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アリスティア編
父の思惑
私が祖父の執務室に行くとメッシ―博士がいた。
「アリスティア、お前の話を聞く前に博士の診断を受けなさい」
祖父からそう促されて、私はメッシ―博士のいくつかの質問に答えた。
「最後に君は『脳が幻覚を見せる』という言葉を知っているかい?」
「いいえ」
「実は、脳には見えないものを補ったり、錯覚させることがあると最近、学会で発表する学者がいてね。それが原因で心の病にかかる者もいるんだよ。例えば、誰かを殺してしまって、相手の亡霊が見えるとか過去に見た物を置き換えて、さも見えている様に補うとかね」
博士の言っている事は難しくてよく分からなかった。
最初に言っているのは罪悪感からくる症状で、長く見続くと心の病にかかてしまうという事。
もう一つは視覚の話で、目に障害を持った人が気付かずに過ごしている症状の様だった。
「博士は一体何が言いたいのですか」
「君が記憶を無くした原因は、一つ目は父親の屋敷での出来事ともう一つは君が母親と父親の関係を壊してしまったという罪悪感からきている可能性が高い。僕も貴族だから解るが、もし君が父親とその家族を直接、罪に問えば君の症状は悪化する可能性がある。罪悪感に耐えれないだろう」
「ではどうすればいいのですか?」
「真実だけを伝えればいいと私は思う」
「何故?」
「その先の選択権を自身で選択させればいい。それに君が何もしなくてもいつか破綻するだろう。君はそれを見届けるだけでいい」
「見届けるだけですか」
「そうだ、君がこの事に罪悪感を持たない様にすればいい。真実を告げても父親が愛人と娘を選んだなら、それは彼らの選んだ道だ。別れたとしてもそれも彼らが選んだ道。君にはその責任はない。全ては彼ら自身が招きいれた結果だ。どちらにしても破滅するだろう」
「破滅する?」
「例え今の家族と一緒にいても長年騙していた事には変わりない。そんな女を信じることは出来ない。きっと荒れた生活になる。愛人をとれば貴族社会から放逐されることになる。平民として生きるには、父親は何も持っていない。違うかい?」
「その通りです。確かに婿養子である父は何も持っていません」
「もしかして、お母さんは君に何かヒントを残していないかい」
「ヒントですか?私に託されたのは母からの手紙です。そこには金庫の鍵の在りかと金庫の中には手紙と契約書がありました」
「契約書だと。見せなさい」
それまで黙っていた祖父が急に身を乗り出し、口を開いた。
「これです」
祖父は、契約書を読み、次々と手紙を読んでいる。そして、読む度に祖父の手はワナワナと震え出し、その顔には怒りが見え隠れしていた。
「な…なんていう事をしたのだ。アデライトは」
祖父は契約書を見て、青くなった。
「お祖父様はご存じなかったのですか?」
「知らなかった。そもそも、お前の実父と義父は双子だ。アデライトはオーウェンと結婚したいと言ったのだが、伯爵家が難色を示した。理由を聞くと子供を作れない体だと言われた。その事をアデライトにも伝えて、兄のローフェルを勧めたのだが、他の男を婿に取ると言ったのだ。それが一月も経たないうちにローフェルと結婚すると言い出した。しかも身内だけの結婚をして、落ち着いたら盛大にやり直すと言ってたのだ。まさか、こんな契約をしていたとは…」
「何故、身内だけの結婚をお許しになったのですか?」
「当時、伯爵家の領地の作物が不作で、あちこちから食料の調達を急いでいた。直に季節が変わり冬が来るからな。領民の為に最善を尽くしていたんだよ。だから、その所為だと信じて疑わなかった」
「母の気が変わったのは何故でしょう」
祖父の隣にいた博士が契約書の中を覗いて
「君の実父はお母さんの事が好きだったんだね。だから、この契約書は実父の提案だよ」
「そんな事が何故わかるんですか?」
「これを見て御覧、オーウェンが他の女性を選んだらローフェルと結婚生活を続けることと書いてある。つまり、初めから別れるつもりはなかったんだよ。先ほどの公爵の話からすれば、伯爵を焚き付けて自分を押していたんじゃないかと思う。でも、君のお母さんはそれを拒んだ。きっと同じ顔の人間を見て、生活することに耐えられなくなると。比べてしまうのではないかと思ったんだろう。当てが外れたローフェルはお母さんを手に入れる為にこの契約書を作ったんだ。子供を作れない貴族の男の末路は憐れなものだ。矜持を傷つけられ、自殺する者も少なくない。ある意味子供を産めない女性より最悪だ」
「女性よりですか」
「ああ、貴族はある意味男性社会。表の仕事は男性で、女性の役割は家内の事。つまり表で生きられなくなる。そんな事が解れば誰も普通の扱いはしなくなる。馬鹿にされ、蔑まれながら惨めに死ぬ。でもだからと言って平民ならいいともいえない。どちらを選んでも辛い人生になるだろう。だからお母さんはこの手段を選んだ。愛する男の矜持を守る為にね」
博士の話を聞いて、私の心は揺らいでいた。母の本当の願いが何なのかが掴めなくなっていたのだ。
「アリスティア、お前の話を聞く前に博士の診断を受けなさい」
祖父からそう促されて、私はメッシ―博士のいくつかの質問に答えた。
「最後に君は『脳が幻覚を見せる』という言葉を知っているかい?」
「いいえ」
「実は、脳には見えないものを補ったり、錯覚させることがあると最近、学会で発表する学者がいてね。それが原因で心の病にかかる者もいるんだよ。例えば、誰かを殺してしまって、相手の亡霊が見えるとか過去に見た物を置き換えて、さも見えている様に補うとかね」
博士の言っている事は難しくてよく分からなかった。
最初に言っているのは罪悪感からくる症状で、長く見続くと心の病にかかてしまうという事。
もう一つは視覚の話で、目に障害を持った人が気付かずに過ごしている症状の様だった。
「博士は一体何が言いたいのですか」
「君が記憶を無くした原因は、一つ目は父親の屋敷での出来事ともう一つは君が母親と父親の関係を壊してしまったという罪悪感からきている可能性が高い。僕も貴族だから解るが、もし君が父親とその家族を直接、罪に問えば君の症状は悪化する可能性がある。罪悪感に耐えれないだろう」
「ではどうすればいいのですか?」
「真実だけを伝えればいいと私は思う」
「何故?」
「その先の選択権を自身で選択させればいい。それに君が何もしなくてもいつか破綻するだろう。君はそれを見届けるだけでいい」
「見届けるだけですか」
「そうだ、君がこの事に罪悪感を持たない様にすればいい。真実を告げても父親が愛人と娘を選んだなら、それは彼らの選んだ道だ。別れたとしてもそれも彼らが選んだ道。君にはその責任はない。全ては彼ら自身が招きいれた結果だ。どちらにしても破滅するだろう」
「破滅する?」
「例え今の家族と一緒にいても長年騙していた事には変わりない。そんな女を信じることは出来ない。きっと荒れた生活になる。愛人をとれば貴族社会から放逐されることになる。平民として生きるには、父親は何も持っていない。違うかい?」
「その通りです。確かに婿養子である父は何も持っていません」
「もしかして、お母さんは君に何かヒントを残していないかい」
「ヒントですか?私に託されたのは母からの手紙です。そこには金庫の鍵の在りかと金庫の中には手紙と契約書がありました」
「契約書だと。見せなさい」
それまで黙っていた祖父が急に身を乗り出し、口を開いた。
「これです」
祖父は、契約書を読み、次々と手紙を読んでいる。そして、読む度に祖父の手はワナワナと震え出し、その顔には怒りが見え隠れしていた。
「な…なんていう事をしたのだ。アデライトは」
祖父は契約書を見て、青くなった。
「お祖父様はご存じなかったのですか?」
「知らなかった。そもそも、お前の実父と義父は双子だ。アデライトはオーウェンと結婚したいと言ったのだが、伯爵家が難色を示した。理由を聞くと子供を作れない体だと言われた。その事をアデライトにも伝えて、兄のローフェルを勧めたのだが、他の男を婿に取ると言ったのだ。それが一月も経たないうちにローフェルと結婚すると言い出した。しかも身内だけの結婚をして、落ち着いたら盛大にやり直すと言ってたのだ。まさか、こんな契約をしていたとは…」
「何故、身内だけの結婚をお許しになったのですか?」
「当時、伯爵家の領地の作物が不作で、あちこちから食料の調達を急いでいた。直に季節が変わり冬が来るからな。領民の為に最善を尽くしていたんだよ。だから、その所為だと信じて疑わなかった」
「母の気が変わったのは何故でしょう」
祖父の隣にいた博士が契約書の中を覗いて
「君の実父はお母さんの事が好きだったんだね。だから、この契約書は実父の提案だよ」
「そんな事が何故わかるんですか?」
「これを見て御覧、オーウェンが他の女性を選んだらローフェルと結婚生活を続けることと書いてある。つまり、初めから別れるつもりはなかったんだよ。先ほどの公爵の話からすれば、伯爵を焚き付けて自分を押していたんじゃないかと思う。でも、君のお母さんはそれを拒んだ。きっと同じ顔の人間を見て、生活することに耐えられなくなると。比べてしまうのではないかと思ったんだろう。当てが外れたローフェルはお母さんを手に入れる為にこの契約書を作ったんだ。子供を作れない貴族の男の末路は憐れなものだ。矜持を傷つけられ、自殺する者も少なくない。ある意味子供を産めない女性より最悪だ」
「女性よりですか」
「ああ、貴族はある意味男性社会。表の仕事は男性で、女性の役割は家内の事。つまり表で生きられなくなる。そんな事が解れば誰も普通の扱いはしなくなる。馬鹿にされ、蔑まれながら惨めに死ぬ。でもだからと言って平民ならいいともいえない。どちらを選んでも辛い人生になるだろう。だからお母さんはこの手段を選んだ。愛する男の矜持を守る為にね」
博士の話を聞いて、私の心は揺らいでいた。母の本当の願いが何なのかが掴めなくなっていたのだ。
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