63 / 95
2巻後の番外編(読み切り)
6:境界の内と外
飛燕の案内で、竹林を見て回ったが、特に何も無かった。
雪瑛に言わせれば、虫の妖怪のにおいはするものの、野生動物のにおいと混じって上手く追跡できないらしい。
奥まで深入りするのは危険と判断して、碧玉達は雲嵐の家まで戻ってきた。
「お帰りなさいませ。しっかり準備を整えておきましたので!」
灰炎が出迎え、丁寧にあいさつをした。
「手間をかけさせたようだな。ありがとう」
天祐は集まった村人達に礼を言い、灰炎に命じてささやかな駄賃を一人ずつに配っておく。こんな山奥の村では、金を得るのは大変だ。皆、感謝をして帰っていった。
「彼らは雲嵐殿のことがあるのに、どうして手伝ってくれたんだ?」
天祐が飛燕に問いかけると、飛燕はそんな天祐のことが不思議だと言わんばかりに答える。
「この村に、領主様が直々にいらっしゃるなんて、何十年ぶりか分かりませんよ。歓迎するのが当然です」
「俺は初めてだが……」
天祐は碧玉のほうを確認した。
「ああ、ここは平穏でな。特に問題も起きぬゆえ、先々代ですら、訪問していないはずだ」
「あの災厄の時でもですか?」
「そうだ。恐らく、救援要請がなかったのは、松伯様が守られていたからだろう。祓魔は苦手でも、結界で守るくらいはできるのではないか?」
碧玉自身も来たことはないと遠回しに答える。
「それでは、今回の件はどういうことでしょうか」
「ふむ……。悪しき者を近づけぬようにすることはできても、いったん入りこまれたら追い出す術がないのではないか? 夫婦になるというのは、村とのつながりを作るということだ。よそ者と家族では、出入りのしやすさに違いが出るものだ」
それに……と碧玉は雲嵐の家の周囲を見回す。
「ここは恐らく、村の境界の外だ。地形を見るに、あの小川が境界になっているはずだ。松伯様の守護範囲外やもしれぬ」
たいていは地形を利用して結界を作るものだ。
雲嵐の家の前には、小川が流れており、そこに木板を渡しただけの橋がある。松伯のいる広場を中心に家が集まり、周囲には田畑が作られていた。一番外側には石を積んだだけの塀が築かれ、木製の簡易な門もある。
「この家は、元々は物置だったのを、家に改築したのです。私がいると縁起が悪いから、ここに住むようにと祖父に言われまして……」
雲嵐は苦笑した。
「村に住まわせてはいるが追い出したようなもの、か。あの老人はなかなかの食わせ物のようだな。なぜ、そうもお前を軽んじる? 直系の男孫ならば、かわいいものではないのか」
七璃国では男の家系を継ぐものなので、男が生まれただけで喜ばれる場合が多い。
「祖父は私に期待もしていたのでしょうが、それと同じくらい、松伯から私を離したかったのでしょうね」
雲嵐は少し困った様子で、そう言った。痛みをこらえるように目を伏せる姿に、碧玉は違和感を抱く。
「お前は、松伯様のことを兄のようなものだと言っていなかったか?」
「神と親しくするのを喜ぶばかりではない、ということですよ」
雲嵐はあいまいなことを言って、すっと家のほうを示す。
「どうぞお入りください。村人が食料を置いていってくれましたので、私は夕餉の支度をいたしましょう」
「雲嵐殿、私も手伝います」
家の外にある竈に向かう雲嵐を、灰炎が追いかける。
碧玉は顎に手を当ててつぶやく。
「まったく、これは馬家の問題がからんでいるのか? 面倒だな」
飛燕のほうを見ると、彼は後ろ頭をかいた。
「そんな風に俺を見られても、分かりませんよ。ただ、雲嵐が霊力を失った途端、村長が冷たくなったのは事実です。村の年配者も、村長をなだめようとしたんですよ? それでもこの通りです」
「ふん。まあいい。まずは雲嵐の妻をどうにかせねばな。飛燕、お前は帰るがいい。間違っても、夜中にここに来ようとするでないぞ。朝日が出るまで、戸締りをして、決して外に出るな」
碧玉が重々しく忠告すると、飛燕は青ざめる。
「そんなに危ないのですか?」
「もし悪しき者だったら、正体を見た者を生かすと思うか?」
「ひっ。わ、分かりました。村人達にも注意をしておきます! では、俺はこれで失礼します」
飛燕はあいさつをすると、慌てた様子で、飛ぶように帰っていった。
天祐は呆れをこめて、碧玉に問いかける。
「兄上、脅しすぎではありませんか?」
「十数年も姿を見せなかった領主が、妖怪退治をするという。見物したいのが人情ではないか?」
「そんなものですかね?」
「この私が、わざわざ忠告してやったのだ。これで見物に来たら、ただの愚か者といえよう。それで巻き添えをくらって死んだとしても、自業自得ゆえ、我らの責任にはならぬ」
「そこまでして見たいものですか?」
天祐は首を傾げている。
「お前、田舎の娯楽の無さを知らぬようだな。喧嘩と処刑すら娯楽にするものだぞ。人間に危害が加えられぬ妖怪退治ならば、余計に興味が惹かれるだろうよ」
碧玉は口端を吊り上げる。
「無事に解決した暁には、民らにお前の式神でも見せてやるがよい。大喜び間違いなしだ」
「はあ……。それで俺を支持してくれるなら、安いものですかね」
妖邪の類が身近にありすぎて、天祐にとっては些事にすぎないらしく、ぴんときていないようだ。
幼い頃に市井の者と友好を築くように仕向けたわりに、変なところで世間知らずな天祐を眺め、碧玉はやれやれと肩をすくめた。
あなたにおすすめの小説
「お前を愛する事はない」を信じたので
あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」
お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
処刑される悪役令息に転生したらなぜか推しの騎士団長がグイグイ近づいてくる
猫に小判
BL
交通事故で死んだはずの会社員・田中悠人は、気がつくとBL小説『恋と陰謀~はじまりは夜に~』の世界に転生していた。
しかも転生先は、原作で処刑される悪役令息エリオット。
当然そんな未来は回避したい。
原作知識を頼りに慎重に立ち回るつもりだったのに、気づけば王宮を揺るがす事件に巻き込まれていき――。
さらに困ったことに、原作で一番の推しだった騎士団長ガイウスがやたらと距離を詰めてきて……?
平穏に生きたい元悪役令息と、過保護な騎士団長がじれじれ距離を縮める話。
ガイウス(騎士団長)×エリオット(元悪役令息)
【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
* ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。
BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃がはじまる──! といいな!(笑)
表紙は、Pexelsさまより、Tetyana Kovyrinaさまによる写真をお借りしました。ありがとうございます!
嫌われ魔術師の俺は元夫への恋心を消去する
SKYTRICK
BL
旧題:恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する
☆11/28完結しました。
☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます!
冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫
——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」
元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。
ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。
その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。
ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、
——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」
噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。
誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。
しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。
サラが未だにロイを愛しているという事実だ。
仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——……
☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!
【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】
最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。
戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。
目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。
ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!
彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!!
※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中
【本編完結】処刑台の元婚約者は無実でした~聖女に騙された元王太子が幸せになるまで~
TOY
BL
【本編完結・後日譚更新中】
公開処刑のその日、王太子メルドは元婚約者で“稀代の悪女”とされたレイチェルの最期を見届けようとしていた。
しかし「最後のお別れの挨拶」で現婚約者候補の“聖女”アリアの裏の顔を、偶然にも暴いてしまい……!?
王位継承権、婚約、信頼、すべてを失った王子のもとに残ったのは、幼馴染であり護衛騎士のケイ。
これは、聖女に騙され全てを失った王子と、その護衛騎士のちょっとズレた恋の物語。
※別で投稿している作品、
『物語によくいる「ざまぁされる王子」に転生したら』の全年齢版です。
設定と後半の展開が少し変わっています。
※後日譚を追加しました。
後日譚① レイチェル視点→メルド視点
後日譚② 王弟→王→ケイ視点
後日譚③ メルド視点