【完結】わたしの婚約者には愛する人がいる

春野オカリナ

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アリスティア編

薬学の教授

 私はそのカフェでのやり取りから、何故か公爵家の庶子と噂されるようになっていた。それは私が地味な姿で一人で登校し、婚約者のケロイドがエリーゼと一緒に登校しているから、多くの者が勘違いをしていた。

 そんな中でも取り分け酷かったのは、下級貴族だった。

 エリーゼを神聖化し、傍には常に侯爵家以下の貴族を連れだって歩く姿が本来の公爵令嬢の様に見えたのだろう。

 放課後、いつものように温室の薬草に水をやりに行くと、数人の下級貴族の令嬢に絡まれた。

 「貴女の義姉・・の所為で、私達はいい迷惑を被っているのよ。何とかしなさいよ!」

 令嬢たちの中心のピンクブロンドの可愛い令嬢が、私を睨んで見当違いな事を言っている。

 どうやら、私の事を父の庶子だと勘違いしている。そんなことは貴族名鑑を見れば分かるのに。

 この国の貴族名鑑は、絵姿は乗っていないが名前は載っている。だから、私の名前が解れば私が公爵令嬢だと理解できるのだが、よく見ていないらしい。

 「あの、どなたかと勘違いされているのでは、私は庶子ではありません」

 「そんなことはどうでもいいのよ。早くあの女をどうにかして、このままでは多くの人が婚約を解消するから」

 「何故?」

 エリーゼは貴族のマナーを知らない。天真爛漫といえばいいのだろうか?よく笑うし、明るく朗らかな性格に貴族の男達が癒しを求めて彼女の元に集まっている。中には婚約者のいる男性もいたのだ。

 学年が違うし、クラスも違うから私は放っておいたのだが、これはかつての問題を起こした平民らと同じ状況のようだった。

 どうにかと言われても、私の話等通用しない。何せ、自分が恵まれているから、不幸な人間には施しをというのが彼女の精神。

 家族は一緒にいるべきだとか言い出して、私に食卓に着くように言ってくるような無神経な人間なのだ。

 そんな人間が私達貴族のルール等理解できないだろう。

 その日は、なんとか言い逃れて凌げたのだが、あくる日からあからさまに私を攻撃してきた。エリーゼの傍には常に男子生徒が護衛の様に侍っている為、攻撃できないからその矛先は私に向かってきた。

 バシャーーッ

 温室の近くの小道を通った時、私は上から水をかけられた。慌てて温室に逃げ込むと、何人かの令嬢が私を探し回っている。

 どうしてこんな目に合うのだろう。静かに暮らしたかっただけなのに。

 段々、我慢していたものが込み上げてくる。温室の中の扉が開いて

 「いないわね。きっとこの中に逃げ込んだのよ。引きづり出して義姉・・のやっている事の責任を取らさないと気が済まない」

 その声の持ち主はこの間の令嬢の様だった。温室に入ろうとした時、男性の声が聞こえてきた。

 「ここは高位貴族の温室だよ。君らは許可をもらっているのかい?」

 「えーと、そ…その…」

 「勝手に入ろうとしたら罰を受けないといけないよ。この中には希少価値の高い薬草もあるから」

 「すみません。失礼しました」

 令嬢らは、咎められて慌てて逃げたようだった。

 「大丈夫かい?彼女らはもういないよ。出てきたらいい」

 私はおずおずと姿を現した。

 「随分、酷い格好だね。私の私室においで、シャワーを使って汚れを落とさないと。それに着替えも必要だね。君の侍女を呼びにいかすよ」

 てきぱきと助手に指示を出しながら、私を自室のお風呂場に連れて行き、メイドに

 「リン、すまないが令嬢の入浴を手伝ってやってくれ。それと着替えも出しておいて」

 「分かりました。ご主人様」

 リンと呼ばれたメイドは私を浴室に連れて行ってくれた。

 私が入浴している内に、侍女と護衛が慌てて駆け付けたのだが、他にも声が聞こえている。

 着替えて、私が部屋に戻るとそこにはクラスメイトが全員居る。何故か皆、一斉に注目している。

 「あのう、先生。お風呂ありがとうございました。それに着替えも」

 「君、誰なの?」

 開口一番に訊ねたのは、王弟殿下の次男ルミエル・ロイガー公爵令息だった。彼は面白い位、真っ赤な顔をしていた。

 「何を馬鹿なことを言っているの。クロムウェル公爵令嬢に決まっているでしょう」

 次に喋っているのは、エミリーナ・ミルド公爵令嬢。その隣のアイリーン・カサット公爵令嬢が

 「貴女が『午前0時のシンデレラ』だったんだ。綺麗ね」

 「本当に美しい」

 最後にローラン・ハイネ大公令息が口にした言葉に全員が頷いている。

 「ありがとうございます。でも、皆さん何故こちらに?」

 「あのね、従兄弟から頼まれたんだよ。君に何かあったら助けるように」

 そういったのはルミエル様。彼とローラン様は王子殿下とは従兄弟同士。国王陛下には3人の弟がいて、一人が大公家を継いで、もう一人は公爵家に婿に入った。もう一人は確か第一王子と同じ年で、隣国に遊学していると聞いている。

 王子殿下がどうやら高位貴族の令嬢令息に声をかけてくれたらしい。

 水を被った私はお風呂に入って、元の髪に戻ってしまい。伊達眼鏡も外してしまっているから、素顔を見せている。

 屋敷の使用人ら以外で、じっと見られることに慣れていない私は、少し恥ずかしかった。

 「もったいないな。こんなに美しい容姿なのに、どちらに似ているの。公爵かな?」

 ルミエル様のその言葉が引き金になって、私は気分が悪くなっていった。段々青ざめていく私の姿に気付いてくれたのは、

 ライザス・ルクド

 薬学の教授だった。

 


 

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