【完結】わたしの婚約者には愛する人がいる

春野オカリナ

文字の大きさ
35 / 52
アデライト編

夫の死と娘の病気

しおりを挟む
 ローフェルの葬儀から3か月経ったが、未だに私には信じられなかった。

 それは顔をはっきりと確認していない所為なのかもしれない。

 終わらぬ悪夢を見ているような感覚で時だけが過ぎていく。

 だが、アリスティアの病は深刻なものになっていた。ローフェルの事だけではなく。幼い頃の記憶がごっそりと抜け落ちていた。

 まだ3才の幼子。生活には支障をきたさないが、新しい使用人は泣いて怖がってしまう。

 このままではアリスティアは修道院送りとなってしまう。

 アリスティアは、私と古株の侍女数人で世話をした。夜は私の寝室で休ませ、昼は執務室がアリスティアの遊び場となっていた。

 私といる時間がほとんどで、ローフェルがいなくなった後の穴埋めに追われていた私は、まるでアリスティアを外に出さない様にしていると、事情を知らない使用人は考えていた。

 夫に良く似たアリスティアを身代わりにしているのだと。

 父はローフェルの行方を密かに国中、探して情報集めていた。私以上に諦めがつかない様子だった。

 遺体がローフェルのものかどうか怪しすぎるからだ。体格や上着だけがローフェルのもので、もしかしたら別人なのではないかと疑っている。

 私もそうであったならと心のどこかで期待しながら、毎回父が送ってくれている手紙に「見つかった」という字を探していた。

 だが、その知らせもないまま一年が過ぎようかという時に、伯爵家からある申し出があったのだ。

 それはオーウェンを私の再婚相手にしてはどうかと。

 父も私も一度は断った。ローフェルの死が受けいられない私は、オーウェンを受けいられるはすがない。

 しかし、義母ヴェロニカは色々と社交界に根回ししていて、オーウェンとの再婚は既に決まっているように噂が広がっていた。

 父は伯爵家に抗議したが、既に出回った噂はさも真実のように広がりを見せ、とうとう幼子には父親が必要だと父から言われたが、私はひたすら拒否し続けた。

 理由は、オーウェンがマリエルと復縁していたからだ。また、悲劇の主人公の様に私を貶める彼らの思惑通りに動くのは嫌だった。

 何よりアリスティアがいる。以前の時は独身だったが、その火の子がアリスティアにかかることは防ぎたかった。

 オーウェンはそんな私の気持ちなどお構いなしに、アリスティアに近づいている。

 まるで、自分が父親であるかの様に振る舞って……。

 毒の様に浸透するオーウェンの甘い言葉に、アリスティアは次第にオーウェンが実の父だと認識してしまう。

 この男からは逃れられないのだろうか。

 このままではアリスティアは私が死んだ後、恐ろしい目に遭うのではないかと不安に駆られていた。

 逃れられない再婚をしてしまった私は、あることに気付く。

 オーウェンの性質を。

 彼は私に対して、ある特殊な性質を持っていた。

 それは、私が好意を向けると、逆に冷めた態度を取り冷たくあしらう癖に、私が関心を寄せなくなると追いすがって来るのだ。

 執拗に、執念深く。私に見せるオーウェンの性質。

 逆に私はこれを利用してアリスティアを守ることにした。公爵家に近づけない様に画策したのだ。

 私は、オーウェンが望むアデライトを演じる事にしたのだ。

 昔の様にオーウェンに依存して、泣いてみっともなく縋る女を。

 全てはアリスティアを、ローフェルとの娘を守るために、自分の評判を自らの手で貶めていった。

 夫に相手にされない憐れな女。アデライト・クロムウェルを創り上げていくことにした。

 

 
しおりを挟む
感想 89

あなたにおすすめの小説

殿下、幼馴染の令嬢を大事にしたい貴方の恋愛ごっこにはもう愛想が尽きました。

和泉鷹央
恋愛
 雪国の祖国を冬の猛威から守るために、聖女カトリーナは病床にふせっていた。  女神様の結界を張り、国を温暖な気候にするためには何か犠牲がいる。  聖女の健康が、その犠牲となっていた。    そんな生活をして十年近く。  カトリーナの許嫁にして幼馴染の王太子ルディは婚約破棄をしたいと言い出した。  その理由はカトリーナを救うためだという。  だが本当はもう一人の幼馴染、フレンヌを王妃に迎えるために、彼らが仕組んだ計略だった――。  他の投稿サイトでも投稿しています。

嘘つきな貴方を捨てさせていただきます

梨丸
恋愛
断頭台に上がった公爵令嬢フレイアが最期に聞いた言葉は最愛の婚約者の残忍な言葉だった。 「さっさと死んでくれ」 フレイアを断頭台へと導いたのは最愛の婚約者だった。 愛していると言ってくれたのは嘘だったのね。 嘘つきな貴方なんて、要らない。 ※投稿してから、誤字脱字などの修正やわかりにくい部分の補足をすることがあります。(話の筋は変わらないのでご安心ください。) 11/27HOTランキング5位ありがとうございます。 ※短編と長編の狭間のような長さになりそうなので、短編にするかもしれません。 1/2累計ポイント100万突破、ありがとうございます。 完結小説ランキング恋愛部門8位ありがとうございます。

【完結】祈りの果て、君を想う

とっくり
恋愛
華やかな美貌を持つ妹・ミレイア。 静かに咲く野花のような癒しを湛える姉・リリエル。 騎士の青年・ラズは、二人の姉妹の間で揺れる心に気づかぬまま、運命の選択を迫られていく。 そして、修道院に身を置いたリリエルの前に現れたのは、 ひょうひょうとした元軍人の旅人──実は王族の血を引く男・ユリアン。 愛するとは、選ばれることか。選ぶことか。 沈黙と祈りの果てに、誰の想いが届くのか。 運命ではなく、想いで人を愛するとき。 その愛は、誰のもとに届くのか── ※短編から長編に変更いたしました。

最後に一つだけ。あなたの未来を壊す方法を教えてあげる

椿谷あずる
恋愛
婚約者カインの口から、一方的に別れを告げられたルーミア。 その隣では、彼が庇う女、アメリが怯える素振りを見せながら、こっそりと勝者の微笑みを浮かべていた。 ──ああ、なるほど。私は、最初から負ける役だったのね。 全てを悟ったルーミアは、静かに微笑み、淡々と婚約破棄を受け入れる。 だが、その背中を向ける間際、彼女はふと立ち止まり、振り返った。 「……ねえ、最後に一つだけ。教えてあげるわ」 その一言が、すべての運命を覆すとも知らずに。 裏切られた彼女は、微笑みながらすべてを奪い返す──これは、華麗なる逆転劇の始まり。

皇后マルティナの復讐が幕を開ける時[完]

風龍佳乃
恋愛
マルティナには初恋の人がいたが 王命により皇太子の元に嫁ぎ 無能と言われた夫を支えていた ある日突然 皇帝になった夫が自分の元婚約者令嬢を 第2夫人迎えたのだった マルティナは初恋の人である 第2皇子であった彼を新皇帝にするべく 動き出したのだった マルティナは時間をかけながら じっくりと王家を牛耳り 自分を蔑ろにした夫に三行半を突き付け 理想の人生を作り上げていく

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

【改稿版・完結】その瞳に魅入られて

おもち。
恋愛
「——君を愛してる」 そう悲鳴にも似た心からの叫びは、婚約者である私に向けたものではない。私の従姉妹へ向けられたものだった—— 幼い頃に交わした婚約だったけれど私は彼を愛してたし、彼に愛されていると思っていた。 あの日、二人の胸を引き裂くような思いを聞くまでは…… 『最初から愛されていなかった』 その事実に心が悲鳴を上げ、目の前が真っ白になった。 私は愛し合っている二人を引き裂く『邪魔者』でしかないのだと、その光景を見ながらひたすら現実を受け入れるしかなかった。  『このまま婚姻を結んでも、私は一生愛されない』  『私も一度でいいから、あんな風に愛されたい』 でも貴族令嬢である立場が、父が、それを許してはくれない。 必死で気持ちに蓋をして、淡々と日々を過ごしていたある日。偶然見つけた一冊の本によって、私の運命は大きく変わっていくのだった。 私も、貴方達のように自分の幸せを求めても許されますか……? ※後半、壊れてる人が登場します。苦手な方はご注意下さい。 ※このお話は私独自の設定もあります、ご了承ください。ご都合主義な場面も多々あるかと思います。 ※『幸せは人それぞれ』と、いうような作品になっています。苦手な方はご注意下さい。 ※こちらの作品は小説家になろう様でも掲載しています。

処理中です...