【完結】わたしの婚約者には愛する人がいる

春野オカリナ

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アリスティア編

母の手紙

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 公爵家に帰った私は、セバスに頼んでメッシ―博士の部屋を用意するように指示した。

 その足でレイラン殿下と一緒に祖父の待つ執務室を訪ねた。

 「お祖父様、お話があります。お時間を頂けないでしょうか」

 「入るといい」

 「失礼します」

 私を一度見て、殿下の方に礼をした祖父は厳格な公爵の姿だった。

 「殿下も一緒だと言うことは、決めたのだな。アリスティア」

 「はい、私はレイラン殿下を婚約者に望みます。お許し頂けるのなら、公爵家を…お祖父様の跡を継ぎたいのです」

 「そうか、記憶は戻ったのか?」

 「大部分は戻りました」

 「なら、これをお前に渡そう」

 祖父から渡された手紙は母が書いた物だった。

 「後でゆっくり読みなさい。それとアデライトの葬儀の時に言った言葉は覚えているか?」

 「はい、思い出しました。それについては明日お話させて下さい」

 「そうだな、明日は学院は休校だろう。ゆっくり考えなさい」

 「ありがとうございます。では私はこれで失礼させて頂きます」

 「ああ、後は殿下と相談する」

 私が執務室を出ると、祖父は殿下と話をしていたが、扉の向こうから聞こえてくる声は明るいものだった。

 二人はきっと私を見て安堵したのだろう。憑き物が落ちたような私の姿に。





 部屋に帰って着替えをした私は晩餐に向かった。

 考えれば幼いころは母と帰らぬ父としか摂っておらず、物心ついた頃には広い食堂にいつも一人だった。

 今は祖父・殿下・メッシ―博士。四人で食卓を囲んでいる。なんだか不思議な気分だ。

 ふふ、でも数年もして殿下と結婚したら、もっと賑やかな生活を送れるかもしれない。私は顔が火照るのを感じながら、未来に希望を見出していた。

 こんなこと少し前までの私なら信じられない事だ。全てを思い出した私は自分を取り戻せた気になっていた。

 だが、気になるのは母の言葉。何故、叔父であるオーウェンを実の父の様に私の記憶に植え付けたのか?その謎は残っている。

 その謎は、次の日、母の手紙を読んで、母が隠している秘密を知った時に解ったのだ。

 そして、私は母が亡くなった時に握りしめていた写真を思い出す。

 そういえば、あの写真確かに双子なら似ているけど、明らかに違う点があった。

 私は、母の部屋に飾っている絵画の裏にあるカギを使って、母の執務室の金庫の扉を開いた。

 鍵を回す手が震え、鼓動が早くなる。

 きっとこの中に私の最後の疑問の答えが待っている。

 カチャリッ

 と鍵が開く音と同時に私の心拍数も上がっている。ドキドキと胸の音が部屋中に聞こえそうな程。

 その中に入っていたのは一通の契約書と夥しい数の手紙だった。

 契約書は母と実の父が交わしたもので、その内容は常人では考えられないようなものだった。

 一体、何故二人はこんなものを作ったのか分からない。

 内容は二人は契約結婚で、ある目的の為にアリスティアが必要だった。

 それは私の実の父とは婚姻届を出さず、子供をだけを作るということ。戸籍上の父はオーウェンとすること。

 アリスティアを公爵家の跡取りを作る目的での契約書。

 ケロイド様が言った言葉は真実。私は母の私生児だった。

 そして、手紙と一緒にあった本当の父の写真を見た時、私には母が父に固執した理由が分かった。

 母はオーウェンの写真を握って亡くなっていた。
 
 母が死ぬまで愛した男の名はオーウェン。

 オーウェンは子供が作れない体だった。幼い頃に掛かった病が原因で子孫を残せなくなっていた。それは父と同じ病を患った人が実際に子どもが出来なくなった事から判明した事実。

 だから、同じ双子の兄に頼んで子供を作った。

 契約書には、実の父として私に合わせる事。3年はオーウェンを夫に向かえない事。もし、オーウェンが別の女性を選んだ場合はそのままローフェルと結婚生活を続ける事が書かれていた。

 アデライトとローフェルのサインは本物。

 きっと父は知らない。だから魔女マリエルと暮らしていける。エリーゼを実の子と信じていられる。

 私はおかしかった。私を虐げ、侮辱した男は実は他人の子供を溺愛している。その母親は屋敷で不貞を働いている。オーウェンの知らないところで。

 母は知っていたのだ。知っていて全てを受け入れていた。彼女は待っていたのだ。オーウェンが最後に自分の所に帰って来ることを。しかし、それまでに母は生き切れなかった。

 自分の寿命が終わる前に父が改心して、「やり直そう」と言ってくることをひたすら待ち続けて儚くなったのだ。

 その母の意思を私が引き継げるように。

 祖父も知っている。試している。私が公爵家の跡取りとして相応しいかどうかを。

 母が託した思いを胸に私は祖父の待つ執務室を目指した。

 

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