いいえ、望んでいません

わらびもち

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彼女と元夫①

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 衛兵とハルバード公爵によって連行されたダニエルは、王宮にある牢へと投獄された。
 牢といっても貴族牢なので待遇自体はそう悪いものではない。
 伯爵家の使用人は全員強制労働行きになったのだから、それに比べれば大分いい扱いだ。

 だがダニエルがそれを理解するわけもなく、投獄されて数日はひたすらここから出せと喚いていた。

 そしてそのたびに衛兵がやってきて叱りつけるも、しばらくするとまた同じことを繰り返すので最終的には折檻を受けることとなった。

 いくら伯爵家当主とはいえども今は処罰の沙汰を待つ罪人の身。
 何より国王陛下が騒ぐダニエルに辟易し、手荒な行動をとっても構わないと衛兵に許可を出したのだ。

 これには蝶よ花よと育てられ、親にすら打たれたことのないダニエルはひどくショックを受けた。
 以来、騒ぐこともなく部屋で大人しく項垂れている。

 そんな彼に面会の知らせがあったのは、投獄されて一月ほど経ったある日のことだった。


「ご無沙汰しております、デューン卿。だいぶお疲れのようですね?」

「お前は…………」

 現れたのはダニエルの妻ジュリエッタ。
 伯爵邸にいた頃の貧相な服ではなく、豪奢なドレスと宝石をふんだんに使ったアクセサリーを身に纏っている。

 元々綺麗な顔立ちをしているジュリエッタが着飾った姿は誰もが見惚れるほど美しい。
 それはダニエルも例外ではなく、惚けたように彼女の姿をじっと見つめていた。

「貴方と会うことはもうありませんので、最後に話をさせていただこうと思います」

「……は? 最後だと?」

「ええ、私と貴方はもう離婚しておりますので。今後会うことは一切ございません」

「はあ!? どういうことだ!」

「どうもこうも……当たり前ではありませんか? 散々私のことを蔑ろにしておいてまあ、よくそんな事が言えますね?」

「それは仕方ないだろう!? 私には最愛のマリアナがいるんだ! 他の女を優遇すれば彼女が悲しむじゃないか!」

「その最愛を悲しませた挙句、逃げられておいてよくそんな台詞を吐けますね?」

「は? な、なんでお前がそんなことを知っているんだ?」

「そんなのマリアナから聞いたに決まっているではありませんか? 彼女は貴方が約束を破ったこと、ひどく怒っておりましたわよ?」

 約束、という言葉にダニエルの目が泳ぐ。
 その様子を見たジュリエッタが更に畳みかけた。

「……なぜ、マリアナのお母様への援助をしなかったのです? マリアナとの最初の約束だったのでしょう?」

「それは……マリアナの本当の母親はもう亡くなっているから……」

「ああ、。それは本当の理由ではないのでしょう?」

 先ほどのダニエルの態度を見てジュリエッタは確信した。
 この人は、何かを隠していると。
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