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アデライト編
希望の光
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再婚する意志を見せると父は
「本当にいいのか?」
「はい、構いません。アリスティアに父親が必要な事は解っています。但し、条件があります。伯爵家のアリスティアへの干渉はやめてもらって下さい。恐らく、伯爵が床に伏していて、義母が何か無理を言わない様に釘を刺してください。それと、オーウェンを公爵家の戸籍に入れないでください」
「わかった。何かあったらすぐに放逐させる」
「それではきっと何の解決にもならないでしょう」
そう、またオーウェンは私達の前に現れる。彼が生きている限り、この国にいる限りそれは続くのだ。
かといって、今の段階では何の理由もなく彼を処罰することはできない。
ただ、待つしかない。彼の行いで自滅するのを。それでも駄目なら私が死ぬ時に道ずれにするまでだ。
この婚姻は、最初からオーウェンを破滅させる為に結んだもの。
私は調べさせていたオーウェンの恋人のマリエルとその子供の事を。
オーウェンとは全く血の繋がりがない。それでもオーウェンはいつか引き取りたいと言ってくるに違いない。
その時に面倒な事はごめんだ。出来るだけアリスティアに関わらせたくなかった。でもローフェルの娘だという事できっとまた、公爵家との繋がりを求めてくるはず。
以前流れた醜聞の所為で、公爵家との縁談が流れてはと義母ヴェロニカは夫のガルズを言い含めて、マリエルに金を積んで別れさせている。
オーウェンはそれを公爵家が圧を掛けたと勝手に友人らに吹聴して回っていた。あくまでも婚約者候補でしかなかったオーウェンに、そこまでする必要などないことを高位貴族らは理解していても、下級貴族の友人とやらは素直に信じたのだろう。
マリエルは義母ヴェロニカと同じで、他人を妬む癖があり、奪うことに喜びを感じるような性質の持ち主。
そんな彼女等は外見もよく似ている。
見かけは儚げな、男の庇護心を擽るような姿でありながら、本性は毒の華。一度味わったら最後、死ぬまでその毒に犯され続けるような中毒性を持っている仇花。
私と再婚したオーウェンも義母に言われたのか、はたまた改心したのか私やアリスティアに優しかった。しかし、兄ローフェルに対して罪悪感があるのかアリスティアと目を合わせることはしなかった。
屋敷の者達にオーウェンとアリスティアを二人にしない事を命じていた。護衛はわたしに付ける倍の人数をつけ、公爵家の影をつけて、オーウェンの動向を探っていた。
かつての私の様な思いをアリスティアにさせない様に。
それにこの頃にはアリスティアには王家から縁談が来ていた。
王弟レイラン殿下との婚約話が。
父もレイラン殿下との縁組には、乗り気だった。だが、彼には事情があって隣国に留学していた。直ぐにどうこうできる状態ではないし、伯爵家の事もあった。
公になれば、王家と縁が出来ると義母がまたいらぬ画策をするに違いない。
頭の痛くなる問題は山積みだが、アリスティアはローフェルに似て健康な体を持っている事だけが私の唯一の救いとなった。
良かった。私に似なくて。
そして、オーウェンは私が予想した通り、マリエルとその娘を引き取りたいと言ってきた。
私は監視しやすい別邸に住むように勧めた。彼は至極上機嫌でアリスティアにいらぬ言葉を吐いたのだ。
それがきっかけで、アリスティアの病気が悪化することになる。
別邸に行きたいというアリスティアを連れて行ったのが間違いだった。
礼儀も身の程も弁えないマリエルはアリスティアに不貞の現場に見られた腹いせに、赤い髪の鬘を付けてアリスティアを怯えさせた。
オーウェンは帰宅して、執事たちから事情を聴いて、公爵家にやってきた。
自分がいない間にマリエルを侮辱しに別邸を訪れたのかと喚き散らすオーウェンに辟易していた私が、冷たい言葉を投げかけると、今度はすがってくる。
その時、オーウェンの性質を確信したのだ。
そして、私はアリスティアに呪いをしていた。
アリスティアの中に父、ローフェルの思い出はあるが名前が記憶から削除されていく。ただオーウェンの名前は覚えられると知って
「アリスティア、貴方の本当の父はローフェル。忘れないで、貴方のその瞳は父から受け継いだもの。忘れてしまってはお父様が悲しむわよ」
何度も何度も刷り込んだ。幸せな記憶と共に。言い聞かせた。ローフェルをオーウェンに置き換えて。
次第にアリスティアの中にはローフェルの記憶しかなく、オーウェンをあの男と呼ぶようになっていく。
そして、アリスティアの誕生日パーティーが終わった頃、オーウェンは羞恥心の欠片も示さずこういった。
「君の希望は叶えた」「これからも君の言うとおりにする」「君の為に全てを犠牲にしてきたのに」
そうアリスティアの前で言ったのだ。何もかも私が悪いように。
そして、マリエルから吹き込まれた偽りを信じて、私を詰り出す。話は平行線を辿った事で逆上したオーウェンはまたアリスティアを傷つけた。
庇った私の頬を彼が叩いたのだ。それを伯爵家・父公爵の前で……。
私は俯きながら、内心これでこの男と別れられると思ったのに、義母ヴェロニカがまたもや邪魔をした。
アリスティアを侍女と乳母に任せ、私達は応接室で話し合いをしたのだが、義母はオーウェンに詫びを入れさせ、アリスティアの成人まではいさせて欲しいと懇願した。得意の男を落とす仕草で、父も私も聞く気が無かったが、伯爵は今後二度と公爵家には近づかないし、事業からも撤退する意思を見せたことで、父は了承してしまった。
義母は驚愕し、それは嫌だと主張したが、道理が通らなかった。公爵家の事業を手伝っていたからこそ、潤沢な資産が出来ていた。
その金で贅を尽くしていた義母は、今後そんな生活を望めないと分かっている。しかし、オーウェンの罪を本人に償わせないのなら、当然の処置だった。父は伯爵家をローフェルと結婚した時から、切り捨てたかった。今、その絶好のタイミングを逃すはずもなかった。
そしてオーウェンも二度と公爵家の門を叩くことを許さないと伝えた。でも、オーウェンが大人しくするとは思えない。だから私は手紙を別邸に送った。その内容はアリスティアの成長を記したもので、最後に「愛している」と嘘の言葉を綴った。それだけで、オーウェンは私達に近づかない。公爵家に来ない事は予測できた。
案の定、別邸のトーマスから最初の手紙を見ただけで、後は封も見ずに送りかえす様に指示されたと聞かされた。
この事を聞いて確信した。自分が愛されていると信じている間は、アリスティアに近づかないだろうと。
その手紙を盗み見たマリエルは私に、無駄な嫌がらせの様な怪文書を送りつけてきた。
彼女の文を私はいつかの為に保管した。そして一年が経つ頃に離縁状と共に、別邸の私の部屋の鍵を入れたのだ。
それは一縷の望みだったのかもしれない。オーウェンが改心して、叔父としてアリスティアを支えてくれるのではという思いからだったが、彼はそれすらも封を開けずに返してきた。
アリスティアの記憶は、ますます酷くなる一方で、私はあらゆる医師に見せたが効果は表れなかった。
そして、何事も無く月日が過ぎて行った頃、隣国にいたレイラン殿下から吉報がもたらせられた。
ーーーー王家の瞳を持った男性が隣国にいるーーーー
父はその知らせを聞いて、急いで隣国のとある神殿に向かった。
アリスティアが10才の誕生日を迎える直前の秋だった。
「本当にいいのか?」
「はい、構いません。アリスティアに父親が必要な事は解っています。但し、条件があります。伯爵家のアリスティアへの干渉はやめてもらって下さい。恐らく、伯爵が床に伏していて、義母が何か無理を言わない様に釘を刺してください。それと、オーウェンを公爵家の戸籍に入れないでください」
「わかった。何かあったらすぐに放逐させる」
「それではきっと何の解決にもならないでしょう」
そう、またオーウェンは私達の前に現れる。彼が生きている限り、この国にいる限りそれは続くのだ。
かといって、今の段階では何の理由もなく彼を処罰することはできない。
ただ、待つしかない。彼の行いで自滅するのを。それでも駄目なら私が死ぬ時に道ずれにするまでだ。
この婚姻は、最初からオーウェンを破滅させる為に結んだもの。
私は調べさせていたオーウェンの恋人のマリエルとその子供の事を。
オーウェンとは全く血の繋がりがない。それでもオーウェンはいつか引き取りたいと言ってくるに違いない。
その時に面倒な事はごめんだ。出来るだけアリスティアに関わらせたくなかった。でもローフェルの娘だという事できっとまた、公爵家との繋がりを求めてくるはず。
以前流れた醜聞の所為で、公爵家との縁談が流れてはと義母ヴェロニカは夫のガルズを言い含めて、マリエルに金を積んで別れさせている。
オーウェンはそれを公爵家が圧を掛けたと勝手に友人らに吹聴して回っていた。あくまでも婚約者候補でしかなかったオーウェンに、そこまでする必要などないことを高位貴族らは理解していても、下級貴族の友人とやらは素直に信じたのだろう。
マリエルは義母ヴェロニカと同じで、他人を妬む癖があり、奪うことに喜びを感じるような性質の持ち主。
そんな彼女等は外見もよく似ている。
見かけは儚げな、男の庇護心を擽るような姿でありながら、本性は毒の華。一度味わったら最後、死ぬまでその毒に犯され続けるような中毒性を持っている仇花。
私と再婚したオーウェンも義母に言われたのか、はたまた改心したのか私やアリスティアに優しかった。しかし、兄ローフェルに対して罪悪感があるのかアリスティアと目を合わせることはしなかった。
屋敷の者達にオーウェンとアリスティアを二人にしない事を命じていた。護衛はわたしに付ける倍の人数をつけ、公爵家の影をつけて、オーウェンの動向を探っていた。
かつての私の様な思いをアリスティアにさせない様に。
それにこの頃にはアリスティアには王家から縁談が来ていた。
王弟レイラン殿下との婚約話が。
父もレイラン殿下との縁組には、乗り気だった。だが、彼には事情があって隣国に留学していた。直ぐにどうこうできる状態ではないし、伯爵家の事もあった。
公になれば、王家と縁が出来ると義母がまたいらぬ画策をするに違いない。
頭の痛くなる問題は山積みだが、アリスティアはローフェルに似て健康な体を持っている事だけが私の唯一の救いとなった。
良かった。私に似なくて。
そして、オーウェンは私が予想した通り、マリエルとその娘を引き取りたいと言ってきた。
私は監視しやすい別邸に住むように勧めた。彼は至極上機嫌でアリスティアにいらぬ言葉を吐いたのだ。
それがきっかけで、アリスティアの病気が悪化することになる。
別邸に行きたいというアリスティアを連れて行ったのが間違いだった。
礼儀も身の程も弁えないマリエルはアリスティアに不貞の現場に見られた腹いせに、赤い髪の鬘を付けてアリスティアを怯えさせた。
オーウェンは帰宅して、執事たちから事情を聴いて、公爵家にやってきた。
自分がいない間にマリエルを侮辱しに別邸を訪れたのかと喚き散らすオーウェンに辟易していた私が、冷たい言葉を投げかけると、今度はすがってくる。
その時、オーウェンの性質を確信したのだ。
そして、私はアリスティアに呪いをしていた。
アリスティアの中に父、ローフェルの思い出はあるが名前が記憶から削除されていく。ただオーウェンの名前は覚えられると知って
「アリスティア、貴方の本当の父はローフェル。忘れないで、貴方のその瞳は父から受け継いだもの。忘れてしまってはお父様が悲しむわよ」
何度も何度も刷り込んだ。幸せな記憶と共に。言い聞かせた。ローフェルをオーウェンに置き換えて。
次第にアリスティアの中にはローフェルの記憶しかなく、オーウェンをあの男と呼ぶようになっていく。
そして、アリスティアの誕生日パーティーが終わった頃、オーウェンは羞恥心の欠片も示さずこういった。
「君の希望は叶えた」「これからも君の言うとおりにする」「君の為に全てを犠牲にしてきたのに」
そうアリスティアの前で言ったのだ。何もかも私が悪いように。
そして、マリエルから吹き込まれた偽りを信じて、私を詰り出す。話は平行線を辿った事で逆上したオーウェンはまたアリスティアを傷つけた。
庇った私の頬を彼が叩いたのだ。それを伯爵家・父公爵の前で……。
私は俯きながら、内心これでこの男と別れられると思ったのに、義母ヴェロニカがまたもや邪魔をした。
アリスティアを侍女と乳母に任せ、私達は応接室で話し合いをしたのだが、義母はオーウェンに詫びを入れさせ、アリスティアの成人まではいさせて欲しいと懇願した。得意の男を落とす仕草で、父も私も聞く気が無かったが、伯爵は今後二度と公爵家には近づかないし、事業からも撤退する意思を見せたことで、父は了承してしまった。
義母は驚愕し、それは嫌だと主張したが、道理が通らなかった。公爵家の事業を手伝っていたからこそ、潤沢な資産が出来ていた。
その金で贅を尽くしていた義母は、今後そんな生活を望めないと分かっている。しかし、オーウェンの罪を本人に償わせないのなら、当然の処置だった。父は伯爵家をローフェルと結婚した時から、切り捨てたかった。今、その絶好のタイミングを逃すはずもなかった。
そしてオーウェンも二度と公爵家の門を叩くことを許さないと伝えた。でも、オーウェンが大人しくするとは思えない。だから私は手紙を別邸に送った。その内容はアリスティアの成長を記したもので、最後に「愛している」と嘘の言葉を綴った。それだけで、オーウェンは私達に近づかない。公爵家に来ない事は予測できた。
案の定、別邸のトーマスから最初の手紙を見ただけで、後は封も見ずに送りかえす様に指示されたと聞かされた。
この事を聞いて確信した。自分が愛されていると信じている間は、アリスティアに近づかないだろうと。
その手紙を盗み見たマリエルは私に、無駄な嫌がらせの様な怪文書を送りつけてきた。
彼女の文を私はいつかの為に保管した。そして一年が経つ頃に離縁状と共に、別邸の私の部屋の鍵を入れたのだ。
それは一縷の望みだったのかもしれない。オーウェンが改心して、叔父としてアリスティアを支えてくれるのではという思いからだったが、彼はそれすらも封を開けずに返してきた。
アリスティアの記憶は、ますます酷くなる一方で、私はあらゆる医師に見せたが効果は表れなかった。
そして、何事も無く月日が過ぎて行った頃、隣国にいたレイラン殿下から吉報がもたらせられた。
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