【完結】わたしの婚約者には愛する人がいる

春野オカリナ

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アリスティア編

クラスメイト

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 私の頭の中に母の呪いの言葉が甦る。

ーーーああ、貴女はなんてオーウェンに似ているのーーー

 息が出来ない。苦しい、吐き気がする。

 声が出ず、手を口に当てて蹲る私を先生が

 「大丈夫だ。気にしないで吐きなさい。君の受けた心の傷が深い事を私は知っている。恥ずべきことではない。君には何の罪もないのだから」

 そう言って優しく私の背を撫でてくれた先生。心配そうに

 「大丈夫ですの?クロムウェル公爵令嬢」

 エミリーナ様が声を掛けてくれている。

 「僕、何か悪い事を言った?」

 状況が呑み込めないルミエル様が慌てて訊ねた。

 「黙っていなさい。ルミエル」

 彼を静止したのは先生だった。家門の呼び名ではなく、名前を呼び捨てたことに私は驚いたが、今はそれどころではない。兎に角、気分が悪い。今にも吐きそうになるのを堪えて涙目になっている。

 「人が吐くところを見るのは悪趣味だ。侍女以外の全員部屋から出ろ」

 いつもの先生らしくない口調に違和感を覚える。

 「お嬢様、顔色が悪いです。こちらの洗面器に吐いてください。もう誰もいませんから」

 侍女のアナの声で私は吐き出した。全て吐いても楽にはならない、体よりも心の方が辛かったのだ。

 少し体は楽になったが、それでも心は沈んでいる。まだ母の声が、その仕種が脳裏に浮かんでくる。アナが私に声を掛け伸ばした手が、私には母の手に見えて、思わず差し伸べた手を振り払った。

 「嫌!!止めて、お母様」

 大きな声を挙げてしまったことで、部屋に先生たちが入って来た。

 「大丈夫か?クロムウェル公爵令嬢」

 ガクガクと震えながら涙を流して、無様な姿をクラスメイトに晒している。

 情けない。母の呪縛から解放されたと思っていたのに……。

 体全体で拒絶している私を先生が

 「人に見られるのが辛いのなら、これを被っていなさい」

 そう言って白衣を頭から被せてくれた。床にしゃがみ込んでいた私にソファーに座るように促す。

 「今日は落ち着いたら私が送って行くから、全員帰りなさい」

 クラスメイトは渋々、馬車用の停留所の方へ侍女や護衛らと帰っていた。

 「ここなら、誰も来ないから大丈夫。我慢せずに好きなだけ泣きなさい」

 ソファーの隣に腰掛けた先生が、白衣の上から頭を撫でてくれる。段々、涙が溢れてきて嗚咽を洩らしながら泣いた。

 私が泣いている間も先生は黙って、背中を撫でてくれた。小さな子供にするように。

 どのくらい泣いたのか分からなかったが、日は沈みかけていた。

 「先生、ありがとうございます」

 先生に一礼して、部屋を出ようとしたら、

 「先ほども言ったように、今日は私が送って行くから待っていなさい」

 大人のテノールの声が耳に心地よく響いてくる。ずっと聞いていたいようなそんな落ち着いた声。

 上着を取って、私に被せた。

 「これなら、見られないだろう」

 そう言って部屋の鍵を閉めて、私を連れて停留所まで歩いて行った。

 先に歩く先生の背中を見つめながら、どこか安心している私がいたのだった。
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