍女にまでお茶を差し出してきた。
通常、茶会でお茶を振る舞うのは招待客にのみ。使用人に、しかも主人の前で振る舞うというのは聞いたことがない。
(いったい何を考えているの……?)
予想外の行動に流石のシスティーナも困惑した目を向ける。
そこには困った様子の侍女と、ニヤニヤした顔を隠そうともしない子爵夫人の姿があった──。
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