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積み重ねるズレ
しおりを挟む婚約パーティーが終わるまでは首都にいることになったウィクトル太公家にはひと目挨拶をしたいと貴族達からの手紙が殺到していた。
その中にはマルグリス侯爵家の名もあり、おおよそ「噂」に関しての探りを入れる為か自分が婚約者だと言い張るアルベルトはルージュを利用してウィクトル太公家との繋がりを持ちたいかのどちらかだろうと予測されている。
あれからすぐに送った婚約解消の書類と正式な公表についての同意を求める手紙に返事は無かったが、その代わりセントリック達によってメーデアが隠蔽するよりも先に手紙を保管したと伝達が送られてきた。
どうやらアルベルトは焦りからか次々と失態を犯しては融資や、取引を逃しているらしく、決まった仕事をこなす事が得意なメーデアは書類の後処理に追われるだけで思うように行動できていないようだ。
今回のホテル事業、アルベルトはきっと上手くいかない。
何故なら、企画書をまとめて、皆をもてなし融資を集めたルージュの婚約解消の噂はテンタシオンによって意図的に広められ、公の場で秘書が妻のように振る舞う不自然な様子によって不倫を裏付けられているからだ。
不十分な説明、不誠実だというレッテル、余裕のない秘書と侯爵の立ち振る舞いは相手方を不安にさせるばかりで信頼などとても得ることはできなかった。
「くそっ……!ルージュは社交もせず何してる?」
「その、ルージュ様は……」
「またウィクトル公子に尻尾を振っているのか?」
「はい……」
メーデアは内心焦っていた。
あれから一度もルージュには会えていない。
本当に婚約解消をするつもりなのだろう。
それでは今回の事業はどうなるのだろうか?
ルージュとの婚約解消の噂の所為でもう既に多くの家門がマルグリス侯爵家と距離を置いた。
メーデアとの愛人関係が原因だという真実に近い詳細を語った噂はきっと太公家による仕業だろう。
でなければこんなに早く、具体的に国中に広まるわけがない。
メーデアは焦って思わずインクをひっくり返した。
アルベルトの舌打ちが部屋に響いてメーデアは肩を揺らす。
「す、すみません」
「あぁ、いい。すまないが企画書について詳しく説明してくれないか?」
メーデアはさらに地獄に堕ちたような気分だった。
どの企画書もアルベルトの夢や願望をなるべく現実的な形に変えてまとめた完璧なものだがあれは、ルージュが寝ずに考えたものだった。
彼の為を想い、自らの仕事の後に寝る間を削って作った。
その手柄を言葉巧みにまるで自分がまとめたかのようにアルベルトに信じ込ませていただけで実際にはアルベルトの願いも、企画について相手を納得させる魅力すら語ることは出来ない。
でも「私がやった」とはひと事も言っていない。
メーデアがやったのは書類の整理と仕分け程度だったが、確かにあれはルージュとの共同作業のはずだ。
(嘘はついてない。堂々と……)
「あれはルージュ様が主に作ったものでして……」
「はぁ……またルージュか。もっとメーデアは聡い女だと思っていたが……頼むからせめて早くルージュを連れ戻してくれ」
「すみません。でも昨晩は愛してるって……!」
「ここは執務室だぞ!? 昨晩の話などいいから早くルージュを呼んできてくれ!!」
きっと上手くいく。
(私は侯爵夫人になるし、アルベルト様もきっとまた優しくなるはずよ)
「わかりましたわ、アルベルト様落ち着いて下さい」
「はぁ……もういい。黙って仕事をしてくれ」
夜が来るたびに安心する。
「メーデアはいい女だ、愛してる」と囁くアルベルトに全てを捧げても足りない。悔いはない。
大丈夫だと自分に言い聞かせて書類と睨み合った。
煙草を掴んで席を立ったアルベルトに少し苛立ちを感じたことには気づかないふりをした。
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