婚約破棄を求められました。私は嬉しいですが、貴方はそれでいいのですね?

ゆるり

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今さらですの?

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 舞踏会会場が静まり返る。王太子に謝罪を要求することなんて本来あり得ないが、それが聖女ならば当然の権利だ。

「……そこまでにしたまえ」

 重々しい声が沈黙を破った。事態を見つめていた国王アンドレだ。

「どういう意味ですの?」
「……王族は簡単に頭を下げられないということは、そなたも分かっていよう」
「だからなんですの?私に黙って引き下がれと仰っていて?」
「陛下になんたる口のききよう!お黙りなさい!」

 王が顔を顰め、王妃が嘆いてアリシエラを非難する。だが、アリシエラは当然の権利を主張しているだけだ。

「私が聖女と名乗った瞬間から、私のことは公爵令嬢ではなく聖女として扱うべきですわ。お黙りになるのは王妃、貴女です」
「なっ?!」

 絶句する王妃を視界から外す。
 そもそもこの国は宗教国家である。当然国のトップにいるのは教皇陛下だ。聖女は神の託宣によって選ばれ、教皇に並び立つ存在とされているので、身分としては王より上なのだ。
 この国において、王というのは議会のトップであり、王を含めた議会で決められたことは、教皇の受諾をもって為される。王と称しているものの、議長のような立場だ。それでも彼らは一族でその座を占めることに慣れ、他国同様の王族であるかのように振る舞っていた。教皇が何も言わないのをいいことに、横暴に振る舞いだしたのである。いつの間にか、自分たちの立場も忘れ去っていたようだ。

「……聖女アリシエラ。エドワードの行いについては私が謝罪する」

 ハッと息を飲む音がそこかしこから聞こえてきた。王が公式に謝罪を表明するのは初めてであり、貴族達も動揺したのだろう。だが、アリシエラはなんとも偉そうな謝罪だなとしか思えなかった。

「どのような賠償をするつもりですの?彼らは私が聖女と分かった上で、私を罵倒し続けたのですよ。貴方の謝罪だけでは到底足りませんわ」

 所詮聖女より格下の王の謝罪だ。目上に対しての謝罪としてはまるで足りていない。

「ぐっ……」

 王が謝罪をすればアリシエラが溜飲を下げると予想していたのか、王は言葉に詰まった。

「わ、私はっ、本当に、苛められていたんです!」
「ア、アンジェ、今は黙っていよう……?」

 突如場違いな声が割り込んできた。アンジェだ。エドワードは雰囲気に気圧されていて、弱々しくアンジェを止めようとしている。

「……貴女が本当に苛められていたかなんて、今さらどうでもいいのよ。私がしたのではないのだから。ご自分で犯人を見つけて解決なさったら?」
「そ、そんな……」
「貴女が階段から突き落とされたときに私を見たと偽証なさったことは、後できちんと事情を聞くわ。私に意図的に冤罪をかけようとしたなら、それなりの罰を受けてもらわなければならないもの」

 男爵令嬢という立場で、聖女であるアリシエラを陥れようと計画していたならば、その罪は重いものになるだろう。それに思い至ったアンジェの顔から血の気が引いた。



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