騎士は愛を束ね、運命のオメガへと跪く

夕凪

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騎士の帰還

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 ゆっくりと、ゆっくりと、クラウスの熱に体を開かれた。
 男が腰を進めている間、エミールはずっと、あぁ、とか、うぅ、とか声を漏らしていた。

 すごい。
 おのれの中が、埋められてゆく。
 クラウスで。
 エミールのアルファで、いっぱいになる。

「エミール。息をしろ」

 色香に掠れた声に促され、エミールはひっ、ひっ、と肩を震わせながら息を吸った。

「吸うな。吐くんだ。ゆっくり……そう、いい子だ」

 子どものように褒められた。
 なんだかそれが嬉しくて、不自由な呼吸の途中で小さく笑った。
 エミールと視線を合わせたクラウスも、すこし笑う。

 彼の眉間にはずっとしわが刻まれていて、ひたいには汗が浮いていた。
 欲望のままにエミールを貫きたい。そんな衝動と戦っている。そのことが伝わってくる。

 ああ、このひとは本当にオレが好きなんだ。
 不意にそんな実感に浸されて、腰がずくりと溶けたようになった。

「くっ……エル、中が……」

 クラウスが低いうめき声を漏らした。
 クラウスを咥え込んだ肉筒が、勝手に牡を引き絞り、奥へ奥へと誘う蠢動を見せている。
 エミールは両手でぎゅうっとクラウスを抱き寄せた。そのせいで抗いきれずに、クラウスが残りの陰茎をずぷりとエミールの中に挿入した。

「あぁっ、は、はいった……?」
「ああ、すべて」
「うれしい」

 抱きしめたクラウスの顔が、エミールの首筋に埋められる。すん、と匂いを嗅がれた。同じだけ、エミールも嗅いだ。金髪の隙間に鼻先を押し込み、クラウスの匂いを鼻腔いっぱいに吸い込んだ。

 お互いに、肩で息をしている。その呼気が整わないままに、クラウスが腰を揺らした。
 エミールの体内で、熱の塊が動き出す。
 ぬぽ、ぐぽ、と狭いその場所を突かれ、自然と腰が浮いた。

「ふぁっ、あっ、あっ、あっ、あっ」

 律動に合わせて声が勝手に出る。
 シーツと腰の間にできた隙間に男の手が入り込み、さらに深く体を重ねられた。

「エミール、エル、愛してる、愛してる」

 クラウスが惜しげもなく愛の言葉を落としてくる。
 涙が滲んだ目で見上げると、男らしく整った顔が歪んでいるのが映った。

 感じているのだ。クラウスも。エミールの体で。

 あぁ、と歓喜の吐息が漏れた。
 エミールのアルファが、エミールで感じている。それがたまらない。
 体中が嬉しい嬉しいと喜んで、より一層クラウスへと絡みついてゆく。

「これ、でっ、ヒートじゃないのか……」

 恐ろしいな、と呟いて、クラウスがひたいの汗をこぶしで拭った。

「おまえの匂いに溺れそうだ」

 それを言うなら、エミールはもう溺れている。
 たぶん、初めて会ったときから。
 野盗に襲われていたところをたすけてもらったときから。
 この狼のような蒼玉の瞳と、抗いがたいほど圧倒的な香りに、囚われて。
 もう、溺れてしまっている。

「らすっ、すき、すきぃ……あっ、あんっ」
「エル、私のオメガ……っ」

 中を穿つ杭がさらに質量を増した。お腹がいっぱいでどうしていいかわからない。クラウスが動くたびに新たな快感が生まれて、エミールの頭が真っ白になった。
 上下も左右もない空間に放り投げられたようだ。
 その瞬間、エミールは法悦を放っていたのだと思う。自覚がないまま高みへと導かれ、全身を震わせながら射精した。

 クラウスの欲望の証も、放たれていた。
 どろりとした白濁がエミールの中に吐き出されている。
 中を濡らされる感覚もまた快感となり、エミールの絶頂を長引かせた。

 二人はしばらくの間、体を重ねたまま荒い呼吸を繰り返した。
 エミールが忘我の中天井を見上げていると、肘をついて体を浮かせたクラウスが、汗に濡れた髪をそっとかき分けてくれた。

「大丈夫か、エル?」
「ん……」

 返事にもならぬ声で応えると、ちゅ、と口づけをされる。

「もうすこし、このままでいいか?」
「ん……」
「後で風呂に入れてやる。私がすべてするから、おまえは動かなくていい」
「ん……」
「眠たいか?」
「ん……」

 さらり、さらりと髪を弄られるうちに、勝手にまぶたが下りてきた。

「痛くはなかったか?」
「ん……」
「こんなに華奢な体で、よく私を受け入れてくれた」
「ん~……きゃしゃじゃ、ない……おれも、きんにく……」

 エミールだってそのうち、ロンバードみたいな筋肉を身につけるのだ。そんなことを眠気に攫われたあやふやな口調で訴えると、クラウスが吐息だけで笑ったのがわかった。

 そうか、としずかに応じた彼が、すこしの沈黙の後で、言葉を続けた。

「エル、私のオメガ。これを言うとおまえは怒るかもしれないが……」

 なんだろう。クラウスの話が気になって、エミールは閉じたまぶたを無理やりにこじ開けた。
 宝石のような蒼い瞳がエミールを映して、やさしく微笑んでいた。

「エル、オメガおまえの不便はすべて、アルファのためにあるのだと、私は思う」   
「……なにそれ」
「おまえは嫌がっているが、筋肉がつきにくい体質なのも、華奢な骨格なのも、ふた月に一度来るヒートも、つがいになって以降誘発香が他のアルファに感知されないようになることも、すべてはアルファのためだ。オメガを……おまえを、私の運命を、ずっと求めていた私の、庇護欲や独占欲を満たすためなのだ。おまえをまもりたいという私の欲を、おまえの存在が満たしてくれているんだ……」

 それは、独白のような述懐だった。

 オメガの不便はすべて、アルファのためのもの。
 オメガをまもりたいとするアルファを満たすために、存在するものだ、と。

 そう語ったクラウスが、最後にまた「すまない」とささやいた。

 なんて傲慢なひとなんだろう、とエミールは思った。
 エミールのすべてが、クラウスのためにあるなんて。
 傲慢で、不遜で、バカだ。
 でも、それなら仕方ないのかな、とも思った。
 この体に筋肉がつかなくても、鍛えても鍛えても腕が細いままなことも、二か月に一度面倒臭い発情期が来ることも、クラウスのためなら、仕方ないのかな。

 そう思ってしまう自分が不思議で、すこし滑稽だ。

 でもまぁいいか。
 いろいろ考えるには眠気が限界で、エミールは半分眠りの世界に浸りながら、おのれのアルファを抱きしめた。

 一か月、傍になかったクラウスの匂い。
 それが部屋中に満ちている。
 体を繋げて、ひとつになって、余計に彼を近くに感じるようになっていた。

 もういまは、この男が隣にいるだけでいいか、とエミールはアルファの匂いを吸い込んで、動かしにくい口を開き、寝てしまう前にクラウスへと告げた。

「おかえりなさい、オレの、騎士……」

「エル……。ああ、ただいま、私のオメガ」

 裸の胸が合わさって、互いの鼓動を伝えている。
 クラウスが居て、彼の匂いがあって。

 いまはもう、それだけで良かった。 

 



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