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冤罪には黙っていられませんの
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冷たい視線がエドワードに集まっていた。王太子に向けていいものではないが、アリシエラが名乗った聖女という立場にはそれだけの威力があったのだ。今や誰もがアリシエラの味方になっていた。
相手の立場でコロコロ態度を変える貴族のこともアリシエラは嫌いだったけれど。
「それで?私がそのルコット男爵令嬢に何をしたと言うの?」
「学園でアンジェを苛めただろう!」
「苛め?学園で?」
あまりにもお粗末な訴えに失笑する口元を扇子で隠した。
「そうだ!アンジェは泣いていたんだぞ!母親の形見を壊されて」
「そうですよ!それに、アンジェに水を浴びせたそうですね!ああ、可哀想に」
「アンジェを階段から突き落としただろ!ちゃんとアンジェはお前の顔を見ていたんだぞ!」
劣勢を覆す為か、側近達も一緒になってアリシエラを攻め立てる。身分差を気にしない口調に眉を顰めつつ、その訴えを静かに聞いた。彼らの言い分が終わったところで手を上げる。
「よろしいかしら」
「なんだ」
「私、学園に通っていないのだけど、どうやってルコット男爵令嬢を苛めたと言うの?」
「は?」
そうなのだ。アリシエラは学園に通っていない。聖女としての務めと王妃教育で忙しく、学園に通う暇がなかったのだ。入学の年に学園の卒業試験に合格していたので免除されていた。
「お前が、学園に通っていなかった……?」
「私を学園で見かけたことがありまして?陛下にも学園に通わない許可はもらっているわ」
貴族達の間から、確かにアリシエラは学園にいなかったという囁きがそこかしこでされる。
「婚約者だったのにそんなことも御存じでないのね。週1回のお茶会もいつも欠席されているし。私が貴方に会うのが久し振りだと分かってらっしゃるかしら」
「た、確かにお前を学園で見たことがない」
愕然として呟くエドワード。アリシエラは再びのお前呼びに眉を顰めた。
「学園に通っていない私は、許可なく学園に入ることはできません。王侯貴族が通う学園ですもの。警備は厳重ですわ」
「ぐっ……」
「私がルコット男爵令嬢を苛めたと、誰が仰ったの?」
「……」
返答はなかったが、彼らの視線の先を見れば答えは分かる。アンジェだ。
「貴女は、居もしない私を苛めの犯人だと偽証したのかしら」
「ち、ちが……」
思いもよらない展開だったのだろう。アンジェが動揺して、エドワードたちに助けを求める視線を向けた。
「……何か、勘違いがあったようだ」
「あら、悪女とまで罵倒されましたのよ?その程度で済ませるつもりなんですの?」
「それは……」
エドワードがアンジェを庇ってアリシエラに弁解するが、当然その程度で許すつもりはない。エドワードは王族としての矜持から、頭を下げることが出来ないようだ。
「……お、お前の取り巻きがやったんだろ!」
「あら、私に取り巻きなんていませんよ。学園に通っておりませんし、聖女の務めと王妃教育で忙しかったので、令嬢達との付き合いは後回しになっておりましたの」
「……」
側近のお粗末な言い分は、アリシエラによって一刀両断された。彼らは沈黙を選ぶしかない。
「私は謂われなき冤罪に謝罪をもとめますわ」
相手の立場でコロコロ態度を変える貴族のこともアリシエラは嫌いだったけれど。
「それで?私がそのルコット男爵令嬢に何をしたと言うの?」
「学園でアンジェを苛めただろう!」
「苛め?学園で?」
あまりにもお粗末な訴えに失笑する口元を扇子で隠した。
「そうだ!アンジェは泣いていたんだぞ!母親の形見を壊されて」
「そうですよ!それに、アンジェに水を浴びせたそうですね!ああ、可哀想に」
「アンジェを階段から突き落としただろ!ちゃんとアンジェはお前の顔を見ていたんだぞ!」
劣勢を覆す為か、側近達も一緒になってアリシエラを攻め立てる。身分差を気にしない口調に眉を顰めつつ、その訴えを静かに聞いた。彼らの言い分が終わったところで手を上げる。
「よろしいかしら」
「なんだ」
「私、学園に通っていないのだけど、どうやってルコット男爵令嬢を苛めたと言うの?」
「は?」
そうなのだ。アリシエラは学園に通っていない。聖女としての務めと王妃教育で忙しく、学園に通う暇がなかったのだ。入学の年に学園の卒業試験に合格していたので免除されていた。
「お前が、学園に通っていなかった……?」
「私を学園で見かけたことがありまして?陛下にも学園に通わない許可はもらっているわ」
貴族達の間から、確かにアリシエラは学園にいなかったという囁きがそこかしこでされる。
「婚約者だったのにそんなことも御存じでないのね。週1回のお茶会もいつも欠席されているし。私が貴方に会うのが久し振りだと分かってらっしゃるかしら」
「た、確かにお前を学園で見たことがない」
愕然として呟くエドワード。アリシエラは再びのお前呼びに眉を顰めた。
「学園に通っていない私は、許可なく学園に入ることはできません。王侯貴族が通う学園ですもの。警備は厳重ですわ」
「ぐっ……」
「私がルコット男爵令嬢を苛めたと、誰が仰ったの?」
「……」
返答はなかったが、彼らの視線の先を見れば答えは分かる。アンジェだ。
「貴女は、居もしない私を苛めの犯人だと偽証したのかしら」
「ち、ちが……」
思いもよらない展開だったのだろう。アンジェが動揺して、エドワードたちに助けを求める視線を向けた。
「……何か、勘違いがあったようだ」
「あら、悪女とまで罵倒されましたのよ?その程度で済ませるつもりなんですの?」
「それは……」
エドワードがアンジェを庇ってアリシエラに弁解するが、当然その程度で許すつもりはない。エドワードは王族としての矜持から、頭を下げることが出来ないようだ。
「……お、お前の取り巻きがやったんだろ!」
「あら、私に取り巻きなんていませんよ。学園に通っておりませんし、聖女の務めと王妃教育で忙しかったので、令嬢達との付き合いは後回しになっておりましたの」
「……」
側近のお粗末な言い分は、アリシエラによって一刀両断された。彼らは沈黙を選ぶしかない。
「私は謂われなき冤罪に謝罪をもとめますわ」
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