婚約破棄を求められました。私は嬉しいですが、貴方はそれでいいのですね?

ゆるり

文字の大きさ
3 / 17

冤罪には黙っていられませんの

しおりを挟む
 冷たい視線がエドワードに集まっていた。王太子に向けていいものではないが、アリシエラが名乗った聖女という立場にはそれだけの威力があったのだ。今や誰もがアリシエラの味方になっていた。
 相手の立場でコロコロ態度を変える貴族のこともアリシエラは嫌いだったけれど。

「それで?私がそのルコット男爵令嬢に何をしたと言うの?」
「学園でアンジェを苛めただろう!」
「苛め?学園で?」

 あまりにもお粗末な訴えに失笑する口元を扇子で隠した。

「そうだ!アンジェは泣いていたんだぞ!母親の形見を壊されて」
「そうですよ!それに、アンジェに水を浴びせたそうですね!ああ、可哀想に」
「アンジェを階段から突き落としただろ!ちゃんとアンジェはお前の顔を見ていたんだぞ!」

 劣勢を覆す為か、側近達も一緒になってアリシエラを攻め立てる。身分差を気にしない口調に眉を顰めつつ、その訴えを静かに聞いた。彼らの言い分が終わったところで手を上げる。

「よろしいかしら」
「なんだ」
「私、学園に通っていないのだけど、どうやってルコット男爵令嬢を苛めたと言うの?」
「は?」

 そうなのだ。アリシエラは学園に通っていない。聖女としての務めと王妃教育で忙しく、学園に通う暇がなかったのだ。入学の年に学園の卒業試験に合格していたので免除されていた。

「お前が、学園に通っていなかった……?」
「私を学園で見かけたことがありまして?陛下にも学園に通わない許可はもらっているわ」

 貴族達の間から、確かにアリシエラは学園にいなかったという囁きがそこかしこでされる。

「婚約者だったのにそんなことも御存じでないのね。週1回のお茶会もいつも欠席されているし。私が貴方に会うのが久し振りだと分かってらっしゃるかしら」
「た、確かにお前を学園で見たことがない」

 愕然として呟くエドワード。アリシエラは再びのお前呼びに眉を顰めた。

「学園に通っていない私は、許可なく学園に入ることはできません。王侯貴族が通う学園ですもの。警備は厳重ですわ」
「ぐっ……」
「私がルコット男爵令嬢を苛めたと、誰が仰ったの?」
「……」

 返答はなかったが、彼らの視線の先を見れば答えは分かる。アンジェだ。

「貴女は、居もしない私を苛めの犯人だと偽証したのかしら」
「ち、ちが……」

 思いもよらない展開だったのだろう。アンジェが動揺して、エドワードたちに助けを求める視線を向けた。

「……何か、勘違いがあったようだ」
「あら、悪女とまで罵倒されましたのよ?その程度で済ませるつもりなんですの?」
「それは……」

 エドワードがアンジェを庇ってアリシエラに弁解するが、当然その程度で許すつもりはない。エドワードは王族としての矜持から、頭を下げることが出来ないようだ。

「……お、お前の取り巻きがやったんだろ!」
「あら、私に取り巻きなんていませんよ。学園に通っておりませんし、聖女の務めと王妃教育で忙しかったので、令嬢達との付き合いは後回しになっておりましたの」
「……」

 側近のお粗末な言い分は、アリシエラによって一刀両断された。彼らは沈黙を選ぶしかない。

「私は謂われなき冤罪に謝罪をもとめますわ」


しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

婚約破棄が私を笑顔にした

夜月翠雨
恋愛
「カトリーヌ・シャロン! 本日をもって婚約を破棄する!」 学園の教室で婚約者であるフランシスの滑稽な姿にカトリーヌは笑いをこらえるので必死だった。 そこに聖女であるアメリアがやってくる。 フランシスの瞳は彼女に釘付けだった。 彼女と出会ったことでカトリーヌの運命は大きく変わってしまう。 短編を小分けにして投稿しています。よろしくお願いします。

婚約者に「愛することはない」と言われたその日にたまたま出会った隣国の皇帝から溺愛されることになります。~捨てる王あれば拾う王ありですわ。

松ノ木るな
恋愛
 純真無垢な侯爵令嬢レヴィーナは、国の次期王であるフィリベールと固い絆で結ばれる未来を夢みていた。しかし王太子はそのような意思を持つ彼女を生意気だと疎み、気まぐれに婚約破棄を言い渡す。  伴侶と寄り添う幸せな未来を諦めた彼女は悲観し、井戸に身を投げたのだった。  あの世だと思って辿りついた先は、小さな貴族の家の、こじんまりとした食堂。そこには呑めもしないのに酒を舐め、身分社会に恨み節を唱える美しい青年がいた。  どこの家の出の、どの立場とも知らぬふたりが、一目で恋に落ちたなら。  たまたま出会って離れていてもその存在を支えとする、そんなふたりが再会して結ばれる初恋ストーリーです。

聖女に厳しく接して心を折ることが国の発展に繋がるとは思えませんが?

木山楽斗
恋愛
侯爵令嬢であるエリ―ナは、新たに聖女となった平民の少女のことを心配していた。 王族や貴族の中には、平民が権力を持つことを快く思わない者がいる。それをエリーナはよく知っていたのだ。 特に王子と王女の苛烈さは、エリーナさえも毒牙にかかるくらいだった。 平民の聖女が、その二人に飲み込まれかねない。そう思ったエリーナは聖女補佐として聖女を守ることにした。 エリーナは同じく聖女の補佐となった侯爵令息セフィールとディオラスとともに、平民の聖女を守っていた。 しかしそれでも、王子と王女は牙を向いてきた。二人は平民の聖女の心を折るべく、行動していたのだ。 しかし王家の兄妹は、自らの行動が周囲からどう思われているか理解していなかった。 二人の積もりに積もった悪行は、社交界から王家が反感を買うことに繋がっていたのだ。

堅実に働いてきた私を無能と切り捨てたのはあなた達ではありませんか。

木山楽斗
恋愛
聖女であるクレメリアは、謙虚な性格をしていた。 彼女は、自らの成果を誇示することもなく、淡々と仕事をこなしていたのだ。 そんな彼女を新たに国王となったアズガルトは軽んじていた。 彼女の能力は大したことはなく、何も成し遂げられない。そう判断して、彼はクレメリアをクビにした。 しかし、彼はすぐに実感することになる。クレメリアがどれ程重要だったのかを。彼女がいたからこそ、王国は成り立っていたのだ。 だが、気付いた時には既に遅かった。クレメリアは既に隣国に移っており、アズガルトからの要請など届かなかったのだ。

断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる

葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。 アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。 アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。 市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。

本当の聖女が見つかったので私はお役御免だそうです

神々廻
恋愛
この国では聖女を探すべく年頃になると、国中の女聖女であるかのテストを受けることのなっていた。 「貴方は選ばれし、我が国の聖女でございます。これから国のため、国民のために我々をお導き下さい」 大神官が何を言っているのか分からなかった。しかし、理解出来たのは私を見る目がまるで神を見るかのような眼差しを向けていた。 その日、私の生活は一変した。

お前との婚約は、ここで破棄する!

ねむたん
恋愛
「公爵令嬢レティシア・フォン・エーデルシュタイン! お前との婚約は、ここで破棄する!」  華やかな舞踏会の中心で、第三王子アレクシス・ローゼンベルクがそう高らかに宣言した。  一瞬の静寂の後、会場がどよめく。  私は心の中でため息をついた。

婚約破棄の上に家を追放された直後に聖女としての力に目覚めました。

三葉 空
恋愛
 ユリナはバラノン伯爵家の長女であり、公爵子息のブリックス・オメルダと婚約していた。しかし、ブリックスは身勝手な理由で彼女に婚約破棄を言い渡す。さらに、元から妹ばかり可愛がっていた両親にも愛想を尽かされ、家から追放されてしまう。ユリナは全てを失いショックを受けるが、直後に聖女としての力に目覚める。そして、神殿の神職たちだけでなく、王家からも丁重に扱われる。さらに、お祈りをするだけでたんまりと給料をもらえるチート職業、それが聖女。さらに、イケメン王子のレオルドに見初められて求愛を受ける。どん底から一転、一気に幸せを掴み取った。その事実を知った元婚約者と元家族は……

処理中です...