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2巻後の番外編(読み切り)
5:お人好しで頑固者
しおりを挟むまずは雲嵐の自宅から調査しようと話し合い、目の前の家に向かう。
「銀嶺、雪瑛と共に、少し待っていて下さい」
天祐は地面にいる雪瑛をひょいと抱き上げて碧玉に渡すと、灰炎を連れて先に雲嵐の家へ入る。少し時間が過ぎてから、二人は戻ってきた。
「少し陰気が残っていますが、特に問題ありませんね。銀嶺も中へどうぞ」
「相変わらず、過保護だな」
碧玉はつぶやいた。天祐は当然だという態度で返す。
「罠があってはいけませんから」
「私が避けられないとでも?」
「避けられると分かっていても、できるだけ危険は排除したいのです。ご理解ください」
「それでは、この狐はどうして置いていった?」
「雪瑛がうっかり罠を発動させる可能性が高かったので」
天祐の言う通り、雪瑛にはそういう間抜けな面もあった。碧玉は納得した。
「ならばしかたがない」
「どうして、今、わたくしは馬鹿にされたんですか?」
雪瑛は当たり前のように抗議したが、碧玉は無視した。
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「はーい」
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「ひぎゃっ! なんですか、この家は。虫くさいです!」
「虫ですか? 小さな虫くらいはいるでしょうが……」
雲嵐が戸惑いを見せて、家の中を見回す。
「虫の妖怪ですよ! こんなにぷんぷんにおうなら、下級ではありません。ほら、わたくしの毛が逆立っているでしょう?」
「つまり、どういうことだ」
「それはもちろん、主様。わたくしより強いってことです! だからわたくしが縄張りに入ると怖気がするんです」
雪瑛が堂々と主張して、白い毛が総毛だっている様を見せつける。碧玉は呆れた。
「お前、自分が弱いと宣伝するでない」
「わたくしが野狐でしたら、隠しますけど、今は主様がいますもの!」
雪瑛は碧玉が守ってくれると信じているらしい。
「おとりに使うとは思わぬのか?」
「ちゃんと回収してくれると信じてますわ。だってこんなにかわいいわたくしが死んだら、灰炎様が悲しみますものね!」
「……」
碧玉は黙ったまま、雪瑛の後ろ首をむんずとつかんで持ち上げる。
「調子に乗るな。今すぐ毛皮にしてやってもいいのだぞ」
「ひっ。ごめんなさいー! えっ、主様? わたくし、中は嫌です。怖いです。毛が逆立って……嫌ですってば―!」
碧玉は雪瑛を持ったまま、ずかずかと家の中に入る。
「雪瑛、口がすぎるぞ。私でもかばいきれぬからな」
「そんなあ、灰炎さまぁーっ」
後ろから灰炎が苦笑とともに釘を刺し、雪瑛は泣きの入った声で叫ぶ。
「宗主様、放っていてよろしいのですか……?」
雲嵐の問いに、天祐は頷く。
「ああ、問題ない。銀嶺は懐に入れた者には情をかけるからな。恐らく図星を突かれて腹が立ったから、ああやって嫌がらせをしているのだろう」
「はあ、なるほど……」
碧玉は天祐を振り返って文句を言おうかと思ったが、それではまるで肯定しているようなので、沈黙を貫いた。
雲嵐の家は質素だ。
村人ならばこんなものだと思うだろうが、村長の孫息子の家だと思うと寂れている。
「孫でも、もう少しましな家を与えればいいだろうに」
碧玉は床に落ちている光に気づいて、上を見る。なんと、屋根に穴が開いていた。雲嵐は苦笑する。
「いえ、家と土地を分けてくれただけいいほうですよ。能力無しは村から出されることもあります」
「他の村と婚姻か?」
「それならまだいいほうで、奉公に出ることもあります」
雲嵐がそう言うのも分かる。婚姻は村や家とのつながりがあるので、そうひどいことにはならない。奉公は主人によるので、当たり外れが大きい。
「屋根は気にしないでください。後で修理をしますので」
雲嵐は背負い籠を床に置いた。碧玉は家の裏手にある竹林を思い出して、雲嵐に質問する。
「雲嵐、お前は山のほうから下りてきたな。嫁とは、山で頻繁に会っていたのか?」
「私は普段は農作業の合間に竹を採ったり、キノコや薬草を採集しているんですが、桂英と山で会ったのは、嫁入りしたいと言われた時だけですね」
村長から竹林の管理を任されているのだと、雲嵐は言った。彼の言う通り、籠の中には薬草が入っている。
今度は天祐が問う。
「その桂英とやらは、薬草を嫌がらないのか?」
「薬草ですか?」
雲嵐は不思議そうに首を傾げて考え、そういえばと話す。
「妻はにおいが嫌いだと言っていましたね。薬草は外で干してほしいと頼まれました。どうしてですか?」
「虫の妖怪……というより、悪しき者は薬草を嫌うからな。嫁を追い払いたいなら、薬草を家の四方に置くといいだろう」
雲嵐はなんとも言えない表情を浮かべる。
「申し訳ありませんが、私はいまだに彼女が妖怪だと信じられません。それに……もし私を愛して、人の姿で嫁入りしてくれたのでしたら、私は見ないふりをしたいのです」
雲嵐はお人好しでありながら、頑固者でもあるようだ。
天祐が雲嵐を説得しようとする。
「しかし、そのうなじのあざが……」
「何か理由があるかもしれません!」
雲嵐は頑迷だった。
碧玉は天祐を手招いて、ひそひそと問う。
「どう思う?」
「どうもこうも、相手は妖怪ですよ。雪瑛みたいな者もまれにいますが……」
「相手は虫ですよ? 夫への情があるわけないじゃないですか」
碧玉に抱えられたままの雪瑛が口を出した。
碧玉と天祐は雪瑛を見つめる。雪瑛は途端に慌て始める。
「なっ、なんですか?」
「お前の話す妖怪論が興味深いだけだ」
「雪瑛は、虫の妖怪をそんなふうに思ってるんだな」
碧玉と天祐がそれぞれ言うと、雪瑛は説明する。
「そりゃあ、動物の妖怪には、生まれた子を食べる者もいますよ? でも、たいていは……事情がない限り、夫は食べませんもの。虫の妖怪は、夫を食べて卵を産む者もいますから」
「まあ確かに、妖怪の生態は、動物や昆虫と同じようなものだな」
碧玉は納得した。
「家を見たところ、特に術をかけられている様子はない。お前ならばどうする、天祐」
「目印を付けたということは、そろそろ喰う時期が近づいているはずです。今日はこの家に結界を張り、桂英を締め出して様子を見てみましょう。怒って正体をあらわすかもしれません」
「山の調査はどうする?」
「夕方まで、近場を見てましょう。今日は深入りはしません」
「そうだな。下手な真似をして逃げられるほうが厄介か」
今後の方針が決まった。
「あの……」
雲嵐がおずおずとした態度でこちらをうかがっている。
「今日、ここに泊まり、妻を締め出して様子を見る。妖怪ならば入ってこれぬが、人間ならば入ってこられる。妖怪だったとして、問題があるかどうかも今日ではっきりするはずだ」
碧玉はそう言ったが、松伯の言っていた「邪悪な何か」という点があるので、それはないだろうと思った。
ただ、雲嵐を言いくるめるのに必要だっただけだ。
「は、はい! 分かりました! では、泊まれるように準備しますので、しばらくお出かけになっていてください。村人にも手伝ってもらいますから」
「雑魚寝で構わぬぞ」
「「駄目です!」」
碧玉は野宿のつもりで言ったが、雲嵐と灰炎の声が重なった。
「ここで休まれるのでしたら、私も掃除します!」
灰炎はそう主張した。どうやら陣頭指揮をとるつもりのようだ。
「では、銀嶺。ここは灰炎殿に任せて、俺達は山を調査しましょう」
天祐も特に否定せず、碧玉を促して家の外に出る。
「二人と一匹でよいのか? お前にしては珍しい」
「深入りはしませんし、怪しい女が、日がある間は山に戻るのなら、そこまで強くないはずです。異常があれば撤退しますよ」
天祐は雪瑛に話しかける。
「何か気づいたら教えるように」
「はいっ、お任せください!」
雪瑛がやる気を見せているので、碧玉は雪瑛を地面に置いた。
二人の前を歩き始める。
「お待ち下さい、雲嵐の仕事場ですよね。俺が案内しますので! 慣れない者が入ると迷いやすいんです」
飛燕が追いかけてきて、道案内に立った。
碧玉達はさっそく竹林に踏みこんだ。
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