婚約破棄を求められました。私は嬉しいですが、貴方はそれでいいのですね?

ゆるり

文字の大きさ
4 / 17

今さらですの?

しおりを挟む
 舞踏会会場が静まり返る。王太子に謝罪を要求することなんて本来あり得ないが、それが聖女ならば当然の権利だ。

「……そこまでにしたまえ」

 重々しい声が沈黙を破った。事態を見つめていた国王アンドレだ。

「どういう意味ですの?」
「……王族は簡単に頭を下げられないということは、そなたも分かっていよう」
「だからなんですの?私に黙って引き下がれと仰っていて?」
「陛下になんたる口のききよう!お黙りなさい!」

 王が顔を顰め、王妃が嘆いてアリシエラを非難する。だが、アリシエラは当然の権利を主張しているだけだ。

「私が聖女と名乗った瞬間から、私のことは公爵令嬢ではなく聖女として扱うべきですわ。お黙りになるのは王妃、貴女です」
「なっ?!」

 絶句する王妃を視界から外す。
 そもそもこの国は宗教国家である。当然国のトップにいるのは教皇陛下だ。聖女は神の託宣によって選ばれ、教皇に並び立つ存在とされているので、身分としては王より上なのだ。
 この国において、王というのは議会のトップであり、王を含めた議会で決められたことは、教皇の受諾をもって為される。王と称しているものの、議長のような立場だ。それでも彼らは一族でその座を占めることに慣れ、他国同様の王族であるかのように振る舞っていた。教皇が何も言わないのをいいことに、横暴に振る舞いだしたのである。いつの間にか、自分たちの立場も忘れ去っていたようだ。

「……聖女アリシエラ。エドワードの行いについては私が謝罪する」

 ハッと息を飲む音がそこかしこから聞こえてきた。王が公式に謝罪を表明するのは初めてであり、貴族達も動揺したのだろう。だが、アリシエラはなんとも偉そうな謝罪だなとしか思えなかった。

「どのような賠償をするつもりですの?彼らは私が聖女と分かった上で、私を罵倒し続けたのですよ。貴方の謝罪だけでは到底足りませんわ」

 所詮聖女より格下の王の謝罪だ。目上に対しての謝罪としてはまるで足りていない。

「ぐっ……」

 王が謝罪をすればアリシエラが溜飲を下げると予想していたのか、王は言葉に詰まった。

「わ、私はっ、本当に、苛められていたんです!」
「ア、アンジェ、今は黙っていよう……?」

 突如場違いな声が割り込んできた。アンジェだ。エドワードは雰囲気に気圧されていて、弱々しくアンジェを止めようとしている。

「……貴女が本当に苛められていたかなんて、今さらどうでもいいのよ。私がしたのではないのだから。ご自分で犯人を見つけて解決なさったら?」
「そ、そんな……」
「貴女が階段から突き落とされたときに私を見たと偽証なさったことは、後できちんと事情を聞くわ。私に意図的に冤罪をかけようとしたなら、それなりの罰を受けてもらわなければならないもの」

 男爵令嬢という立場で、聖女であるアリシエラを陥れようと計画していたならば、その罪は重いものになるだろう。それに思い至ったアンジェの顔から血の気が引いた。



しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

婚約破棄が私を笑顔にした

夜月翠雨
恋愛
「カトリーヌ・シャロン! 本日をもって婚約を破棄する!」 学園の教室で婚約者であるフランシスの滑稽な姿にカトリーヌは笑いをこらえるので必死だった。 そこに聖女であるアメリアがやってくる。 フランシスの瞳は彼女に釘付けだった。 彼女と出会ったことでカトリーヌの運命は大きく変わってしまう。 短編を小分けにして投稿しています。よろしくお願いします。

婚約者に「愛することはない」と言われたその日にたまたま出会った隣国の皇帝から溺愛されることになります。~捨てる王あれば拾う王ありですわ。

松ノ木るな
恋愛
 純真無垢な侯爵令嬢レヴィーナは、国の次期王であるフィリベールと固い絆で結ばれる未来を夢みていた。しかし王太子はそのような意思を持つ彼女を生意気だと疎み、気まぐれに婚約破棄を言い渡す。  伴侶と寄り添う幸せな未来を諦めた彼女は悲観し、井戸に身を投げたのだった。  あの世だと思って辿りついた先は、小さな貴族の家の、こじんまりとした食堂。そこには呑めもしないのに酒を舐め、身分社会に恨み節を唱える美しい青年がいた。  どこの家の出の、どの立場とも知らぬふたりが、一目で恋に落ちたなら。  たまたま出会って離れていてもその存在を支えとする、そんなふたりが再会して結ばれる初恋ストーリーです。

ドレスが似合わないと言われて婚約解消したら、いつの間にか殿下に囲われていた件

ぽぽよ
恋愛
似合わないドレスばかりを送りつけてくる婚約者に嫌気がさした令嬢シンシアは、婚約を解消し、ドレスを捨てて男装の道を選んだ。 スラックス姿で生きる彼女は、以前よりも自然体で、王宮でも次第に評価を上げていく。 しかしその裏で、爽やかな笑顔を張り付けた王太子が、密かにシンシアへの執着を深めていた。 一方のシンシアは極度の鈍感で、王太子の好意をすべて「親切」「仕事」と受け取ってしまう。 「一生お仕えします」という言葉の意味を、まったく違う方向で受け取った二人。 これは、男装令嬢と爽やか策士王太子による、勘違いから始まる婚約(包囲)物語。

私を裁いたその口で、今さら赦しを乞うのですか?

榛乃
恋愛
「貴様には、王都からの追放を命ずる」 “偽物の聖女”と断じられ、神の声を騙った“魔女”として断罪されたリディア。 地位も居場所も、婚約者さえも奪われ、更には信じていた神にすら見放された彼女に、人々は罵声と憎悪を浴びせる。 終わりのない逃避の果て、彼女は廃墟同然と化した礼拝堂へ辿り着く。 そこにいたのは、嘗て病から自分を救ってくれた、主神・ルシエルだった。 けれど再会した彼は、リディアを冷たく突き放す。 「“本物の聖女”なら、神に無条件で溺愛されるとでも思っていたのか」 全てを失った聖女と、過去に傷を抱えた神。 すれ違い、衝突しながらも、やがて少しずつ心を通わせていく―― これは、哀しみの果てに辿り着いたふたりが、やさしい愛に救われるまでの物語。

お前との婚約は、ここで破棄する!

ねむたん
恋愛
「公爵令嬢レティシア・フォン・エーデルシュタイン! お前との婚約は、ここで破棄する!」  華やかな舞踏会の中心で、第三王子アレクシス・ローゼンベルクがそう高らかに宣言した。  一瞬の静寂の後、会場がどよめく。  私は心の中でため息をついた。

堅実に働いてきた私を無能と切り捨てたのはあなた達ではありませんか。

木山楽斗
恋愛
聖女であるクレメリアは、謙虚な性格をしていた。 彼女は、自らの成果を誇示することもなく、淡々と仕事をこなしていたのだ。 そんな彼女を新たに国王となったアズガルトは軽んじていた。 彼女の能力は大したことはなく、何も成し遂げられない。そう判断して、彼はクレメリアをクビにした。 しかし、彼はすぐに実感することになる。クレメリアがどれ程重要だったのかを。彼女がいたからこそ、王国は成り立っていたのだ。 だが、気付いた時には既に遅かった。クレメリアは既に隣国に移っており、アズガルトからの要請など届かなかったのだ。

本当の聖女が見つかったので私はお役御免だそうです

神々廻
恋愛
この国では聖女を探すべく年頃になると、国中の女聖女であるかのテストを受けることのなっていた。 「貴方は選ばれし、我が国の聖女でございます。これから国のため、国民のために我々をお導き下さい」 大神官が何を言っているのか分からなかった。しかし、理解出来たのは私を見る目がまるで神を見るかのような眼差しを向けていた。 その日、私の生活は一変した。

お飾りの婚約者で結構です! 殿下のことは興味ありませんので、お構いなく!

にのまえ
恋愛
 すでに寵愛する人がいる、殿下の婚約候補決めの舞踏会を開くと、王家の勅命がドーリング公爵家に届くも、姉のミミリアは嫌がった。  公爵家から一人娘という言葉に、舞踏会に参加することになった、ドーリング公爵家の次女・ミーシャ。  家族の中で“役立たず”と蔑まれ、姉の身代わりとして差し出された彼女の唯一の望みは――「舞踏会で、美味しい料理を食べること」。  だが、そんな慎ましい願いとは裏腹に、  舞踏会の夜、思いもよらぬ出来事が起こりミーシャは前世、読んでいた小説の世界だと気付く。

処理中です...