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武闘大会 2
しおりを挟む周りを観客席で囲まれた広い武闘場は、中央が広く平らになっており剣や武術だけでなく、大規模な魔法などを使っても闘えるように配慮されている。
取り囲むように闘いを見守る観客席にもきちんと防御魔法が施されており、貴族達も安全に見ることが出来るようになっていた。
それ故に出場者達は出番以外では自由に行動出来、誰でも出番が見やすいようにトーナメント表は魔法で大きく映し出されていた。
開会式には前回の優勝者であるルシアンが登場し、盛大な拍手と喝采を受けた。彼の手首にはセリエの瞳と同じ緑色で銀糸で刺繍の入ったリボンが巻かれていた。
イブリアに勝利を捧げると言った筈の彼の腕に巻かれているセリエのリボンが妙に滑稽だとディートリヒは思った。
「皆こんなに朝早くから沢山集まるのね……」
「年に一度ですから、楽しみなのでしょう」
「ほんとだな……俺はマルティナを探すよ……」
「ええ、行ってらっしゃい」
初戦が始まるのだろう、突然シンとした会場。
入場した者の顔を見てイブリアは思わず声に出してしまう。
「え……テディ?」
通常身分の低い順で行われる筈だが、セオドアは特に気分を害した訳でもなく悠々と出てきては女性達からの黄色い声に手を振っている。
おおよそ王妃による嫌がらせだろうとイブリアは溜息をついてただ静観した。
「イブリアお嬢様、僕の出番ももうすぐです」
「ええ。私もその時にはちゃんと席で貴方を応援するわ」
すると、突然歓声と黄色い声が大きくなってセオドア達を見るとただ立っているだけのセオドアに剣が当たらない騎士がやけになって剣を振り回していた。
「あれでは当たりませんね」
「……テディは剣の腕はあまりだけれど、魔法の才はあったのよ」
「そうですね、あれは魔法の所為でしょう」
「と、言っても貴方ほどではないけれど」
そう言ってディートリヒを見上げて悪戯に微笑んだイブリアの不意打ちの笑顔に頬を染めた。
「ーっ、光栄です」
「私とテディなら……どちらが勝つかしら?」
「イブリアお嬢様に勝てる者はそう居ないでしょう」
「そうだとしたら、貴方とお兄様が師匠だからよきっと。後は……お父様かしら?」
「ふっ…‥.確かに豪快な所はイルザ様譲りですね」
「お兄様はいつも繊細さがないと言ってくるのよ?」
そうこう言っている内に、セオドアは歓声の中簡単に相手を倒した。
次々と試合が組まれ、とうとうディートリヒの出番がやってくる。
ディートリヒは、魔法すら使わずに剣だけで瞬時に相手を倒すと歓声に表情一つ変えずに瞬間移動魔法でイブリアの傍へと戻った。
そんな彼の様子を王妃も、ルシアンも無表情でただ眺めていた。
大体、トーナメント上位まで残るだろう者は予測している為だった。
セリエはリボンを配るのに体力を費やしたのか、爵位の低い者達には興味がないのも相まってルシアンの隣でぐったりとしている。
それすらも儚く写ってしまう美しさは、彼女を守る一番の鎧だろう。
とうとうある程度の身分の者達の試合になってくると、アカデミーや公務で顔を合わせる者達の顔もチラホラ見えてきた。
その中には時たまルシアンと同じ色柄のリボンを持つ者が居て、セリエの髪にもそれと同じものが編まれていた。
(不特定多数の方にリボンを配ったのね……まるで印のようね)
イブリアは少し不気味に感じたが、ディートリヒもまた同じ気持ちのようで眉を顰めていた。
「次はティアードね」
「彼は剣を?」
「どちらも程々と言った所ね、頭を使ってカバーするわ」
(それが通用する相手ならばね)
そう考えて、チラリとディートリヒを見れば彼は真面目に観戦していてその姿がどうしてか妙に可愛く感じた。
ティアードは何とか一回戦を勝てたものの、彼はあまりにも辛そうだった。
レイノルドもまた、魔力をかなり消耗してやっと一回戦を勝ち上った。
前回優勝者であるルシアンは三回戦からの出場である為にまだ王族の席からは降りて来ていない様子だ。
とうとう兄のカミルが登場し、チラリとそう遠くないマルティナの席を見るともう既に涙を溜めていた。
「カミル……っ」
(マルティナお姉様、大丈夫かしら)
「カミルなら、すぐに終わるでし……」
マルティナを心配する表情に、イブリアが不安を感じていると思ったのかディートリヒがそう言いかけた瞬間だった。
赤く光ったと同時に爆発音がして、地面はひび割れ対戦相手の意識は無かった。
ほんの一瞬だった。
罰が悪そうに「ははは」と乾いた笑いで誤魔化している辺り力加減が分からなかったのだろう。
「間違えたな」と彼の口元はたしかにそう言っていた。
「……目立ちすぎぬよう、やり過ぎぬようにとイルザ様には言われましたが」
「きっとお兄様は力加減が難しいのね……」
遥かに力の差が出る、一から三回戦まではあっという間に終わる。
ルシアンもまた、余裕の表情で少し剣を振る程度で見事に勝利したようだった。
そして四回戦目の次の試合は、ディートリヒとティアードだった。
「ディートリヒ……」
「ティアード卿、貴方の名誉の為に手は抜きません」
「……」
「加減はしますが……」
確かに彼はそう言ったと思ったのに、受け止めた筈の彼の剣に吹き飛ばされていた。
チラリとイブリアの方を見ると、彼女の瞳にはディートリヒしか映っていないようだった。
「くそっ……貴方だけには勝ちたいなディートリヒ」
「もし、イブリアお嬢様が理由なら……」
「だったら何だ…………っ!?」
ディートリヒは一瞬の内にティアードの目の前に居て、思わず後退しようとするが彼の魔法だろうか、身体は動かなかった。
「あの方だけは譲れません」
「……くっ、何を」
ディートリヒがティアードの眉間に指を立てるとティアードはゆっくりと倒れて勝負はあっけなく終わった。
(いっつも誰かの影に隠れていた、君に一度でも見つめられてみかった)
「イブ……」
「……」
意識を失ったまま呟くティアードを見下ろしてから、イブリアの方を見上げるとイブリアはディートリヒに向かって唇の動きだけで言った。
「あなたが、いちばんよディート」
きっとこの大会のことを言っているのだと思っていても、赤くなってしまった頬を隠すように俯いた。
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