八年間の恋を捨てて結婚します

abang

文字の大きさ
18 / 43

婚約者と元婚約者

しおりを挟む

ウィクトル大公家の婚約となれば国にしてみても大事、混乱を避ける為に一ヶ月後の婚約パーティーにテンタシオンとルージュの婚約を発表することが決まった。

一ヶ月……貴族の、それも大公家の婚約式にしたらかなり短い準備期間だと言えるだろう。

その間に二人がすることは山積みだ。


それにも関わらず、テンタシオンは付き合いで顔を出すだけのつもりだった紳士ばかりの社交場でアルベルトに絡まれている。


横目で時間を確認しながら要件を急かすようにアルベルトに尋ねる。


「挨拶は先程聞きましたが?」

「いえ、気になることがありまして」


貼り付けた作り笑顔、苛立ちを隠せていない声色。
少し飲み過ぎたのか赤い顔したアルベルトは目が据わっている。


「気になる事とは?」

ルージュの事なんですが……」

「あぁ!(私の)婚約者のことですね」

「近頃よくお世話になっているようですが、余計な期待を持たせては困ります」

「婚約者といえば……」



テンタシオンの含みのある笑顔にアルベルトは今度はあからさまに眉を寄せた。

成り行きが気になるのか紳士達は二人のやり取りを気にしない素振りだが見守っている。


「私の婚約者がとある店で予約の品を受け取る際に、侯爵の忘れ物を手違いで受け取ったそうなんです」


アルベルトはテンタシオンの意図が分からず首を傾げた。

そもそも彼に婚約者が居ることに周囲は驚き、アルベルトはテンタシオンの従者が持ってきた紙袋を覗き込んで驚愕する。

思わず紙袋を落としたアルベルトは顔面を蒼白にし両手で顔を覆った。


床に落ちた紙袋から覗く毒々しいまでの派手なレースの下着、もちろんルージュのものではないし、何故テンタシオンの婚約者のものだと思われたのかもわからない。



「ブティックの個室で悪さをするのも程々に」


テンタシオンがアルベルトの肩にポンと手を置いて通り過ぎる。
困惑するアルベルトとは違って周囲の者たちは皆気付いているだろう。


二人の言う「婚約者」が同一人物なのだと。


新人の店員が手違いでルージュをアルベルトの婚約者だと思って手渡したのだろう。

大抵、高位貴族の事情に詳しい平民なんて珍しいし、ましてや今は婚約解消もテンタシオンとの婚約についてもまだ表立っていない。


皆がそう気付いている中、よほど察しが悪いのか希望的観測かアルベルトは過ぎ去ろうとするテンタシオンに声をかける。



「婚約者が居るなら……っ、悪戯に弄ばないで下さい」

「おや?侯爵にもまだ婚約者がいるのですか?」

「何を白白しい……」

が得意なのは其方でしょう」


男なら一度くらいはなぁ……とコソコソ話す男たちの胸糞の悪い言葉を聞こえないふりしながらテンタシオンは笑顔を作ってアルベルトを牽制するように見下ろした。


馬鹿な男たちだけではない。

勿論、アルベルトを軽蔑する声も聞こえているし大抵そういう男達は妻を誠実にきちんと愛して、公私共に成功した人格者だ。


アルベルトは顔を真っ赤にして「貴族の男ならこれくらいの事!」と言いかけたがテンタシオンの全ての感情が抜け落ちたような表情を見て言葉を失った。


「たった一人とも誠実に向き合えない人間は信用しません」



アルベルトの言葉にもう耳を傾けることはしなかった。


表面上はプライベートだが此処はビジネスの話をする場所で個人的な話をしに来たわけではない。

けれど此処でを始めたのはアルベルトだ。


それにもうルージュは彼の婚約者ではない。


黙っていられなかった自分も大人気ないなと反省しながら、馬車に乗り込んだあと従者にバレないように溜息をついた。


けれどルージュの顔が浮かんで黙っていられなかった。


きっと新人とは言えあんなミスを犯したのはメーデアの何かしらの嫌がらせだろう。


けれどそれももう少しで全て終わる。

ルージュは弱い人じゃないし、テンタシオンも彼女を誠心誠意大切にすると心に決めている。


「あと、ひと月だ」


きっとアルベルトは現実と向き合うことになるだろう。


「少し目を閉じるよ」

テンタシオンはアルベルトへの苛立ちをかき消すように瞼の裏にルージュの笑顔を思い浮かべた。




しおりを挟む
感想 95

あなたにおすすめの小説

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

なにをおっしゃいますやら

基本二度寝
恋愛
本日、五年通った学び舎を卒業する。 エリクシア侯爵令嬢は、己をエスコートする男を見上げた。 微笑んで見せれば、男は目線を逸らす。 エブリシアは苦笑した。 今日までなのだから。 今日、エブリシアは婚約解消する事が決まっているのだから。

[完結]本当にバカね

シマ
恋愛
私には幼い頃から婚約者がいる。 この国の子供は貴族、平民問わず試験に合格すれば通えるサラタル学園がある。 貴族は落ちたら恥とまで言われる学園で出会った平民と恋に落ちた婚約者。 入婿の貴方が私を見下すとは良い度胸ね。 私を敵に回したら、どうなるか分からせてあげる。

【完結】亡くなった人を愛する貴方を、愛し続ける事はできませんでした

凛蓮月
恋愛
【おかげさまで完全完結致しました。閲覧頂きありがとうございます】 いつか見た、貴方と婚約者の仲睦まじい姿。 婚約者を失い悲しみにくれている貴方と新たに婚約をした私。 貴方は私を愛する事は無いと言ったけれど、私は貴方をお慕いしておりました。 例え貴方が今でも、亡くなった婚約者の女性を愛していても。 私は貴方が生きてさえいれば それで良いと思っていたのです──。 【早速のホトラン入りありがとうございます!】 ※作者の脳内異世界のお話です。 ※小説家になろうにも同時掲載しています。 ※諸事情により感想欄は閉じています。詳しくは近況ボードをご覧下さい。(追記12/31〜1/2迄受付る事に致しました)

婚約破棄は喜んで

nanahi
恋愛
「お前はもう美しくない。婚約破棄だ」 他の女を愛するあなたは私にそう言い放った。あなたの国を守るため、聖なる力を搾り取られ、みじめに痩せ細った私に。 え!いいんですか?喜んで私は去ります。子爵令嬢さん、厄災の件、あとはよろしく。

私よりも姉を好きになった婚約者

神々廻
恋愛
「エミリー!お前とは婚約破棄し、お前の姉のティアと婚約する事にした!」 「ごめんなさい、エミリー.......私が悪いの、私は昔から家督を継ぐ様に言われて貴方が羨ましかったの。それでっ、私たら貴方の婚約者のアルに恋をしてしまったの.......」 「ティア、君は悪くないよ。今まで辛かったよな。だけど僕が居るからね。エミリーには僕の従兄弟でティアの元婚約者をあげるよ。それで、エミリーがティアの代わりに家督を継いで、僕の従兄と結婚する。なんて素敵なんだろう。ティアは僕のお嫁さんになって、2人で幸せな家庭を築くんだ!」 「まぁ、アルったら。家庭なんてまだ早いわよ!」 このバカップルは何を言っているの?

【完結】婿入り予定の婚約者は恋人と結婚したいらしい 〜そのひと爵位継げなくなるけどそんなに欲しいなら譲ります〜

早奈恵
恋愛
【完結】ざまぁ展開あります⚫︎幼なじみで婚約者のデニスが恋人を作り、破談となってしまう。困ったステファニーは急遽婿探しをする事になる。⚫︎新しい相手と婚約発表直前『やっぱりステファニーと結婚する』とデニスが言い出した。⚫︎辺境伯になるにはステファニーと結婚が必要と気が付いたデニスと辺境伯夫人になりたかった恋人ブリトニーを前に、ステファニーは新しい婚約者ブラッドリーと共に対抗する。⚫︎デニスの恋人ブリトニーが不公平だと言い、デニスにもチャンスをくれと縋り出す。⚫︎そしてデニスとブラッドが言い合いになり、決闘することに……。

わたしを捨てた騎士様の末路

夜桜
恋愛
 令嬢エレナは、騎士フレンと婚約を交わしていた。  ある日、フレンはエレナに婚約破棄を言い渡す。その意外な理由にエレナは冷静に対処した。フレンの行動は全て筒抜けだったのだ。 ※連載

処理中です...