騎士は愛を束ね、運命のオメガへと跪く

夕凪

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狼と名もなき墓標

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「うへぇ……俺ですか?」
「おまえだ、ロンバード」
「いや俺はユーリ様のおも……ごほっ、護衛に忙しいんで」
「ロンバード。いまなんと言った? 僕のおもりと言ったか?」
「そんなハッキリとは言ってないでしょうよ」
「言っておくが僕はおまえにおもりをされた覚えはないからな」
「うむ。ユーリのおもりなら俺が専属でしたいぐらいだ」
「…………」
「…………」

 マリウスの言葉に、ユリウスとロンバードが同時に沈黙した。仲が良くて羨ましい。マリウスも次期国王という役割さえなければ、最愛の弟の護衛になりたかった。
 それはさておき、ユーリ可愛さにじゃれついてばかりはいられない。

「ユーリ、おまえの護衛を半日ほど俺に貸してくれ」
「兄上にも近衛はいるじゃないですか」
「その男にしか頼めないことがあるんだ」
「はぁ……ちゃんと返してくれるならいいですけど」
「俺ぁオモチャじゃねぇんですけどねぇ!」

 当のロンバードから苦情が飛んできたが、マリウスはそれを無視して弟のゆるい癖のある金髪を撫でた。

「悪いな、ユーリ」
「僕の護衛を貸すんですから、ちゃんと説明はしてくれるんですよね?」
「む……そうだな。詳細は省くが、クラウスが行方不明になった」
「兄上が?」
「団長が?」

 主従が声を揃えた。

「クラウスのみではない。遠征に行った第一騎士団ごと所在不明だ」

 マリウスがそう付け足すと、ユリウスは心配そうに眉を顰めた。その横ではロンバードが面白そうに口角を上げている。

「俺を連れて行かねぇから行方不明なんて無様を晒すんですよ」

 ほぅ、とマリウスは顎を撫でた。

「おまえが居ればなんとかなったと?」
「なんとかなるというか、なんとでもなりますね。っていうか、ユーリ様、心配要りませんよ。団長は無事です」

 ロンバードが逞しい肩を竦め、慰めるでもなくただ事実を告げる口調で断言した。

「なんでわかるんだ」

 ユリウスが横目で側近を睨む。

「全滅したとかの報告じゃなく、居なくなったって話なんですよね?」 

 ロンバードがマリウスへと質問を向けてきた。マリウスの元へ齎された報告は正確には、第一騎士団の行方がわからなくなったとするものや、無事に元ヴローム村に到達しているとするもの、道中で壊滅的被害に遭ったするものまで様々であったが、その辺を説明しだすと長くなるため、マリウスは一先ず頷いた。それを見てロンバードが「ほら」と言う。

「『第一』の奴らは普段から団長の鬼のしごきに耐えてる精鋭ですよ。騎士だけじゃなくその従士も相当なもんです。そんな奴らが二百人も揃って消えますかね? どこかの段階で少人数に分断されたにせよ、その間に団長が気づいてうまく対処しますよ。いま消息がわからねぇっていうなら、敢えて隠れてるんじゃねぇですか」

 さすがクラウスの右腕だった男だ、とマリウスは感心した。
 右腕だったがゆえにいまは最愛の弟の護衛に回されているが、クラウスへの信頼と忠誠は揺らいでいない。そしてクラウス・ミュラーという男をよくわかっている。

「俺も同じ考えだ」

 マリウスはロンバードへと同意を示し、もう一度ユリウスの頭を撫でた。

「クラウスは大丈夫だ、ユーリ」
「……はい。僕も兄上を信じてます。それで、ロンバードになにをさせるつもりですか?」
「うむ」

 マリウスは腕を組み、ロンバードへ目を向けた。

「おまえに頼みたいことがある」
「はぁ、なんでしょう」

 興味なさそうな声音で尋ねられ、マリウスは苦笑いを浮かべながら、議長や尚書官など数名の名を口にした。

「これらの者の共通点を探ってほしい」
「共通点?」
「そうだな……ここひと月ほどの行動を洗い出し、特定の場所に行った、特定の人物に会ったなど共通するものがなかったかどうかを知りたい」
「うへぇ……そりゃひとりじゃ無理ですよ。遡る期間が長すぎる」
「だがおまえしか居ないんだ。貴族社会とのしがらみもなく、城内の勢力均衡パワーバランスにも関係がないのは」
「めんどくせぇぇぇ」

 王太子を前にして、ロンバードが不敬にも本音をこぼした。ユリウスが冷えた視線を護衛へと向け、
「口が悪い」
 とたしなめた。我が弟ながら利発で大人びている。そして可愛い。

「僕からも命じる。兄上の役に立て」
「へぇへぇ承知しました、って……いやいやマリウス殿下、探るまでもなくでっけぇ共通点があるじゃないですか」

 これはもしや面倒くさい任務を遂行するまでもないのでは、と期待に満ちた目でロンバードがマリウスを見た。

「いま殿下が口にした連中、全員が、ゴリゴリの穏健派じゃないですか」

 彼の指摘したその共通点には、無論マリウスも気づいていた。

「確かに、その通りだ」
「それ以外になにかありますかねぇ? 平和万歳、ミュラー家万歳な連中に」

 首を捻る男の忌憚のない意見に、思わず苦笑いが漏れる。

「俺はそれを知りたいのだ。穏健派という共通点以外の…………ん?」

 話しながら、また引っ掛かりを覚えた。
 なんだ。いまなにか、だいじな情報を聞き逃した気がする。
 穏健派以外の共通点?
 本当にが鍵なのだろうか。

「ロンバード」
「はい」
「いま言ったことをもう一度言ってみろ」
「はぁ……えっと、ゴリゴリの穏健派で」
「平和万歳、ミュラー家万歳、と言いましたよ、この男は」

 横からユリウスが口を挟んできた。その聡明な新緑色の瞳を、マリウスはしばらくの間無言で凝視した。
 透き通るようなその色は広い湖を思わせ、マリウスに不思議と落ち着きを与えた。
 口元に手を置き、ふむ、と唸る。

「ロンバード、喜べ。調べる対象が狭まった」
「うへぇ……調査はいるんすね」

 マリウスは男のがっしりした肩に腕を回し、耳元で指示を囁いた。
 それが聞こえたのだろう、ユリウスの目が胡乱に細められる。

「いまさら、ですか?」

 弟の疑問に、マリウスは眉を寄せ、苦く頷いた。

「俺の見当違いならばそれはそれで構わん。だが、俺の読み通りなら厄介だぞ」

 ロンバードが飄々とした調子で肩を竦めた。

「まぁそうですね。いつの世も獅子に潜む毒蛇獅子身中の虫が一番厄介だ」
「真に厄介なのは、おのれを毒蛇と知らぬまま毒蛇になった者たちだ」
しかり」

 ロンバードが顔をしかめながら同意した。
 まだ幼いユリウスはよくわからないながらも、核心を突く問いを発した。

「知らぬ間に、毒蛇の卵を植え付けられたということですか?」

 マリウスはハッとして、弟を見つめた。末恐ろしい十二歳である。
 アルファらしい貫禄を宿しつつあるユリウスを頼もしく思いながら、マリウスはしずかに答えた。
 
「それをいまから調査するんだ。ロンバード、頼むぞ」
「へぇへぇ。行方不明の団長のために、ひと肌脱がせてもらいましょうかねぇ」

 ロンバードが右肩をぐるぐると回しながら、了承の返事を寄越した。
 ユリウスが眉間に可愛いしわを作り、
「不敬罪だぞ」
 と唇を尖らせた。マリウスは笑いながら弟の頭を撫で、
「この男に礼儀など期待してはいない。だが、おまえの働きには期待している。無礼に見合う動きをしろよ」
 鋭い眼差しでロンバードを射た。

 長年クラウスに仕えている経験からか、アルファの威圧には平然と耐えたロンバードが、「御意」といまさらながらに慇懃に頭を下げるのを見て、マリウスとユリウスは同時に呆れた笑いを漏らしたのだった。
  
  
  
  
  
 

 
  
 
 
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