長女は家族を養いたい! ~凍死から始まるお仕事冒険記~

灰色サレナ

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氷炎の銃刀姫(キズナ)

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「あれ?」

 光が消えた後、キズナの視界は綺麗なものだった。
 クロウから施された暗視の魔法が効き目を取り戻し、涙でくしゃくしゃになった真司の顔が良く見える。

「………………」

 そのまま、真司が自分を見ている事に。
 なんか恥ずかしくなったキズナが口を開く。

「よう」

 ――ずびしっ!!

 間髪入れず、真司の杖がキズナの腹部に突き刺さる。

「ぐえっ!! お前! こっちは死にかけてんだぞ!? ん? あれ?」

 とっさに右手で真司の杖を……握った。

「焔さん、氷雨さん、無事成功です」

 すさまじく低い声で、真司は二人へ報告する。
 その返事は。

「「ありがとう、好きなだけ殴っていい」」

 無慈悲な両親の言葉と降り注ぐ真司の打撃だった。
 しっかりと頷いた真司が珍しく手加減なんかしないで全力でぼこぼこと叩きまくる。

「ちょ! いてぇ!! その杖かてぇんだよ!! やめろ! マジで謝るから!!」
「本当?」

 ぴたりと真司が手を止めた隙にキズナはその表情をうかがうが……リアルに目から光が無い少年。きょうだいだけあって弥生にそっくりなその眼差しが恐怖でしかない。

「こえぇよ……本当に反省してる! 反省するから!!」
「じゃあこれで許したげる。姉ちゃんに殺されないようにねキズナ姉……あっちはヤンデレ全開だからね」

 ぷい、と最後に……『杖』を捨てて不穏当な言葉を残す真司。

「うそだろ、つーか……なんだこれ??? 目まで治ってんぞ?」
「治したんじゃないの。戻したの……」
「戻した!? ……真司、お前その髪!!」

 毛の先から徐々に真司の髪が白く染まる。
 それと同時に力が抜けたのか、アルマジロの後部座席にもたれかかるように座り込んだ。
 その様子はまるで力が抜けた老人の様で……
 
「……これで僕の魔法士生活はお終い。キズナ姉、後はよろしくね」
「何言ってんだお前!! 説明しろ!!」
「僕のこれからの人生で生成できる魔力を対価に、キズナ姉の時間を1時間巻き戻したの……準備に時間かかったけど上手く行って良かったよ……」
「これからの魔力って……」
 
 それが意味することは簡単で、真司は魔法士としての能力を永遠に失う。
 そんな真司にキズナが泣き笑いのような表情で声をかけた。

「姉貴も……お前も、大馬鹿野郎だ」
「ほんとほんと……馬鹿だねぇキズナは」

 聞きなれた姉の声にもさすがに今回は返す言葉もなく。
 キズナは神妙に顔を伏せ、丁寧に銃の遊底を引き残弾をチェックする。

「ああ、返す言葉もねぇよ……」
「じゃあ今度おかず一品僕におくれよ。それでチャラにしてあげるからさ! 優しいね僕!!」

 キズナの肩に褐色の腕が回される。
 ふんわりといつものお気に入りの柑橘系の香水の匂いがキズナの鼻に届く。
 にゃっはっはー、と調子に乗る軽い笑い声に突っ込みたいが……まだだ。

「おかず一品くらいなら我慢する」
「ついでにこの間借りたバックさ、落っことして汚しちゃったのも許してくれると嬉しいねぇ!」

 それはライン越えである。
 弥生と一緒に買ったバックで頭を地面にこすりつけて爆乳眼鏡……桜花に頼み込んで綺麗に戻してもらったのだ。EIMSまで使って。

 ――タァン!!

 よって、キズナの銃が火を噴く。

「ひゃふなぃ(あぶない)」

 かりり、と歯の間でその弾丸を止める金髪碧眼、褐色の肌を持つグラマーな美人。
 しかし、その仕草と声だけは……

「うるせえよ。感動台無しにすんじゃねぇ……」
「EMPが後一秒早かったら終わってたね! あっはっはー!」
 
 ぺっと弾丸を吐き捨てエキドナが無駄にテンション高く宣言する。

「そのまま終わってろよ、弄り回す口実できて爆乳眼鏡と弥生が喜ぶぜ」
「ちっちっち、さすがにこの身体のセキュリティは突破させないぜ」
「あっそ……で? どうなってんだ一体」

 それまで感動の再会を見守っていた氷雨と焔が代わりに応える。

「プランを全部破棄。全員で……このパーティー会場の掃除だそうだ」
「民間人の守りは弥生のお嬢ちゃんとちっちゃい監理官? だけでやる言うてた……なかなか肝が据わっとるわ」

 …………言ってる意味が分からなかった。

「マジでこれ全部撃墜すんのか?」
「そうや」
「アークもか?」
「そうだ」

 …………ぎぎぎ、と首を回すと多分桜花がハッキングしたであろう中型多脚戦車が。
 おそらくほぼ全員だろう、飛竜に乗った騎士が、近衛騎士が……開け放たれた北門から完全装備でこちらへ攻め込んできていた。

「糞がぁぁ!! チョーシこいてんじゃねぇぞ人間風情がぁぁ!!」

 ようやく鎮火した炎を振り払い。
 再びアークもとい……ニルヴァーナが空へと昇り始める。
 そこへ……


 ――神楽二刀流、八重の桜……二重。


 キズナたちの聞きなれた濁声が、降ってきた。

 ―ぎぃん!

 20メートル級の戦闘航空機を、怒れる剣鬼が滅多切りにする。

「上から斬りこむのは、これで二度目か若造」
「爺さん!?」

 ぐらりとバランスを崩す機体の上で、洞爺は刀を交差させるように掲げた。

「神楽二刀流、殺女」

 洞爺が最も得意とする一閃、菖蒲。
 それを左右同時に振り抜く『殺女』。

「……本当に斬った」
「大したもんやねあの爺様」

 機関砲も巻き込んで深々と装甲を斬り割いた洞爺の腕前に、焔と氷雨も感嘆の声を上げる。

「爺さん……」

 その機体の上で一瞬だけ洞爺はキズナに視線を送る。
 その眼はひどく澄んでおり……安堵が満ちていた。

「……しまったのじゃ!! ついうっかり出てきてしもうて国の守りが手薄じゃ!! 誰か戻れんかのう!?」

 大音声で……棒読みである。これ以上ない位の棒読みである。

「ちょうどよい接近戦も、遠距離もこなせる金髪のクソガキはおらんかのう!?」

 あ、怒ってる。
 つい一時間前の事を思い出して、キズナの額からだらだらと冷や汗が流れ始めた。

「こ、ここで食い止めれば大丈夫だよな? な?」
 
 本来の身体に戻ったエキドナに必死で助けを求めるキズナだが、エキドナが指差す現実は甘くなかった。

 掛け声を上げて……近衛騎士団も空挺騎士団も突撃したのだ。
 当然すり抜けて前進するディーヴァも中型戦車も居るのに……無視である。

「おいおいおいおい……嘘だろ」
 
 作戦無しの総力戦が始まろうとしていた。

「どうする? キズナ」

 姉の問いかけに、キズナが出した答えは……

「んなもん決まってるだろうが!! パパ! ママ!」
「おう」
「なんや?」

 不敵に笑う両親へ。

「ここ頼むわ。悪友の無茶に付き合ってくる」

 無責任にぶん投げた。

「仕方ねぇな、行ってこい」
「あの勇ましい嬢ちゃんによろしく言うといて」

 そうして、キズナがウェイランドへ振り向くとけたたましい爆音を上げて一台の単車が突っ込んでくる。

「うおっ!?」
 
 その単車は無人で、真っ青に染め上げられた装甲を装備していた。

「お?」
「あら?」

 その単車はキズナを見つけるや否や後輪を滑らせてキズナの目の前に停車する……まるで乗れと言わんばかりにライトを点滅させて。

「な、何だこれ」

 アルマジロで牽引して、ついさっき最速で駆け付けるために捨ててきたコンテナの中身である。

「しらねえ」
「勝手についてきおったんよ」
「ふうん、すごいねこれ……AIアシスト付きの戦闘用バイクだ。どれどれ、お名前なんてーの?」

 エキドナがちょん、と触れてバイクの機能にアクセスすると……

「…………ふむ」

 なぜかバイクは一瞬大人しくなり……エキドナも神妙な顔をして接続を切る。

「どうした?」
「いやね、うん……このバイクなんだけどさ。キズナ専用」
「ほんま? 捨ててあったんよ?」
「……ファングだって、キズナ」

 エキドナからその名を聞いて、キズナがバイクに触れる。
 すると、優し気にヘッドライトが明滅して……風よけ兼モニターとなってる強化ガラスに……『GO』。

 そう表示されていた。

「キズナ姉、僕も」
「おっと、そうだったな……後ろに乗れ」

 まだダルさが抜けないのか力無く立ち上がる真司がキズナの後ろに乗る。
 
『後部人員を固定、アイドル完了』

 きゅっ、と真司の足元と腰のあたりに座席からベルトが回り、固定された。

「いい子だ。ファング……じゃあ」

 不思議と、キズナにそのシートはしっくりとくる。
 ハンドルの位置も、高さも……まるで自分専用に調整されているように。
 後は……。

「行ってきます」

 右手でグリップを思いっきりふかし、右足のギアを入れ、左手のレバークラッチを繋ぐ。

 ――ウヴォン!!

 ギャリギャリと元気に後輪で地面を削り、砂煙を上げながらまっすぐに……戻っていった。




「行ったか」

 邪魔されない様に、アークの搭乗するニルヴァーナを定期的に壊しながらその背を見送る洞爺。

「詫び替わりじゃ……ここは任せよ。キズナ」

 あの時止められなかった、行かせてしまった負い目を晴らすため。
 あえて一番厄介なアークの相手を選んだ。

「そこのお嬢さんは誰じゃ?」

 焔と氷雨は先ほど顔を合わせたが、褐色の肌を持つ金髪の女性だけは見覚えが無い。
 
「酷いよ洞爺……僕だよ僕」
「ぼくぼく詐欺か?」
「エキドナ!! 金髪グラマーな真・エキドナさん!!」
「ほっほ……お主も無事で何よりじゃ」

 髭を撫でつけ、洞爺が嗤う。
 とは言えさっきからその眼だけが一切笑ってない。
 理由は明白。

「いい加減……おりろぉぉぉ!!」

 ぐりん、と機体を回すニルヴァーナに振られる形で……洞爺はひらりとアルマジロの上に着地する。

「大したもんだ……」
「まだまだ、若い者にひけは取らぬと思っとる。お主の娘に気概では負けたがの」
「あの子が? 聞きたいわぁ……」
「後でゆるりと、茶でも飲みながら話そう……その前にあの手合いが邪魔でしょうがないのじゃ」

 くい、と。普段は絶対やらないが、今だけはキズナの真似をして……親指を立て、首を掻き切るように滑らせ。

 三度、洞爺はアークと対峙する。
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