白家の冷酷若様に転生してしまった

夜乃すてら

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2巻後の番外編(読み切り)

5:お人好しで頑固者

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 まずは雲嵐の自宅から調査しようと話し合い、目の前の家に向かう。

「銀嶺、雪瑛と共に、少し待っていて下さい」

 天祐は地面にいる雪瑛をひょいと抱き上げて碧玉に渡すと、灰炎を連れて先に雲嵐の家へ入る。少し時間が過ぎてから、二人は戻ってきた。

「少し陰気が残っていますが、特に問題ありませんね。銀嶺も中へどうぞ」
「相変わらず、過保護だな」

 碧玉はつぶやいた。天祐は当然だという態度で返す。

「罠があってはいけませんから」
「私が避けられないとでも?」
「避けられると分かっていても、できるだけ危険は排除したいのです。ご理解ください」
「それでは、この狐はどうして置いていった?」
「雪瑛がうっかり罠を発動させる可能性が高かったので」

 天祐の言う通り、雪瑛にはそういう間抜けな面もあった。碧玉は納得した。

「ならばしかたがない」
「どうして、今、わたくしは馬鹿にされたんですか?」

 雪瑛は当たり前のように抗議したが、碧玉は無視した。
 しかし、突然、狐がしゃべったせいで、雲嵐と飛燕を驚かせた。しかたがなく、村長に続いて彼らにも説明して理解を得た。妖怪を従えている碧玉へ、尊敬の眼差しが向けられる。
 碧玉としては鬱陶しいが、高評価を受ける分にはまんざらでもない。

「ひどいです。何もしてないのにー」

 ぷんすかと怒る雪瑛を、碧玉は地面へ下ろす。

「雪瑛、すねていないで、中に入ってみよ。変なことがあれば教えなさい」
「はーい」

 雲嵐の家に入った雪瑛は途端に毛を逆立て、すぐに戻ってきた。

「ひぎゃっ! なんですか、この家は。虫くさいです!」
「虫ですか? 小さな虫くらいはいるでしょうが……」

 雲嵐が戸惑いを見せて、家の中を見回す。

「虫の妖怪ですよ! こんなにぷんぷんにおうなら、下級ではありません。ほら、わたくしの毛が逆立っているでしょう?」
「つまり、どういうことだ」
「それはもちろん、主様。わたくしより強いってことです! だからわたくしが縄張りに入ると怖気がするんです」

 雪瑛が堂々と主張して、白い毛が総毛だっている様を見せつける。碧玉は呆れた。

「お前、自分が弱いと宣伝するでない」
「わたくしが野狐でしたら、隠しますけど、今は主様がいますもの!」

 雪瑛は碧玉が守ってくれると信じているらしい。

「おとりに使うとは思わぬのか?」
「ちゃんと回収してくれると信じてますわ。だってこんなにかわいいわたくしが死んだら、灰炎様が悲しみますものね!」
「……」

 碧玉は黙ったまま、雪瑛の後ろ首をむんずとつかんで持ち上げる。

「調子に乗るな。今すぐ毛皮にしてやってもいいのだぞ」
「ひっ。ごめんなさいー! えっ、主様? わたくし、中は嫌です。怖いです。毛が逆立って……嫌ですってば―!」

 碧玉は雪瑛を持ったまま、ずかずかと家の中に入る。

「雪瑛、口がすぎるぞ。私でもかばいきれぬからな」
「そんなあ、灰炎さまぁーっ」

 後ろから灰炎が苦笑とともに釘を刺し、雪瑛は泣きの入った声で叫ぶ。

「宗主様、放っていてよろしいのですか……?」

 雲嵐の問いに、天祐は頷く。

「ああ、問題ない。銀嶺は懐に入れた者には情をかけるからな。恐らく図星を突かれて腹が立ったから、ああやって嫌がらせをしているのだろう」
「はあ、なるほど……」

 碧玉は天祐を振り返って文句を言おうかと思ったが、それではまるで肯定しているようなので、沈黙を貫いた。



 雲嵐の家は質素だ。
 村人ならばこんなものだと思うだろうが、村長の孫息子の家だと思うと寂れている。

「孫でも、もう少しましな家を与えればいいだろうに」

 碧玉は床に落ちている光に気づいて、上を見る。なんと、屋根に穴が開いていた。雲嵐は苦笑する。

「いえ、家と土地を分けてくれただけいいほうですよ。能力無しは村から出されることもあります」
「他の村と婚姻か?」
「それならまだいいほうで、奉公に出ることもあります」

 雲嵐がそう言うのも分かる。婚姻は村や家とのつながりがあるので、そうひどいことにはならない。奉公は主人によるので、当たり外れが大きい。

「屋根は気にしないでください。後で修理をしますので」

 雲嵐は背負い籠を床に置いた。碧玉は家の裏手にある竹林を思い出して、雲嵐に質問する。

「雲嵐、お前は山のほうから下りてきたな。嫁とは、山で頻繁に会っていたのか?」

「私は普段は農作業の合間に竹を採ったり、キノコや薬草を採集しているんですが、桂英と山で会ったのは、嫁入りしたいと言われた時だけですね」

 村長から竹林の管理を任されているのだと、雲嵐は言った。彼の言う通り、籠の中には薬草が入っている。
 今度は天祐が問う。

「その桂英とやらは、薬草を嫌がらないのか?」
「薬草ですか?」

 雲嵐は不思議そうに首を傾げて考え、そういえばと話す。

「妻はにおいが嫌いだと言っていましたね。薬草は外で干してほしいと頼まれました。どうしてですか?」
「虫の妖怪……というより、悪しき者は薬草を嫌うからな。嫁を追い払いたいなら、薬草を家の四方に置くといいだろう」

 雲嵐はなんとも言えない表情を浮かべる。

「申し訳ありませんが、私はいまだに彼女が妖怪だと信じられません。それに……もし私を愛して、人の姿で嫁入りしてくれたのでしたら、私は見ないふりをしたいのです」

 雲嵐はお人好しでありながら、頑固者でもあるようだ。
 天祐が雲嵐を説得しようとする。

「しかし、そのうなじのあざが……」
「何か理由があるかもしれません!」

 雲嵐は頑迷だった。
 碧玉は天祐を手招いて、ひそひそと問う。

「どう思う?」
「どうもこうも、相手は妖怪ですよ。雪瑛みたいな者もまれにいますが……」
「相手は虫ですよ? 夫への情があるわけないじゃないですか」

 碧玉に抱えられたままの雪瑛が口を出した。
 碧玉と天祐は雪瑛を見つめる。雪瑛は途端に慌て始める。

「なっ、なんですか?」
「お前の話す妖怪論が興味深いだけだ」
「雪瑛は、虫の妖怪をそんなふうに思ってるんだな」

 碧玉と天祐がそれぞれ言うと、雪瑛は説明する。

「そりゃあ、動物の妖怪には、生まれた子を食べる者もいますよ? でも、たいていは……事情がない限り、夫は食べませんもの。虫の妖怪は、夫を食べて卵を産む者もいますから」

「まあ確かに、妖怪の生態は、動物や昆虫と同じようなものだな」

 碧玉は納得した。

「家を見たところ、特に術をかけられている様子はない。お前ならばどうする、天祐」
「目印を付けたということは、そろそろ喰う時期が近づいているはずです。今日はこの家に結界を張り、桂英を締め出して様子を見てみましょう。怒って正体をあらわすかもしれません」

「山の調査はどうする?」
「夕方まで、近場を見てましょう。今日は深入りはしません」
「そうだな。下手な真似をして逃げられるほうが厄介か」

 今後の方針が決まった。

「あの……」

 雲嵐がおずおずとした態度でこちらをうかがっている。

「今日、ここに泊まり、妻を締め出して様子を見る。妖怪ならば入ってこれぬが、人間ならば入ってこられる。妖怪だったとして、問題があるかどうかも今日ではっきりするはずだ」

 碧玉はそう言ったが、松伯の言っていた「邪悪な何か」という点があるので、それはないだろうと思った。
 ただ、雲嵐を言いくるめるのに必要だっただけだ。

「は、はい! 分かりました! では、泊まれるように準備しますので、しばらくお出かけになっていてください。村人にも手伝ってもらいますから」

「雑魚寝で構わぬぞ」
「「駄目です!」」

 碧玉は野宿のつもりで言ったが、雲嵐と灰炎の声が重なった。

「ここで休まれるのでしたら、私も掃除します!」

 灰炎はそう主張した。どうやら陣頭指揮をとるつもりのようだ。

「では、銀嶺。ここは灰炎殿に任せて、俺達は山を調査しましょう」

 天祐も特に否定せず、碧玉を促して家の外に出る。

「二人と一匹でよいのか? お前にしては珍しい」
「深入りはしませんし、怪しい女が、日がある間は山に戻るのなら、そこまで強くないはずです。異常があれば撤退しますよ」

 天祐は雪瑛に話しかける。

「何か気づいたら教えるように」
「はいっ、お任せください!」

 雪瑛がやる気を見せているので、碧玉は雪瑛を地面に置いた。
 二人の前を歩き始める。

「お待ち下さい、雲嵐の仕事場ですよね。俺が案内しますので! 慣れない者が入ると迷いやすいんです」

 飛燕が追いかけてきて、道案内に立った。
 碧玉達はさっそく竹林に踏みこんだ。
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